三日目 4/5

 シュシュが落ち込んでいるとき、ノックが響いた。

「誰?」

「睦月お姉ちゃん、入るね」

 ノックの主は、言うまでもなく皐月だった。

「何かしら、皐月ちゃん?」

「お姉ちゃん。一言言いたいことがあって来ました」

「はい」

 皐月の真剣な表情に、思わず「はい」と返事をしたシュシュ。

「お姉ちゃん。悪いけど、これだけは言わせてね」

 皐月が大きく息を吸う。シュシュは覚悟を決めた。

「もっとお兄ちゃんを信頼しなさいっ! お兄ちゃんは、睦月お姉ちゃんのことが好きなのよ!? お姉ちゃんという一人の女の子を!」

「そんな気休め……いらないわよ! 出てって!」

「嫌よ! お姉ちゃん、どうしてお化けみたいな思い込みを信じちゃったの!?」

「思い込みじゃないっ! お兄ちゃんは『兄卑』って呼ばれて、嫌な顔をした! それで十分よ!」

「っ…………」

 口ごもる皐月。

「ねえ、皐月ちゃん。私は、間違ってるの、かな……?」

 怒りを収め、大人しくなるシュシュ。


「間違ってるってか、思い込みだよ。今皐月が言った通りだ」


「お兄ちゃん!」

「お兄……ちゃん」

 皐月が喜び、シュシュが驚く。

「皐月の言ったことが合ってる。睦月、いやシュシュ。お前のその考えこそが思い込みだ」

「お兄ちゃん……私は思い込んでなんか」

 シュシュが反論しようとしたが、中断されてしまった。

 龍野が、キスを交わしたのだ。

「!? んっ、んんーっ!」

 シュシュが逃げようとするが、龍野ががっちり固めている。巨大な体格での拘束は、そう易々と振りほどけはしない。

 しかも、ディープキスだ。龍野は高い肺活量のお陰で平気だが、不意を突かれたシュシュは窒息寸前だ。

「ぷはっ」

 そんなギリギリのタイミングを見計らって、キスと腕による二重の拘束を解く龍野。

 狙い通り、シュシュはヘトヘトな状態だ。

「な、なにするのよ! 『兄卑』!」

 しばらくして、シュシュはようやく口を開いた。

「お、戻ったな。やっぱお前にはこう呼ばれてなんぼだ」

「戻ったな、じゃないでしょ! いいい一体、何てことを私に……」

「荒療治でしょ、お兄ちゃん?」

「お、正解。よく知ってるな、皐月」

「えへへー」

「私を軽くスルーしないでくれるかしら!?」

「ああ、ごめんごめん。けどお前、やっぱそれくらいトゲがある方がいいぜ。そうでなくちゃ、バラじゃねえ」

「! 私の尊号(シュシュの場合、『ローゼ』の部分。日本語で『薔薇バラ』である)をもじって……」

「ところでお前、ここまでされて、まだ嫌われてるって思いこんでんのか?」

「っ……! そんなワケないでしょ、このバカ兄卑!」

「そうかそうか、そりゃよかった! 皐月、ありがとさん!」

「え、へへ……。それじゃあ、ごゆっくりどうぞー」

 皐月が部屋を去る。

 残された二人は、世間話で談笑し始めたのだった。

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