三日目 2/5

「お兄ちゃーん! 自転車借りてきたよー!」

「よし、いい子だ睦月。ゆっくり行くぞ!」

「うん!」


 自転車を漕ぐこと十五分。

 成田駅の駐輪場に自転車を止めた二人は、念入りに鍵をかけてから成田山に向かった。

「ここでも歩くが……大丈夫か?」

「うん! 久しぶりに歩きたかったんだ!」

「なら問題無いな!」


 歩くこと十五分。

「ねえお兄ちゃん」

「何だ?」

「どうして、外国の人がこんなに多いの?」

「ん? そうだな、近くに国際空港があるんだ。そこからわんさか訪ねてくるから、だな」

「わかった、ありがとー!」

 そして二人は成田山新勝寺に着き、お参りを済ませた。ちなみにお賽銭は、二人とも十五円だった。


 さらに二十分後。

「よし、今日はこっちを通ろう」

「お兄ちゃん? 遠回りな気がするんだけど……大丈夫?」

「たまには寄り道もいいだろ。行くぜ」

「うんっ!」


「綺麗……」

「よし、押して歩くか?」

「うん!」

「ん、待て……あいつらか。睦月、スマホ出せ」

「何?」

「早く!」

「わ、わかったよ……。それで、どうするの?」

「動画撮影だ。揉め事が起きたら俺を撮れ」

「う、うん……」

 龍野が見つけたのは、昨日のナンパ男二人だ。

「あいつらもフレームに収めろよ?」

「わかった!」

 やがて二人組が、龍野とシュシュを視界に捉えた。

「おいお前、昨日の奴じゃねえか!」

決着ケリ付けるか? おおん?」

「勝手にしろ」

 龍野は服の袖を捲る。

「またハッタリか。てめえビビリのくせしてよ!」

 チャラ男が虚勢を張る。

 龍野は二人組に気づかれないように、小声でシュシュに指示した。

「いいか、俺からは決して殴らない。だが奴等は違うだろう。そうなったら、その瞬間をキッチリ撮ってくれ」

「ハッキリした指示になったね……。わかった、いいよ」

「おうおうおう、どうなんだよチキン!?」

 チャラ男が更に虚勢を張る。

「おい、やめろ! こんなことしたって何の意味も無いだろ!?」

 メガネ男が必死になってチャラ男を止める。

「うるせえ! 嫌なら近くに隠れてろ!」

「その茶髪の言う通りだ。あんたはまだ話が通じそうだからな、なるべく手は出したくない」

「ひっ!」

「隠れてろ」

 メガネ男が近くの木に隠れる。

「さて、これで一対一だが……どうするんだ?」

「こうするに決まってっだろ、ウドの大木!」

 チャラ男が拳を龍野の胸元目掛けて振り抜く。龍野は微動だにせず、その拳を受けた。

「ハッ、どうしたデカブツがぁ!?」

「睦月―、撮ったなー?」

「うん! バッチリ撮れたよ!」

「クソッ、ハメやがったな!?」

「言うだろ、短気は損気だってよ!」

 龍野が素早く足払いをかける。

「ぐうあっ!?」

「悪いことは言わねえ。今度こそ俺達の目の前から消えろ。そこのメガネ男もだ!」

「ひっ……」

「だから言ったろ、何の意味も無いって!」

 メガネ男がチャラ男をたしなめつつ、おずおずと去っていく。こうして、再びナンパ男二人組は龍野の眼前から消え去った。

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