シナリオ「distortions」

@nakazee

本編

◼️登場人物

・星野ミサ(25)…ロリータ系地下アイドル。絶賛浮気中。

・槇原 拓(29)…ライブハウス専属の照明オペレーター

・飯塚あいり(21)…ダンス系地下アイドルグループのリーダー。拓の彼女。

・須藤ヨシヒコ(33)…ミサのパトロン。


・ヨシヒコの母(57)

・音響オペレーター(42)


・地下アイドルの面々

・ファン


◼️暗

遠くから歓声と若い女性の歌声が響いて来る。


◼️ライブハウス

そこまで大きくないハコ。

サイリウムを振り回してるファンたち。

ステージ上の若い女の子たち。

あまり上手くないダンスと歌唱力。

そんな一生懸命な彼女たちをスポットライトが照らす。

観客席の奥に鎮座してる調光卓。

男性オペレーターがスイッチやスライダーを操作して、光を操っている。

カメラ、そのまま卓の下へティルトダウン。

ツインテールに結ばれた長い髪が、前後に揺れている。

小さく響く咀嚼音。

オペレーター、小さくうめき声を立てる。

腰の辺りがブルブルと震え、やがて奥からツインテールとピンクのステージ衣装の少女が顔を出す。

上目使いのままゴクリと喉を鳴らし、舌なめずり。そして笑顔。


ステージ「今日はありがとうございましたー!」


慌てて、調光卓からすり抜けていく少女。オペレーターをそれを見送りながら、シレッとズボンのファスナーを上げる動作。

横を見ると「やれやれ」と肩をすくめる音響オペレーター。機材のボタンを叩くと、いかにもアイドルソングっぽい曲に変わる。

舞台袖から登場する先ほどのツインテールの少女。

盛り上がる観客席。サイリウムが一斉にピンク色に変わる。


少女「みーんなのハートを、頂きー」


観客「ミサミサー!」


少女「聴いてください! 恋するカギカッコ!」


舞台が派手に転換して、ステージがキラキラ光り出す。

卓をいじりながら、タバコに火を付けて、冷静に眺めてるオペレーター。


照明「(声)あんなことした後で、よくもまぁ平然とファンの前に顔出せるもんだ」


アイドル然としたあざとい笑顔を撒き散らす少女(ミサミサ)


