邪気全消しの旅

からあげ餅

第1話ここは日本

アウル百年。

 私は、クリーム色の髪を一つに束ね、黒いパーカーの袖をまくり、家の外で窓を拭いていた。

 私は、八年前からここアスト家の養子である。

「アリナ、お昼にしよう。」

 玄関から義母が顔を出した。

「いやぁ、アリナがウチに来て良かったよ、ホント。」

 義母がそう言いながら家の中に入る。

 私の父は有名な弁護士で、母は元剣士。姉は超有名な剣士である。

 跡継ぎは昔から姉と決まっていたので、私は養子としてアスト家に来た。

 ここアウル国では、男は学力優先、女は体力優先で、跡継ぎは男でも女でもどちらでも構わないことになっている。

「ほう。窓の掃除か。」

 振り向くと、姉上が立っていた。腰まで伸びる髪を束ね、腰に二本の剣をさげている。

「久しぶりです、姉上。」

 姉上は一か月に一度、こうして顔を見せに来る。

「トマラの森に行って来た。」

「え、トマラの森、ですか?ここから近いし、木の実も美味しいのでよく行くんですけど……。」

 姉上は日常に住みつく邪気を取りはらう剣士。邪気は闇のように黒く、目と口があり、両掌に乗るサイズである。

「つい最近になって急に邪気が出たみたいでな。それも、百匹ほどだ。」

 邪気の元は人々の溜まったストレスだと言われている。一匹や二匹ほどなら問題ないのだが、何十匹にもなると体調が悪くなる。そのため、剣士たちはほぼ毎日鍛錬をしているのだ。

「全部倒したと思うが、まだ邪気が残っているかもしれないから、トマラの森に行く時は気をつけろよ。」

 姉上がそう言って、この場から立ち去ろうとしたとき。

 私の足元が真っ黒になり、やがて私の体が吸い込まれた。

 その真っ黒な穴のようなものは面積を広げ、姉上の体も吸い込まれた。

「姉上っ……。」

私はまだ自由な左手を伸ばして、姉上と手をつないだ。

そのぬくもりに少し安心すると、視界が真っ暗になった。



「アリナ、アリナ!」

 目が覚めると、姉上が私の名を必死で呼んでいた。

 起き上がると、見たこともない硬い地面と、空へ延びる高い建物に囲まれていた。

「姉上、ここは……。」

 トマラの森でも、都でもない。見たことなどないこの景色が、私を不安にさせる。

「ここは、アウルじゃない……。」

 左側の建物に、貼り紙が貼ってあった。そこには、「この国、日本を変えてやる!山里京子」と書いてあった。


 私たちは、日本という国に飛ばされていた。

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