きっと君はこう言うだろう、こんな世界など滅べばいいと

上羽理瀬

プロローグ

 こんな話知ってるかい?

 面白い話じゃないんだけどさ、ちょっと聴いて行ってよ。時間は取らせないよ、すぐに終わる。


 昔々あるところに、弱虫な勇者がいたんだって。そいつはさ、思ったことを口に出せないどころか、なんでもすぐに首を縦に振ってしまう。

 愛想笑いを振りまき、口ごたえは一切しない。そして、そんな奴に手を差し伸べてくれる人なんていなかった。

 ちゃんと意思はあるんだけどね、なかなか一歩が踏み出せなかったんだ。嫌なんだって声に出して伝えたかった。

 でもね、気持ちはすごくわかる。だって怖いもの、とても敵わないもの。だから、段々と立ち向かう心は折れていって、このまま耐え続けようって決めてしまった。


 ここで疑問がひとつ。どうしてそんな奴が勇者なんだって思うよね。

 そいつは勇者といっても、敵を倒して国を救うような立派な勇者ではないんだ。

 そいつはさ、自分自身を倒して自分自身を救う勇者なんだ。

 仲間もいなければ、武器も魔法も持っていない。あるのはただひとつ、わずかな勇気だけ。

 絶対に無理だと思っていたのにさ、下しか見ていなかった奴が立ち上がったんだよ。上を見上げて歯を食いしばって涙を流して。

 本当にね、大変だったんだ。何度地面に膝をつきそうになったか。どれほどの涙を流し、どれほどの覚悟を決めたことか。


 ……ああ、さっき面白い話ではないって言ったけど、いや確かに面白くはないんだけどね。

 それでも、きっと君もこの少年のことを忘れられなくなると思う。

 彼が乗り越えたいくつもの試練を知って欲しい。

 だから、少しだけ話を聴いてみないか……。

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