照明「(声)ま、俺が言えた義理じゃないけどな」


バイブを感じ、スマホを取り出す。LINE画面は


あいり「今日の照明もありがとね! 😆✨ 終わったらいつもの場所で待ってるね!💖」


無表情で「OK!」のスタンプを送るオペレーター。すぐに既読が付き、「だいすき」のスタンプが返信されてくる。

スマホを懐に仕舞い、ステージを見下ろす。


照明「(声)あいつの性癖を俺だけ知ってる。似た者同士だな俺たちは。ダメダメのサイテー野郎だ」


◼️メインタイトル

「歪〜ディストーションズ〜」


◼️物販コーナー

ステージを終えた女の子たちが、自分たちのグッズを売ったり、チェキを撮ったりしてる。

1000円札が飛び交う現場。


それを横目で眺めながら、客席脇の立ち飲み机に肘を掛け瓶ビールを煽る照明オペ。

声を掛ける音響オペ。


音響「おつかれー」


照明「ーっす」


瓶ビール同士をぶつけて乾杯。


音響「人気出てきたじゃん。ミサミサちゃん」


照明オペと“関係”してるツインテールの彼女。チェキ待ちのファンが列を成してる。


音響「地下アイドル板でも人気だよ。色気出てきたって」


照明「プライベートレッスンの賜物ですかね(笑)」


音響「気をつけろよ。マスターに見つかったら大ごとだぞ」


照明「アイツの性癖なんすよ。スリルがないと濡れないんですって。ジャンキーですよね、もう」


音響「ま、ほどほどにな。あいりちゃんにバレて修羅場に巻き込まれるのはゴメンだぜ」


照明「あ、ブンさん!」


立ち去ろうとする音響オペを呼び止める照明。


照明「口止め料(笑)」


USBメモリを渡す。


音響「楽しませてもらうよ(笑)」


音響を横目で見送る照明。

ビールを一気に飲み干し、ミサを見る。しばらく途切れそうにない列。

そのまま背を向ける。


◼️裏通り

ガードレールに腰掛けてる若い女。メガネに不自然なロングコート。

傍らにはキャリーケース。


女「…あ!」


照明オペに気づき、駆け寄る女。

そのまま自然に腕を組む。

笑顔の二人。


◼️ファミレス

女「でね、あのコ、やっぱりステップ間違えたでしょう? 何度言っても直らないの。もうあたしイライラしちゃってさ」


テーブルを挟んで座る二人。

女はスイーツ。オペはビール。

女のコートの隙間から青いステージ衣装が覗く。


照明「あいりは完璧主義だからな。でも客は喜んでたじゃん」


あいり「たっくんは甘い! 地下アイドルだからってね。いつまでも甘えてちゃダメなんよ! 上に行けない!」


照明(拓)「厳しいな」


胸のバイブに気づく拓。チラッと見て、すぐにあいりに向き直る。


拓「そーいやどうなった、あのオーディション?」


あいり「まだ返事ない。そろそろあたしも身を固めたいんだよね。いつまでもフリーでいたくないし」


拓ににじり寄るあいり。


あいり「それともたっくん、あたしと身ィ固めてくれる?」


拓「……(あっさりと)いいよ」


あいり「え?」


拓「指輪何号だっけ?」


あいり「ちょちょ」


拓「ご両親に挨拶に行かなきゃな。バイトいつ休み?」


あいり「っっと待って。心の準備が」


拓「なんだよそれ(笑)」


あいり「もーー! でも嬉しい。ありがと」


口元だけの笑顔で応える拓。ふと店員を横目で見て、あいりの隣に滑り込む。


あいり「え?なに?」


拓「いいから」


スマホを構える拓。自撮りの格好。

そのままあいりの唇に顔を寄せる。


あいり「え、ウソ! ヤバい無理無理!」


拓「早く」


そのまま唇を重ねる二人。響くスマホのシャッター音。


顔を真っ赤にして、拓を突き放すあいり。


あいり「もーー!」


拓「よく撮れてるよ」


あいり「知らない!」


そのまま席を離れるあいり。行く先を見送って、スマホを操作する拓。

LINEで、今のキス写真を送る。


◼️寝室

シーツの上で重なり合う二人。

白い肌に浮かぶ汗。

