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 御年七十歳にして、大手的場物産の代表取締役として現役で働いている的場総一郎さんは、あのチャライ色男の常盤さんとは違うタイプの社長だ。

 どっかりと構え、狼狽えず、会社を導いている。ザ・社長、と言った感じと言えばいいのか、高そうなデスクに座り心地の良さそうなチェア、傍には有能な秘書とそれから壁の飾り棚にはでかい“王将”の将棋駒が置かれているような。そんな感じの、社長だ。

 ちなみに有能な秘書は同席したことは一度もない。

「久しぶりにマスターの酒が飲みたくてね」

「ありがとうございます」

「いつもの、頼めるかな」

「かしこまりました」

 的場さんのいつもの、はウィスキーの水割りだ。二杯目からはその時の気分で決まる。


「今日は贅沢だなあ」

 二杯目に似合うな、と思いながら出したゴッドファーザーに口を付けて的場さんが言った。

「僕だけの為にお店を開けてくれたみたいだ」

 ははは、と豪快に笑う。

 けど、きっと怒ると怖いんだろうな、と思う。実際会社のトップに立ち続けているんだから、そうなんだろうけど。けど、ここに来る的場さんはいつも笑顔だ。

 社長ではなく“的場総一郎”として来店してくれる。その点は常盤さんと一緒なんだと思う。

「あ、そうだ。忘れていた」

 そう言って急に大きな鞄に手を突っ込むと、それしか入っていないんじゃないかと思うくらい大きな箱が出てきた。その箱には“クレイジードーナッツ”と書いてある。

「これ、一緒にどうかなって思って」

「え?」

 箱の中身はアメリカンなドーナッツ。しかも三つ以上あるだと?

「マスター甘いの好きだったよね? 斉藤君もそうだったよね」

 にっこりと笑って言った。時計を見る。ラストオーダーまで残り三分。こんな時間にドーナッツ・・・?

「ね? 僕が奢るから二人も何か飲んで」

 その顔はとてもとても楽しそうだ。あぁ、社長と言うのはこういう人の事を言うのかなぁと思う。人生を楽しんでにいるって感じがした。

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