#4 俺の人生最後の瞬間は
「それじゃあ、もう一度注意事項、確認しますんで、よろしくお願いします」
主催者が拡声器で俺たちに説明を始める。
「ええっと、警備のほう、警察官が誘導してくれますので、必ず指示に従ってください。それと、行進は一車線だけですのでくれぐれもはみ出さないように――」
今日のデモは駅前を出発してAIを搭載した対人攻撃用のドローンを製造し、輸出している会社の工場が目的地だ。そこで抗議文を読み上げて、解散する予定だった。
説明を聞きながら集合場所に集まっている人たちの間を何気なくさまよっていた俺の視線は、ふと、ある人物で止まった。
年齢は三十代後半くらいだろうか、サングラスをかけて野球帽をかぶった男性がきょろきょろとあたりを見渡している。五月の大型連休第一日目の今日は晴天に恵まれて気温は高い。それなのに、丈の長いコートを着ている。
目が合った。いや、向こうはサングラスをかけているから本当のところはわからないが、なんとなく目が合った、と思った。
その直後、男はそっと集団から離れていった。
怪しい。
さっきのコトミとの会話がよみがえる。
まさか。
しかし、そのまさかは起こった。
突然集団の後方で悲鳴が上がる。
気が付くと俺の体は激しい衝撃とともに吹き飛んでいた。
視界が激しく回転し、アスファルトに体が叩きつけられる。
視界の隅で、たくさんの人を跳ね飛ばした車が近くのコンビニエンスストアのウィンドウを突き破って停止したのが見えた。
遠くのほうで大きな爆発音が響く。
周囲は騒然としているが、まるで水中にいるみたいに音がはっきりと聞こえない。
そんな俺の耳に、コトミの声が聞こえた。
「どうしよう……。課長、しっかりしてください――」
どうやらコトミは無事だったみたいだ。
よかった。
その思考を最後に、俺の意識は遠のいていった。
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