腰の動きと共に漏れる嗚咽。

上で動きながらスマホを構える拓。


あいり「ちょっ…! すぐ撮りたがる」


拓「綺麗だよ(カシャ)」


あいりの同意を聞かず、どんどんシャッターを切る拓。


拓「ヤバい超エロい(カシャ)」


あいり「ばかぁ」


激しく腰を振る。目をつぶり喉を鳴らすあいり。

腰を打ちつけながらスマホ操作する拓。

LINEに、今現在の情事がどんどん貼りつけられていく。

そのままカメラをビデオに切り替える。


あいり「たっくん気持ちいい…! だいすき…!」


◼️スマホ画面。

“送られて”くる動画。

カメラが離れると、LINE画面上部に「拓」の名前。

細い指が動画のアイコンを開く。

さらにカメラが離れると、ピンクの衣装とツインテールの後ろ姿。

小さく響き渡る「だいすき…!」の音声。

何度も何度も繰り返す。

暗転。


◼️朝

ベル音と共に飛び出るトースト。

コポコポと音を立てるコーヒーサーバー。

トーストの表面にバターを塗る手。

扉を開け、入って来る私服姿のミサ。

整頓された広めのリビング。

テーブルにはワイシャツネクタイ姿の中年男性。トーストを頬張っている。


ミサ「おはよー」


中年「おう。今日は早いな」


ミサ「約束あるから」


中年「そうか。いつ戻る?」


ミサ「んーわかんない。オールかも」


中年「そうか」


そのままテレビを見る中年。

玄関に向かうミサ。

一瞬、振り返り、中年の背中を見る。


ミサ「………」


◼️アパート

ガチャリと扉が開く。

はにかみ顔で立ってるミサ。


ミサ「来ちゃった」


拓「おう」


上半身裸で迎え入れる拓。


ミサ「おじゃましま〜す、な〜んて(笑)」


女物の靴が幾つも転がってる玄関先。

1DKの広くも無いアパートの一室。

枕元を占領してるぬいぐるみ。

化粧道具が散乱してるテーブル。


ミサ「わ〜女の子の部屋だね」


拓「そりゃそうだろ」


ベッドに腰掛けるミサ。乱れたシーツの匂いを嗅ぐ。


ミサ「あいりの匂いがする(笑) 何回やったの?」


拓「3回…かな?」


ミサ「残ってんの?(笑)」


拓「試してみるか?」


後ろからミサに抱きつく拓。

首筋に舌を這わせ、強く吸い上げる。

熱い吐息を漏らすミサ。

そのまま一気にミサの上半身を裸にして、乱れたシーツに押し付ける。

首筋から胸元にかけて、白い肌に次々とキスマークをつける拓。甲高い喘き声を上げるミサ。

不意に身体を離し、スマホを取り出す拓。ミサも申し合わせたようにバックから自分のスマホを取り出す。

それぞれカメラアプリと写真アプリを起動。

共にボタンにタッチ。

あいりとの情事の声が最大音量で流れ出る。

バックの体勢にしたミサの中に指を突き入れ、激しくシェイクする。

絶叫しながら動画を凝視するミサ。

指を動かしながら動画を撮る拓。


あいり「(声)たっくん気持ちいい…! だいすき…!」


ミサ「イケナイコトしてる…。ねぇ…イケナイコトしてるよ…!」


拓「気持ちいいだろ?」


あいり「(声)たっくん気持ちいい…! だいすき…!」


ミサ「キモチイイ…! キモチイイヨ…!」


激しい絶叫と共にガクガクと腰が震え、溢れ出た潮がシーツにポタポタと大きな染みをつくる。

力尽きたようにシーツに倒れこむミサ。容赦なく後ろから貫き挿れる拓。

再び室内を満たす喘ぎ声。情事をじっと見つめているぬいぐるみ。

机に置かれた写真立て。拓とあいりのツーショット。


拓「ヤベェ…いきそう」


ミサ「くち…ちょうだい…ちょうだい…!」


身を起こし、拓の前に舌を突き出すミサ。

激しく揺れる拓のスマホの画面。

詳しくは見えないが、揺れる身体と咀嚼音が響く。

やがて静かになり、撮影を停止する指。

暗転。


ミサ「本当に4回目? すごいいっぱい出たよ」


拓「ミサが気持ちいいからだよ」


ミサ「んふふー(笑)」


全裸のままゴミ箱を漁るミサ。


拓「あ、おい!」


