第69話 魔王と結婚した若人

「魔王さま、どうやら悪魔王なるものが誕生したらしく」

「悪魔王セイカリテルだな訊いている」

「さすが耳が早い、人間界のことに精通していらっしゃる」

「あらゆる出来事は魔術の範疇だからな魔族として理解した」

「では悪魔王をどうしますか?」

「悪魔王、タダで置いておくのも邪魔な名前だな、

 これより魔王ザザリアンは悪魔王セイカリテルのもとへ行き暗殺する」

「ザザリアン様、できますでしょうか」

人間を娶った魔王というザザリアンは自らの派閥が安定しないことに、

焦りを感じていた、ヘビュートより遠くの地で覚醒したものの、

今、着手しなければ、永久に悪魔王セイカリテルにはかなわぬだろうと、

「なあに、私には瑛出光昭がついてるではないか、そなたのチート能力があれば、

 悪魔王とてきょうふにあたいしない、だろ光昭?」

えいでみつあき、なる人間こそが、魔王ザザリアンが娶った男である。

「しかし、まあ、私の力というのは本来魔王を倒すべく与えられたものです」

「でもそのチカラを悪魔王を倒すのに使うなともいわれてはおらんのだろう?」

「そうといわれればそうですが、まあたしかに」

異世界より転生した瑛出光昭にとっては魔王にいきなり娶られるということも、

可能であったなら、悪魔王もどうにかできるのではないかという。

「私一人の力ではこの地から這い出ることもよう出来んからな」

「魔王さまはいつだってお目覚めがおそうございますからね」

「いうな、まあ、仕方あるまい、朝日が眩しゅうてかなわんのだからな」

「それで魔王さま、準備が出来次第、そのセイカリテルとやらの前へ瞬間移動して、

 暗殺すればいいのですよね、たしか」

「そうだな、そのようだが、できそうか?」

「瞬間移動ならお手の物ですが、戦いは魔王さまの法がおとくいでしょう?」

「だな、ならばそのようにしようか、では転移陣は任せたぞ、余は準備がある」

「はっなんなりと」


悪魔王とはまた別の魔王ザザリアン、

「悪竜騒ぎの次はこれか、この世界もただでは回っておらぬという証拠じゃな」

装備を整えると、鏡を前にしてもの考えに尽くす。

(文士という輩が、社会全体に広まってから、何もかもが、そのものらの好きになっているという噂まである、これは何としても戦い勝って、セイカリテルの軍団を奪わなければならないじゃろうな)

「まおうさま、準備は出来ましたか~?」

「まっまだじゃ光昭! もうちっと待っておれ」


魔王ザザリアンの装備はヤリ、そのヤリがあればどのようなものも一撃で貫き通すことだろうと怖れられる名槍であるが、現世に召喚された時よりまだ、敵とたたかった数も少なく、充分な確証もないままである。 もちろん、成り上がりの元悪魔セイカリテルなどには負けぬだろうと、ザザリアン自身は考えているものの。

(何事も余の気持ち次第じゃ、どのような戦いであっても、な)

「魔王さま」

「瑛出光昭、準備は整った、ゆくぞ」

「はっ」

魔王夫婦は瞬間移動の能力でヘビュートにある悪魔王城までひとっ飛びである。

その内部にある本丸、悪魔王セイカリテルが寝所の前にまで確かに入り込むことが出来た。

「やったな光昭、あとはわしにまかせておけ」

瑛出光昭はただ、ザザリアンがどのように戦い抜くかを、

見守ることしかできない。

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