第56話 わすれろ

山を越えて歩く過程にあった出来事なんて、

わすれちまったい。

「ふうふう」

都心で起きた出来事がどうにせよ、

アシ動かして逃げないといけないのは確かだ、

誰もがみな生きて辿りつけるところまでいく、

「あんなもんどうしろってんだよ」

気付いた時には巨大な竜が街を都市を王国を飲み込んで、

ひとつの山を築いていたのだから、逃げるより手が無い、

「あんたもこっちのほうに逃げてきたのか?」

「あっちじゃ火の手がひどくてほとんど助からんかったよ」

悪竜が現れた、たったそれだけで生活は大きく変わってしまった。

「隣国の支援を受けるより他ないよな」

「あっちに家族がいるから、それづてにいくことにするよ」

皆が皆、周りの環境の変わり映えから一人一人さっていくことを決意した。

「あの爆発、味方が攻撃してくれてるらしいんだが」

「足元のこと考えてるのかね?あれじゃ人殺してるようなもんだぞ」

悪竜が要る場所は都心、退避も出来ないままの状態での攻撃がいかなことを、

引き起こすかわかったものではない、

「市民のことを考えないんじゃユジリアも終わりだな」

「なによりあの悪竜の居る場所、王城のすぐそばじゃないかい?」

「なんてこった、王様がおっちんじまったってことかい?」

「どうなるんだ、これからおれたち?」

「さあなモヒカあたりから船で国外に逃げるっきゃないかもな」

取るものもとらずに逃げてきた市民には手持ちも無いこともあり悲惨である。

「引き揚げ船っても、アテがねえんじゃどうしようもないぜ」

「みんな! ギルドの親方たちが恵んでくださるそうだぞ!」

「なんだって!! そいつはありがてえ!! いこうぜ!!」

何とか人員を割いて作った暫定的な民間による支援が細々と行われている位であり、

「ありがとうな!これで山を越えて、あの憎い悪竜を見ずに済むぜ!」

「みんな、ともかく山越えをして隣国まで逃げるぞ、魔法は続くか?」

「魔力はほとんど残っちゃいねえが、脱出のために使ったやつらが大勢いるぜ!」

「それならいい、魔術ギルドの仲間で魔法で先に行って必要なものを調達する」

「魔力が続く市民は一緒に集って、移動の助けをしてくれ!」

かくこうして瞬間的に移動することも可能になる魔法の力もあって、

被害は大きいものの、魔法使い率の高さから、助かる人間も多くあったことで、

「これならなんとか立て直せそうだな、隣国には魔法使いの人でも足りてない、

 うまいこと職にもつけるだろう、皆ではやく国境まで行こう!!」

一歩一歩確実に次の宿をとり、そのまた次の宿をとりと続いていく足並み、

「ギルドメンバーがかき集めたかねで道中の宿は取れてる、くわしくはこの経路図を見て次の人に伝えてやってくれ、宿が空いてなくても、家を空けてもらえてもいる」

先に先に行くんだ、ともかくも、身ぐるみ全部ひっくるめて先にな!

「女、子供、老人には優先的に道をゆずるように、魔法使いの規範に掛かっている」

「われわれが荒くれではなく大国魂を持ったものだということを知らしめるのだ」

「皆前へ、まえへ、はやく進んでいけるように、移動魔法を使えるものは前へ出ろ」

「道中、問題が無いようにな、鬼門は越えた、あとは国との手続をギルドが行う」

「魔術ギルドは各国にある、むこうも迎えてくれるそうだ、皆、進めすすめ!」

ひたすらに列をなし進んでいく後ろで悪竜の咆哮が聞こえるが、これを訊かぬものとして、さらに前へ進んでいくことで遠ざけることもできた。

 空間転移の魔法を使えるものはいち早く危機から逃れて、先に、他のものたちに情報を提示する役割をかってでて働いていた。

 ユジリア本来の強さともいえる魔術ギルドによる魔法の流通が、民間住民のいち早い退去に役だったのである。

「あとは、まだ、都心に残っているものを助けるぞ! 救急隊はわたしと続け!」

魔法力の残ったつわもの達が、悪竜に侵された大地から住民を救出するべく、

集い、一歩前進し、そのたびに民間人の安否を確認する。

 空間把握能力を得る魔法で生命反応を調べ、生きているものの魔力を頼りに次の、助けを求める人へ、人へと確実に救助の環は広がっていき、治癒魔法の使えるものによる、臨時の施療院とテントに傷病者が運び込まれ、急速治癒がなされて、確実に命を救っていく。 「ありがたい!ユジリア万歳!」

「魔法の力が残る限り、他の市民を助けるのだ! 続けろ続けろ!!」

危機に際し、初めてそのチカラが試されて命の駆け引きも行われる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る