使用済みのゴムを取り出す。

まじまじと見て


ミサ「あーあ勿体ない…。ね、飲んでもいい?」


拓「腹壊すぞ?」


ミサ「そうかなぁ?」


ゴムの匂いを嗅ぐミサ。


ミサ「へへ、あいりの匂い(笑)」


ベッドに座り直すミサ。乱れたシーツに手をついて。


ミサ「あービショビショ。ヤバいねコレ」


拓「ホントにダメ人間だよな、俺たち」


ミサ「でも気持ちよかったよ」


拓「だな」


ミサ「ね」


真剣な表情で拓に向き直るミサ。


ミサ「あたしの方が拓をいっぱい気持ちよくできるよ…」


拓「知ってる。ほら」


ミサ「もー(笑) まだ残ってるの?」


拓「試してみるか?(笑)」


近づく唇と唇。

だが、触れ合うことなく、中途な空間で互いに留まる。

ミサの耳たぶを噛む拓。


ミサ「あーん、もう」


お互い舌を突き出し絡め合う。


◼️喫茶店

ミサ「…好き…….大好き」


ノートPCのモニター、ミサとの赤裸々な情事が映し出されている。

苦笑しながら見ている音響オペ。


拓「今回のはけっこう自信作っすよ」


音響「めちゃハイリスクだな! 大丈夫なん?」


拓「ファブリーズして除湿機も全開にしたんで。大丈夫じゃないスか?たぶん(笑)」


音響「女ん家に浮気相手つれこむだけでもヤバイのに、潮吹きプレイときた。おまけに地味に人気のある飯塚あいりと星野ミサ…。ファンに殺されても知らねーぞ」


拓「その前に、あいりに刺されるかもですね(笑)」


音響「ミサちゃんのこと悪く言えねーな。俺から見たら拓ちゃんの方がよっぽどスリルジャンキーに見えるぜ?」


拓「そうすか?」


音響「自覚しろよ。そもそもさ、俺を信用していい訳? 金に困ったらこのネタ平気で売り飛ばすかもしれねーぞ?」


拓「そうなったらって想像するとゾクゾクしますよね」


音響「おう、ホンモノだ」


拓「時々想像するんですよ。今のこの状態が一気に破綻したらどうなるんだろうって。そうなったら誰が味方で誰が敵になるのか。俺の居場所はどこになるのか。ってね」


音響「想像だけにしといてくれよ。何度も言うが修羅場に巻き込まれるのはゴメンだ」


拓「わかってます。じゃあ、これ。口止め料」


ノートPCからUSBメモリを取り出して、そのまま音響に手渡す。


音響「サンキュー。パスワードは?」


拓「同じです。あれもこれもってやってたら訳わかんなくなっちゃう」


音響「確かに。この後は?」


拓「ああ、劇場(こや)に」


音響「早くね?」


拓「ネタが、ね」


音響「ああなるほど。じゃ俺はマスターがうっかり早く行かないよう見張っておくかな」


拓「頼んます(笑)」


◼️ライブハウス

真っ暗の店内。重い鉄扉が開いて人影が見える。手を伸ばし、スイッチを入れると灯る蛍光灯。

真っ白い光に照らされた殺風景な室内。

タバコを吹かしながら、調光卓に入る。

スポットライトがステージを照らす。

胸ポケットのバイブを感じて、画面を見る拓。そのまま入り口に向かい、鍵を外す。

ガシャンと防音扉の開閉レバーを開けると、ステージ衣装に身を包み、はにかみ顔のミサ。


ミサ「来ちゃった」


拓「おう」


ミサ「一番乗り〜〜」


扉を閉めるのももどかしく、抱き合う二人。

衣装の首筋を露わにして強く吸い上げる。


ミサ「あ、まって。ダメ」


応えない拓。嫌がるミサを抑えつけ、執拗に何度も首筋を吸う。

赤い花が散る白い柔肌。

強いライトの下でもくっきりと浮かび上がる。

衣装のスカートをまくる拓。


拓「約束、覚えてんじゃん」


ミサ「だって……はああッ!」


ステージの上、スポットライトの輪の中で、背後から犯されるミサ。

足元のオーディオモニターに必死にしがみつく。


拓「胸出して」


ミサ「え…?」


拓「おっぱい出して。ちゃんと」


ミサ「だれか来たら…あああッ!」


無言で腰のグラインドを強める拓。

従順に胸をはだけるミサ。

