王者の条件

カゲトモ

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 新規のお客様が去り、店内は静かになった。日曜の、しかも三連休の最終日となると客足が引くのは早い。

「落ち着きましたね」

 イコール、手持無沙汰になった、イコール、暇である。

 時間は日付を跨ごうとする少し手前。ラストオーダーまで残り四十分とちょっと。このまま誰の来店もなければ、斉藤君には先に上がってもらおうか。

「テーブル、拭きますね」

「よろしく」

 グラスを拭きながら答えた。斉藤君は真面目だ。

「そうそう、お土産に貰ったバームクーヘン、斉藤君持って帰る? 甘いの好きだったよね」

「好きですけど、良いんですか?」

「俺一人であんな大きいの食べられないし、貰って行ってよ。あ、あとバナナも」

「あっすみません、買いすぎちゃって」

「いやいや、斉藤君のせいじゃないよ」

 思ったより動かなかっただけ。途中でバナナが切れて斉藤君が走って買いに行ってくれていたのに。俺が頼む数を見誤ったのだ。最初に予想以上にオーダーが入ったから。

「バナナは足が速いからね」

 このまま沢山在庫を抱えていても腐らせてしまうし。かと言ってバナナばっかり食べるのも・・・。だからここは仲良く半分こだ。

「すみません」

「謝らないでよ。それよりさ、最近どうなの? 大学は」

「えー、大学ですか? 最近は」

 バイトとして長く隣に立ってくれていたとしても、仕事中は私語は出来ないし。こうやって若い子と話せるのはそうそうないし。

 楽しいなぁ。

 お客様とはまた違う楽しさ。昔、マスターの所で修業していた頃の様だ。

 カロン。

 しかしそれは突然にして一時停止にされるわけで。

「「いらっしゃいませ」」

 良かった、笑い声噛み殺していて。なんて思いながらにっこりと微笑む。斉藤君も同じだ。

「こんばんは」

 ゆったりとした足取りで入って来たのは、

「的場さん、いらっしゃいませ」

 王者の風格。そんな言葉が似合いそうな恰幅の良い男性だった。

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