#4 もしかして先輩は

「といったはいいけど、ノリちゃん、どう思うよ?」

 私とリンコちゃんは例によって『シカゴ』にいた。

「私、スグロ先輩のことずっと考えてたの。どうして先輩は依頼を成功させることができるのか。どうしてこれから起こることを予測できるのか」

「それは、『マスター』だから……って答えになってないね」

「ううん、その通りだと思う。じゃあ、どうして『マスター』になれたんだろう」

「ノリちゃんは、何か考えがあるんだね」

 私はうなずいた。

「これはあくまでも、私の推測なんだけど……」

「うん」

「先輩は……」

「先輩は?」

「先輩は、予知能力があるんじゃないかな」

 リンコちゃんは、ぽかんと口を開けて、そのあとがくりと肩を落とした。

「もー。ノリちゃんってば。真剣に聞いて損しちゃったよ」

「私は真剣だよ」

「そんな……。いくら私たちがSF研究部だからって、そんなのあり得ないよ。漫画や小説じゃあるまいし」

「でも、そう考えると納得がいくの」

「それは……そうかもしれないけどさ」

「私のときも、タカナシ先輩とユウコ先輩が付き合うことになるってわかってたんじゃないかと思うの。だから、私にあんな指示が出せたんじゃないかな」

「なるほど……って、いやいや、そんなわけないよ。だって、仮に先輩に予知能力があるとしたら、ノリちゃんとコボリくんが付き合うことになるのも知ってるよね。でも、先輩はそんな感じじゃなかったよ」

「それは……予知できることとできないことがあるんじゃないかな。わからないけど」

「まあ、とにかくノリちゃんの説によると、スグロ先輩には予知能力がある。その能力によると二月十一日、イサミの身に何かよくないことが起こる。そういうこと?」

「そう」

「よくないことって、なんだろう」

「先輩、いいたくなさそうだったね」

「事故、病気、天災」

「わからない」

「まさか殺人事件に巻き込まれるとか」

「さすがにそれはないと思うけど、まあ、例えばね」

「仮に殺人事件だとしようよ。もし予知能力があるんなら、その犯人を前もって捕まえちゃえばいいじゃん」

「捕まえるって、どうやって」

「警察に通報する、とか」

「そうじゃなくて、まだ犯行に及んでないのに、どうやって捕まえるの」

「あ、そうか」

「全部私の推測だから、わからないよ、本当はどうなのか。とにかく今はスグロ先輩を信じるしかないんじゃないかな」

「これまで先輩のいうことが外れたことはないからね。確かにそれは認める」

「今回、先輩の仕事を手伝うことで、先輩のことが少しはわかるんじゃないかと思ってるの」

「うん、そうだね」

「ところで、スグロ先輩って、イサミちゃんの気持ち……」

「気付いてるでしょ、そりゃ」

「だよね。まあ、イサミちゃんの場合は、リンコちゃんほどわかりやすくはないけど」

「ほっといてよ。でもさ、スグロ先輩ってイサミと付き合いたいとかじゃなくて、なんていうか、お父さんが娘のことを思っているのと似たような感じがするのよね」

「うん。だって、スグロ先輩ってほかの男子とちょっと感じが違うもんね」

 スグロ先輩は、私がこれまで会ったどの男の子とも違っている。ひとことでいうと、がつがつしていない。男の子はたいていがつがつしている。それはそれでうらやましくもある。なんて単純な生き物なんだろうって。一見おとなしい子でもそれは同じ。そういう子は表面に出さない分、内に込めたものが濃縮されていそうで気持ち悪い。

 でも、スグロ先輩はそういうのとも違う。余裕がある。だから、イサミちゃんとは合うような気がする。

「妙におっさんくさいところがあるしね」

「そうそう、さっきも」

「終日、って」

「そんなのいわないよね、普通」

「うちのお父さんだっていわないよ」

「最初にいっておく。今日は終日いっしょにいよう!」

「あはははは」

 私たちはひとしきりスグロ先輩の口真似で笑いあった。

「ねえ、リンコちゃん。私たちでスグロ先輩の謎を解かない?」

「よし、乗った」

 こうして私とリンコちゃんはスグロ先輩の助手を引き受けることになった。

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