揺れる水桃のような二つの膨らみが露わになる。


拓「ノーパンノーブラでココまで来たのか? 本当の変態だな」


ミサ「ちがうもん! ちがうもん……!」


拓「ほら、何て言うの?」


ミサ「え…?」


拓「ファンの皆に見られてるよ。何て言うの?」


ミサ「嫌ああああ」


拓「ほら!」


ミサの髪の毛を掴み、顔を引き上げる拓。乳首を強く捻りながら、その耳元に囁きかける。


拓「ミサの恥ずかしい姿、全部見られてるぞ。何て言うの?」


ミサ「ミサの…恥ずかしい姿…見てください…」


拓「気持ちいいの?」


ミサ「気持ちいい…!」


拓「もっと見て欲しいの?」


ミサ「見てください…!…もっと見てください…!」


拓「どうすんの…? ファンの一人が上がってきて、ミサにチンチン出してきたら?」


ミサ「いやだああ」


拓「ダメだろ。ちゃんと舐めるんだろ? 」


ミサ「んんんん〜」


頑なに唇を閉じるミサ。


拓「ほら!」


唇の隙間に指をねじ込み、擬似フェラさせる拓。


拓「しっかり舐めるんだ。ほら、感謝の気持ちを込めて」


我を失ったかのように、無我夢中で舌を回して指を舐めるミサ。


拓「なんて言うの?」


ミサ「美味しい…美味しいれす…!」


拓「いいこだ」


さらに強く突き挿れる拓。

突き刺したまま、顔を近づけ舌を伸ばす。

無我夢中で舌を伸ばし、絡めるミサ。

激しい一突き。絶叫と痙攣。

そのままステージの床にバシャバシャと潮を垂らすミサ。


◼️あいりのアパート

ゴムみたいな白い板状の物体を引っ張る手。パチンと裏面のビニールが千切れて高い音を立てる。

そのまま足首に貼られる白い物体。サロンパス。


拓「災難だったな」


あいり「まったくだよー!」


プンスカしてるあいりの足首にサロンパスを貼ってる拓。


◼️回想・ライブハウス

あいりのグループがステージに出てくる。


あいり「こんばんわー!本日一番手! うぃー!あー!アイリスです! 聞いてくだ…!」


ツルッと滑るヒール。派手にすっ転ぶあいり。

いきなりで固まるメンバーとお客さん。


メンバー「え…だ、大丈夫?」


あいり「えー? 誰かこぼしたあぁ⁉︎」


客席で恥ずかしそうに首をすくめるミサ。

思わず苦笑する拓。

ミサ、調光ブースに目をやる。拓と一瞬目線を合わせ、そのままステージに駆け上がり、あいりの手を引く。


ミサ「あいりちゃん、立てる?」


あいり「ありがとうミサちゃん。(客に)ごめんね、コケちゃった。でも頑張って歌うね!」


ミサ「みんな拍手〜!」


◼️あいりの部屋

あいり「誰だよーあんなとこに水こぼしたのよー?」


拓「ごめんな。ちゃんと見てなくて」


あいり「たっくんが悪い訳じゃないけどさ。テンション下がるわー、お客さんの誰かがやったのかと思うとさ」


拓「わざとじゃないと信じるしかないよな。でもよかったよ。骨までイッてなくて」


あいり「ホントだよー!明日バイト休めないしさー」


あいりの足首に包帯を巻き終わる拓。


拓「はい」


あいり「ありがと」


スッと近づいて、あいりにキスする拓。


拓「する? 今日はやめる?」


あいり「もう、バカ(笑)」


自分から唇を近づけ、舌を突き出すあいり。

その舌を吸う拓。そのまま舌が絡み合い、鼻息が荒くなる。

着てるものを脱がすのももどかしく、合体する拓とあいり。

部屋に響く喘ぎ声。

戸棚に立てかけられたスマホのレンズが、その様子を捉えている。


◼️スマホ画面

絡み合う拓とあいりの映像。

showroom配信。閲覧者は自分しか居ない。

ガラスのような瞳で、じっと見てるミサ。

液晶バックライトの光がミサの顔に反射する。

パッと部屋の照明が点いて、ハッと振り返るミサ。


中年「どうした?」


部屋に入ってくる同居人の中年。スーツ姿。


ミサ「あ、ううん。なんでも」


ミサのスマホ画面を横から覗き見る。


中年「おーお、顔も隠さんとよくやるわ。本物の変態っているんだなw」


