第27話 呼吸

吸ってはいてを続けるマシンと化した、

聞こえたことをまま描くことができるなら、

あたまに思い浮かべたことをまま描くことも可能。

十歳の子供がはしゃぐ玩具が何かは知れず、

自転車に自由を得て走り続けるところにも呼吸があり、

見えてくるもの全部が呼吸に変化していく、

生きているのか死んでいるのかさえ定かではない、

ただいえるのは呼吸だけがあるということ。

 何かを物語るに充分だろうか、どうだろうか?

タイミングが悪ければまた崩れる。時間が過ぎていく。

眠気が呼吸を支配していっても、

えんえんと呼吸だけは続いている。

吸ってはくだけのマシン、

よりおおくを取り込んで、体を効率的に維持する。

それだけのことをずっと続けている。

身体があるという事だけが知れる、

保持されてる全身がしびれてきているのも知れる。

分かるということを放棄してからずっと考えだけが残る、

ずらりと並んだ文字列が余計な眠気をさらに誘う、

どれもが意味を為していない、

新しい話をしようかと考える。

またその文章をむしゃむしゃと咀嚼する。

かみしめる。味が無い、なにかをやったという感覚も薄れる。

「力が失われているようね」

そのとおりである。文章に力が失われ、

何を物語るのも扱いが難しい感覚と環境、

必要最低限のことしか出来ない人間に与えられた力は、

本当に小さく薄いものである。

「とりもどしたい?」

牢獄、牢屋に放り込まれた感覚は無力な自分に刻み込まれ、

周りの人間が持っている当然の語る力がまったくなくなった、

状態に達したことが知れた。

「目で見えるものがなければ語れない」

「耳で聞いたことじゃなければ歌えない」

「口で味わったものじゃなきゃ食べれない」

「鼻で嗅いだことのあるニオイじゃなきゃ分からないわ」

文士にとって必要なものは全てを知ることであり、

知ったように語ることではない。

「あなたは悪竜使い、悪竜を意のままに操ってみせた」

「無論、文士ならそれは誰にでも出来る事だ」

「ならどうしてわたし達の為に悪竜を働かせないの?」

「文士をやりたいのならお抱えの文士を使えばよかろう?」

「そうね、だけどあなたほどうまくは使えないでしょうね」

「だってトンベンマガスガトリクトの名付け親は貴方でしょう?」

悪文を紡ぐ才には長けていた。

 短い文章で物語を描くことだけを繰り返せばいいのなら、

 そんなに難しく考える必要も無い。

やまから落ちてきたサジィエをやまに戻してめでたし。

海から出てきたクィンクを海に戻してめでたし。

森から出てきたレンィズを森に戻してめでたし。

短い文ならばすべてが一件落着問題なくおわる。

それが長く長大になった時、あちらこちらで起きた事象を取りまとめる、

そんな力を要求されるようになった。

「二行で示しなさいそのチカラを」

海から現れたレンテクゴライアは海の水を飲み巨大になったゆえに、

陸に上がれるだけの陸が無かったことも災いして陸が崩壊したおしまい。

山を割って現れたシンセイクズイアは大地を揺るがし全ての建物を、

破壊して人類から文明を奪い去っていき、やがて皆が野垂れ死におしまい。

森を喰って現れたサンセムササテルゼクはすべてに物言いを続けて、

やがてすべてのものになりかわって、我々を支配することとなりおしまい。

「そうよ、充分チカラを発揮できたじゃない」

「つまらん」

「次は三行でそのチカラを示しなさい」

ラバタイトアーネリアデンスは全ての物語を見つめ続けて涙し、

やがて物語の中身を動かせるようにすらなったが、自らも、

物語に入りたいと願った故に一冊の本となり閉じられてしまった。

クレキノハシャーマテゥックはやがて現われるであろう火の神、

イシンゲッティエルベルベとの戦いに備えて、ヤリを鍛えていたが、

そのヤリを鍛える時に使った火こそが火の神であると知り焼け死んだ。

コイチャーノベルシフォンゼは悪魔を呼び出し、すべてを放棄したが、

その人生すべてを悪魔がやりなおした為に、死ねず、生きながらえ、

やがてすべてを悟らされることとなり悪魔に何もかもを奪われた。

「よく出来たじゃない、数の遊びなのよ文章はね、

 数さえ揃っていればそれがどんな物語であっても充分読めるもの、

 だからあなたには文士として数を揃えてほしいのよ」

「なにをだ?」

「悪竜を、よ、悪竜の数が無ければせっかく作ったものの扱いが、

 うまくいかないで困ってしまうじゃない、ねえ?」

「・・・・・・」

「次は四行でその力を示してみなさい、

 失われたものがよみがえるまで続けるわ」

グジオルガナミンテザはすべてを呼び出す秘術にして禁忌、

これを覚えた魔法使いアントムは命をつけねらわれるも、

旅先で知り合った剣の使い手の姫に助けられて秘術を護りぬく、

