第2話 目覚め



「ううーん、うーん」


 少女はベッドの上でもがいていた。


 肌触りの良いすべすべのシーツに、重さを感じないほど柔らかなお布団。


 そこに包まったひとりの少女。額に玉のような汗をキラキラさせながら、表情は何かに怯えるがごとく、苦渋に満ちている。


「うーん、うううーん」


 寝返りを打つ。何度か繰り返している内に、遂にベッドの端まで転がってきて、少女は床へ落ちる。


 ボテッ。


「痛たた……っつー」


 思いっきり頭を強打して、おでこをさすりながら、ゴロンと仰向けになる。


 視界の真正面には、見たこともないキレイな白い天井。目を少し左に向けると、天蓋付きの、映画にでも出てきそうな豪華なベッドがある。


「ん……?」


 まだしっかりと働いていない頭で少女は考えた。ここはどこだろう?


 幸いなことに「自分が誰か?」というところまで記憶を失ってはいない。でも、一体なぜ自分がこんな知らない部屋の高そうなベッドで惰眠を貪り、そこから転げ落ちた挙句、床に這いつくばっているのかが分からない。


「あら、目が覚めたのね?」


 優雅で上品な声が突然聞こえて、少女はビクッとして上半身を起こした。


 ベッドの脇には一脚の椅子が置いてあり、そこにヒラヒラのフリルが満載の優雅なドレスを着たひとりの女性が座っていた。


 女性は椅子から立ち上がり、少女の方へと近づいてくると、手を差し伸べながら心配そうな目をした。


「大丈夫? 立てる?」


「あ、はい……大丈夫……だと思います」


 少女はいつの間にか着ていた、ピンクのネグリジェの上から体を触って、どこにも怪我がないことを確かめる。


「私の名前はフィーネ・フリック。フィーネと呼んでね」


 ニコリと笑う笑顔が眩しい。少女は思わず目を細めた。そこでフィーネが、まだ手を差し伸べていることに気がついて、慌ててその手を取って立ち上がる。


「あ、あの私は望月……」


「知ってるわ。望月 結衣さん、でしょう?」


「え?」


 フィーネは相変わらずニコニコと笑みを絶やさず、真っ直ぐ結衣を見つめている。


「外国の方ですか? それにここは……」


 結衣が見る限り、フィーネは日本人には見えない。金髪の少しウェーブの掛かったロングヘア。白い透き通るような肌。青い瞳。


 海外映画やドラマに出てくる女優のような容姿に、結衣は思わず見惚れてしまい、頬を赤くした。


「ここは、ね。外国……と言ったら良いのかしら?」


 フィーネが少し頭を傾げて考え込む。


 やがて教師が生徒に教えるように、人差し指を立てて笑顔で言った。


「あなた達流に言えば、ここは『異世界』って言うのかしら?」


 はい?

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