さして興味なさそうにミサから離れる男。


中年「ほどほどにしとけよ。また通信制限かかっても知らねーぞ」


ミサ「うん…。ねぇ!」


部屋から出ようとして振り返る中年。


中年「なに?」


ミサ「あたしがさ…もしこんなのに出てたら…どう思う?」


中年「ミサが?」


ミサ「…うん」


中年「それやるメリットは?」


ミサ「……」


中年「こんなハイリスクかます目的は? ミサにとって全く意味ないんじゃない?」


ミサ「…だよ…ね」


中年「どうせやるならAVの方がまだリスク少ないぞ。興味あるなら紹介するけど。でもやるなら早くした方がいいな。26超えたら何かと厳しいし」


ミサ「やらない」


中年「だな(笑)」


扉を開けたまま出て行く中年。奥から聞こえてくるテレビのお笑い番組の音声。

突然アプリ起動中のスマホを荒々しくベッドに放り投げるミサ。

背面を上にシーツに転がるスマホ。スピーカーから激しく交わる音声が響く。

苛だたし気にツインテールの頭を掻きむしるミサ。

声にならないうめき声をあげ、机に突っ伏すミサ。流れ続けるセックス音声。

不意に音が消え、女性の声が被る。


声「ミサちゃんってさぁ」


◼️ライブハウス・楽屋

狭い楽屋。隣同士でメイクしてるミサとあいり。


あいり「バイト何してるの?」


ミサ「(小声)実は…してない」


あいり「え⁉︎ 実家暮らし?」


ミサ「ううん。内緒だけど…住む所や生活費? 援助してくれる人がいるんだよね」


あいり「え?彼氏じゃなくて?」


ミサ「違う。うーん、でも世間一般的にはそうなるのかな。一緒に住んでるし」


あいり「凄いね、完全にパトロンじゃん。どこで知り合ったの?」


ミサ「出会い系。ちょっと色々と病んでた時があってさ。そのまま転がりこんで…みたいな」


あいり「はぁ…」


ミサ「まぁアイドル活動に理解はあるし、束縛しないしさ。あたしには都合いいかな。衣装も買ってくれるしさ」


あいり「あーでもいーなー。あたしなんか週4でバイト入れないと生活できないもん。半同棲してるとは言えさ」


ミサ「あいりちゃんの彼氏って?」


思わず後ろを振り向くあいり。

下ネタ談義に花を咲かせているあいりのメンバーたち。


あいり「(小声)内緒だけどさ。この劇場(こや)のさ、照明さん、いるじゃん?」


ミサ「拓さん?」


あいり「そう。拓さん」


ミサ「えーー意外ーー」


目が笑ってないミサ。


ミサ「え?どうやって近づいたの? 向こうから?」


あいり「あたしから」


ミサ「えーあいりちゃん意外ー」


あいり「あーゆークールな感じに弱くてさ。くわえタバコしてる横顔に惚れた…ってゆーか?」


ミサ「あーわかるわかる。この首筋のこの線がいいよね。あと喉仏?」


あいり「そう!そう!そうなの!」


すごく嬉しそうなあいり。ミサの肩をペチペチ叩く。

目が冷えてるミサ。


ミサ「結婚すんの?」


あいり「まだわかんない。好きだけどさ。小屋付きの照明じゃ給料もタカが知れてるでしょ? ちょっとお母さん説得できないかなー」


ミサ「…………」


あいり「それにさ。浮気してるっぽいんだよね、あのひと」


ハッとするミサ。


■自宅

女性「まだそんな格好してるの?」


目の前で腕組みしてる高齢の女性。ミサを値踏みするような目。


女性「いい歳して地下アイドルなんて。そろそろ落ち着いてほしいわ」


中年「あまりイジメないでくれよ、母さん。好きでやってるんだからさ」


母親「自分のお金で好き勝手やるなら文句言わないわ。全部トシヒコのお金でしょ?」


トシヒコ「いいんだって」


母親「あなたが良くても世間が許しません。いい笑い者だわ」


トシヒコ「…ミサ、悪いけどお茶入れてくれ。2つ目の戸棚にあるから」


ミサ「はい…」


おとなしく従うミサ。キッチンに入った途端、口調が変わる母親の声。


母親「やっぱりあたし、あのコ好きになれないわ」