やがて新たなる魔術を構築しグジオルガナミンテザを封印することに成功した。

ガンジュゥムセケッテエルベスは無限の剣を持つ刺客にして、

我々の両隣から怒鳴り声をあげてくる危険な存在であったが、

槍使いジジシジジシジジシジの働きによって、無限の剣は断たれ、

代わりにガンジュゥムセケッテエルベスを埋めて無限の封印とした。

カルドライトアンデムセセッケシンジントスは魔神の力に目覚め、

すべてのものを飲み込まんとする勢いで噴煙をあげ、地球に猛接近したが、

義の神アンドンセセラガイトの圧倒的な力を前にひれ伏し、永遠の従属を

誓い、地球の衛星として太陽の進攻を防ぐ役割を果たす第二の月となった。

「よく出来たじゃない一行二行三行四行まできたわね、次は五行で示すときよ」

「何の意味があると?」

「五行で示すことによってさらに展開が増すのよその次は六行になりやがてってね」

「文章を展開させることを求めるのか貴様は」

「あたりまえよ、一等文士さんの仕事はそれでしょうに?」

 名剣エイデファイシャルをかまえし勇者アルビーは魔王デンィザに挑みかかる、

2人の戦いは大地を震撼させ遠く野原の悪魔ズゥンの心臓をドキリとさせるが、

やがて収束していく光のなかでアルビーとデンィザはお互いの持つ得物をぶつけ合い、この世界全体に波及していく光は夜を照らし、朝日に変わりしとき、

アルビーの剣がデンィザの心臓めがけて突き刺さり世界に平和が訪れた。

 超人オガタナは全身を鍛えに鍛えぬいて鋼の光沢をもつ心身を得た、

そのカラダすべての武器をはじく無敵無双の鎧にして何ものも敵わぬ超暴力を備え、

向うもの手向かうもの一切の骨を砕き、意志を挫き無きものに変えていく、

やがてオガタナの身体は死にゆく者の血しぶきで洗われ魔のオーラに包まれていく、

超人オガタナは鍛えぬいた体を抑えることが出来ず爆発四散し、一本の剣となった。

 農奴ヤージは毎日のように田畑を耕し、種をまきせっせと働いてきたが、やがて、

嫌気がさしたのか、一本の稲わらを弄って遊ぶことに呆けていた。 だがその一本、

稲わらが語りかけてきて、「われに火をつけて吸えさすれば」というものだから、

さっそく火をつけて吸ってみれば胸をすっとする煙が包み込み安堵が与えられた。

 それからというもの農奴ヤージは働く際に一本稲わらを吸うことが習慣となった。

「よく出来ました、悪文を垂れ流し続ければ、それが悪竜に変わるわ」

「くっいつまで続けるのだ?」

「次は六行式ね、耐えられるかしら?」

 炎の使い手、エンドオムリは炎を手から繰り出してはこれを飲み込むことを続け、

鍛錬に鍛錬を重ねた結果、口から火を噴くこともたやすく出来るようになった。

 やがて周りの人間からドラゴン、エンドオムリドラゴンと名付けられ、

その炎の息はエンドオムリドラゴンブレスとしてすべてのものを焼き尽くすとさえ、

噂されるようになった。それを訊きつけた王はエンドオムリに鋼の鎧を着た戦士を、

焼き尽くせと命じた、エンドオムリは炎を操って鋼の鎧を炎の鎧に換えてしまった。

 「それで?」

 「悪文か!」

 水の使い手、シンジャンクライユェは水を飲み続ける力を持っていて、無限ともいえる水を一気に飲み干しては指先から放つ脅威超人技を誇っていたが、その水しぶきが、目に入った、アルジィヌ姫が怒り、水の使い手に湖の水すべてを飲み干して、持ってくるようにとお触れをだし、出来ぬ場合は死罪とした、された方はたまったものではないが、湖の水を早速飲み始めたシンジャンクライユェはやがて本当に飲み干して歩きだし、姫の住まう城を城下ごと吐いた湖にひたして水攻めにして困らせた。

 「あと一言が欲しくなってきたでしょう?」

 「くっ」

 風の使い手、クリスベリカリスは風を起こす能力を持っていて、帆船をその風で進ませる等、自在に風向きを操ることに長けていたが、超大国の大船団が自らの郷里を襲うと知って、風を嵐に換えて大船団を全て大破させてしまったということで、その罪を知った風の神は、クリスベリカリスを永遠に風に押し流されて飛んでいく罰を与えて、風の使い手は風そのものに翻弄される一枚の布のように押し流されて、遠のく世界を思い描くこともままならぬまま、その一生を終えた。

 「今日のところは充分ね、次は七行式から十行式が待ってるわ」

 「私に文士見習いの真似をさせるか!?」

 「あなたが充分な文章が書けないことはよっく知れてるの、

  いまからトレーニングをしてあげると言ってるんだから、

  ありがたく引き受けなさい」

牢に繋がれた囚人は答えることが出来ないまま、ただ、事実のみに向き合うことを。

続ける事となった。

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