最近テレビって見てる?

ちびまるフォイ

最強のアマチュアはひっぱりだこ!

「番組に参加される方はお手元のdボタンを押してください!」


番組がはじまるとdボタンを押してみた。

何か選択肢とかが出るのかと思っていたが、テレビに吸い込まれて、

目の前の風景が収録スタジオになったことで度肝抜かれた。


「視聴者のみなさんがどんどん参加しています!

 では、先着100名さまが集まったのでゲームを始めます!」


「視聴者参加って……本当に参加するの!?」


最近、テレビをめっきり見なくなっていた。

こんなにも番組が進化しているだなんて。


「これからみなさんには"密告鬼ごっこ"をやってもらいます!

 鬼は複数で、視聴者のみなさんは逃げる側です。

 最後の1人まで残ればゲーム終了。

 鬼にお互いの生存者の場所を密告して生き残ってくださいね♪」


密告鬼ごっこが開始された。

走るよりも隠れている時間が長いので、

視聴者たちは相手を先に見つけて鬼に密告する。


その中で、俺だけは生存者を実際に見つけなくても鬼に密告し

上手く鬼を誘導することで番組最後まで生き残ることに成功した。


「おめでとうございます! 今回の優勝は神奈川県からお越しの鈴木さんです!」


「いやぁ、どうもどうも」


番組が終わる前にセット裏側に牢獄を見つけた。


「あれは番組のセットですか?」

「ああ、あれね。まあ、気にしなくていいよ」



「では、また来週~~!!」


番組が終了するとふたたびテレビから元の部屋へと転送された。

翌日から地味だった俺は人気者へとランクアップ。


「鈴木、昨日の番組見たぞ! お前すっげぇな!」

「マジかっこよかったぜ!」

「テレビで見ると顔が2倍かっこよく見えるのな!」


「あはは、照れるなぁ」


「鈴木君、すごくかっこよかったよ」


「な、中澤さん……! 中澤さんはあの番組見てたの?」


「うん、大好きだから」


大好きだから……。大好きだから……。

脳内でクラスのマドンナにして俺の初恋・中澤さんの言葉がエコーする。


本当に昨日は番組に出てよかった。


それから別の視聴者参加型の番組にちょいちょい出て入ると、

ネットでも俺がタレントとして人気が出始め、

コミュニティやグループやコスプレやファンクラブまでできていた。


「俺がこんなにもてはやされるなんて……幸せぇーー!!」


今まで人数制限のある視聴者参加番組には、抽選で外れることもあったが

ファンクラブの人たちが俺のために抽選してくれる。


>鈴木さんのために出演枠確保しました!

>「バンジーグルメ!」の枠取りました!出てください!

>鈴木さんの活躍が見たいです!!


「よーーし、ガンガン活躍して中澤さんにアピールするぞ!!」


不思議と疲れることはなかった。

視聴者参加番組に出演しまくって睡眠時間がなくても平気。

ほとんど食事を取らずに番組に出演しまくった。


気がつけば知らない人はいないほどの知名度になっていた。


「鈴木君、最近どの番組でも見るね。本当に有名人って感じ」


「あはは。やっぱり? もう1日何十本もこなしているからね。

 俺のファンが勝手に出演番組を予約しちゃうんだよ」


「そうなんだ、大変だね。なんか……遠くに行っちゃった気がする」


「え? ど、どういうこと……?」


久しぶりの学校で中澤さんと話せたかと思いきや、雲行きが怪しくなっていく。


「最近の鈴木君は番組に慣れたのか、スマートな活躍ばかりで……

 でも、私は最初のころの頑張ってる鈴木君が好きだったな」


「うそぉ!?」


雷に打たれたような衝撃だった。

こんなにも中澤さんにアピールするため頑張っていたのが裏目になっていたなんて。


その日、俺はファンの人たちが勝手に作っていた公式?サイトにコメントを掲載した。



――――――――――――――――――


【鈴木、活動休止のご報告】


一身上の都合の為、視聴者参加番組への参加を休止いたします。


今後の番組参加は、自分で参加した番組のみとします。


勝手に出演予約したりしないでください。


――――――――――――――――――



「これでよし。中澤さんにまた気に入ってもらわなくちゃ意味ないからな」


活動休止報告は主にネット上で反響を呼んだ。

なおも出演予約するファンは後を絶たなかったが、俺はけして出なかった。


ある日の学校帰り、コンビニでテレビ雑誌を読んでいると

今夜の番組に目を引くタイトルが載っていた。



『密告鬼ごっこ2』



「こ、これだ!! これこそ俺が出演する番組だ!!」


中澤さんが好きな番組にして、俺の出世番組。

活動休止で溜めに溜めたエネルギーをここで解放するときだ。


その夜、番組がはじまる30分前からテレビの前でスタンバイ。


「この番組は中澤さんもきっと見ている……!

 ぜったいに参加してまたかっこいいとこ見せるぞ……!」


番組開始1分前。

リモコンのdボタンに親指をかける。



――ピンポーーン


「鈴木さーーん。ネコグロ宅配便でーーす」


「こんなときに!? くっそ! タイミングの悪い!!」


慌てて玄関にダッシュして急いで印鑑を押して荷物を受け取る。

あわててテレビの前に戻るとすでに番組ははじまっていた。


「やばい! 早く出演しなくっちゃ!」


と、dボタンに親指をのせたとき、すでに画面の中に自分がいることに気付いた。


「なんで俺が……もう番組に出てるんだ……」


あっけにとられながらも思わずボタンを押してしまった。

テレビから番組へと移動すると、同一人物が2人並ぶ事態になった。


「カットカット!! いったん止めて!!」


すぐに番組プロデューサーはカメラマンに指示を出す。


「ちょっと君、困るよ。メイン人間がいるのにサブまで来られちゃ

 絵面がわかりにくくなるでしょ」


「メイン? サブ? 何言ってるんですか?

 というか、どうして俺が2人いるんですか!?」


「え? 君知らないの?」


プロデューサーは目を丸くした。



「1度、番組に出て元の場所に戻れるのは電子人間、つまりサブ人間だけ。

 オリジナルの人間は番組の中に取り残されるんだよ。


 あ、でもサブ人間になっちゃえば食事も睡眠も休憩もいらないから便利でしょ?」



セット裏に備えられている牢獄には、

番組に取り残された生身のメイン人間が補欠要員として確保されていた。

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