ドライブ
木谷彩
1997/06/08
海をゆっくりと眺めたことなど、久しくなかった。
南知多の、穏やかな伊勢湾。彼方には鈴鹿の山なみ。
夕日なのに、なんだか荘厳な朝日ってかんじ。
思わず持っていたデジカメのシャッターを切る。
あの人が、この夕日を見ていたらいいな。
そして願わくば。
もう一度、僕の左側で一緒にこんな素敵な景色を共有できたら。
年甲斐もなく、ちょっと涙腺がゆるみそうだったので、
おしゃべりな僕は下手な冗談を言う。笑ってくれた。
わざわざつきあってくれた同僚には悪いけど、
何度も何度もあの人の名前で呼びそうになる。
夕日には浄化作用があるのだろうか。
僕としたことが、なんだかおかしい。
今、僕の呼吸した二酸化炭素の一粒でもいいから、あの人に届け。
風はさわさわと流れていく。
遠くに住む、あの人のもとへ。
ドライブ 木谷彩 @centaurus
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