青の廃墟

月乃

青の廃墟( 1 )

 目が覚めると、一面の青。それを背に抱えて、一人の少女がこちらを見つめていた。


「ここはどこですか」


 私は問う。彼女は一言、


「知らない」


 と答えた。それでは困る。私は辺りを見渡した。



 石の煉瓦で組まれている壁には、つたが絡みついている。地面はひび割れたアスファルトに覆われていて、隙間からは雑草が一生懸命生きようとしていた。


 しかし、そんな小さな生よりも私の目に飛び込んでくるのは、一面の青。壁も、床も、天井も、全てが青に染まっているのであった。どうやら、外は相当な快晴のようだ。目が覚めるような青空を、割れた窓ガラスの破片が反射して、部屋を青く染めているらしかった。


(ここは、青の廃墟なんだな)


 すとんと、私は納得した。この状況を受け入れる他ないと判断したのだ。となると、次の疑問は、先程から私を穴が開くほど見つめている一人の少女だ。


「君は、誰ですか」

「私は、人間」


 そうじゃない、と私は思う。君は何ですか、ではなく、誰ですか、と言っているのだから、名前を言うのが普通ではないだろうか。随分めんどくさい人のようだ。


「君の、名前は、なんですか」

「私の名前は」


 簡単に答えられそうな質問だが、少女は口ごもる。


「私の名前は、わかんない」


 はて。これを、記憶喪失と言うのだろうか。少女の外見を眺めてみる。髪は、一昔前に流行っていたようなおかっぱ頭。最近は、ボブヘア、と呼ぶ筈だ。そして、少し変わったデザインのセーラー服を身にまとっていた。外見だけ見ると、私立高校に通っているお嬢様、と言ったところだろうか。しかし、だとしたらもう少しまともな受け答えをするだろう。


 この際名前はどうでもいい、と私は少女に話しかける。


「君は、どうしてここにいるのかわかるかい」

「目が覚めたら、ここにいた。横に、貴方が倒れていたから、目を覚ますのを待っていた」


 少しはまともな受け答えもできるようだ。しかし、これは困った。結局、ここがどこなのかも、彼女が誰なのかも、わからないままになってしまった。とにかくここから出なければ、と私は体を起こした。そして、気づく。


 右膝がどくどくと熱を持っている。どうやら、何かの拍子で擦りむいてしまったらしい。思わず立つのを躊躇していると、少女がゆっくりと近づいてきた。そして、ポケットをがさごそとまさぐる。


「良かったら使って」


 と言って、絆創膏を差し出してきた。意外といい人なのかもしれない。ありがとう、と素直に受け取る。しかし、このまま貼っていいものか。消毒はできないにしても、せめて洗い流すくらいはしたほうがいいだろう。


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