トシヒコ「頼むよ、母さん」


母親「結婚は個人の問題じゃないの。家と家なの。あのコはとてもウチには相応しくないわ」


中年「いずれ変わるさ。もっと長い目で見てくれないかな」


トシヒコ「無理よ。どこまでいってもあのコ、所詮は野良猫じゃない。信用しろってのが無理な話」


中年「母さん」


トシヒコ「今まで幾らあのコに使ったの? 300万?500万? もう充分でしょ。ハッキリ言うわ、あのコとは早急に手を切りなさい」


ミサ「…どうして?」


■楽屋

あいり「んーなんとなく。たぶん家にも連れ込んでるくさい。証拠は無いけど」


ミサ「…勘?」


あいり「と言うより、匂いかな」


ミサ「(ドキッ)…匂い?」


あいり「そう。いつもの彼と違う匂い。ファブリーズかけ過ぎたみたいな、不自然な匂いかな」


ミサ「………」


ミサの首筋に顔を近づけてクンクン匂いを嗅ぎ出すあいり。


あいり「あたし、ミサちゃんの匂い好きなんだー」


ミサ「ちょっ、やめてよー」


あいり「くんかくんか(笑)」


ミサ「ちょやめ!離れろ!ぎゃ〜〜(笑)」


■ステージ上

アイドル曲(カバー?)を振り付きで歌うミサ。

ファンたちのサイリウムが揺れる。

間奏中、客席の彼方を見るミサ。

照明ブース。青い卓灯の反射で、うっすらと浮かび上がる拓の姿。

咥えタバコの横顔。

瓶ビールを呷る度、喉ボトケと首筋の線が揺れる。

口を半開きにして、それを見つめるミサ。


■想像

拓の首筋に触れ、回される手。

笑顔のあいり。触れ合う額と額。

触れ合う唇と唇。


■ステージ上

ただ見つめるミサ。

間奏が終わってるのに気付き、慌てて笑顔でごまかして歌い出す。


■路上

衣装の上にパーカーを着込み、夜の街を歩くミサ。

固い顔で、キャッチの声かけに一切振り返らない。


男の声「ミサ」


振り返るミサ。


ミサ「あ….おかえり」


トシヒコ「おう」


スーツ姿のトシヒコと微妙な距離感で並んで歩くミサ。

家族にも見える光景。


トシヒコ「どうだった、ライブ」


ミサ「まぁまぁかな」


トシヒコ「物販は?」


ミサ「三万…くらい?」


トシヒコ「凄いじゃん。無駄遣いしないでちゃんと貯金しとけよ」


ミサ「………そうだね」


トシヒコ「おっ!」


路地裏で野良猫を発見するトシヒコ。

笑顔で近づき、変な声をあげて呼び込もうとする。

無反応な猫。


ミサ「…ネコ、好きだよね」


トシヒコ「まぁな。うちのマンションじゃ飼えないからなー」


ミサ「………」


何か言いかけて、口を閉じるミサ。

そのまま逃げる野良猫。


トシヒコ「あー」


■楽屋

あいり「結婚は? する気ないの?」


ミサ「ないなー。向こうのお母さんに嫌われてるし。てか、あたしがどーこーより、向こうにする気が無いと思う」


あいり「そうなの?」


ミサ「うん。だってあたしペットだから。ネコの代わりに飼われてるだけだから」


あいり「えっ? え? どーゆー意味?」


ミサ「ほんと、そのまんまなんだよね。住んでるマンション、ペット禁止でさ。それでもどうしても飼いたくって、代わりに飼ってるのがあたし」


あたし「ええ?」


ミサ「色々面倒みてくれるのも、束縛しないのも、そう考えれば納得でしょ? 飼い猫が外で交尾してきてもキレる飼い主って居ないじゃない?」


あいり「まぁ…そうなる前に去勢するよね…」


ミサ「そう、つまり妊娠さえしなけりゃ好きにしていい。いや…たぶん孕んでも何も言わないな、あのひと」


■路地裏

逃げたネコを未練がましく見送るトシヒコ。


トシヒコ「あーあ、行っちゃった」


ミサ「野良猫だもん、逃げるよ」


トシヒコ「そうなんだよな。来れば可愛がってやるのにな」


ミサ「管理人さんに怒られて放り出すんでしょ? やめた方がいいよ」


トシヒコ「そうか?」


ミサ「もう既に怒られてんじゃん…」


トシヒコ「ハハハ」


気まずい空気のまま歩くミサとトシヒコ。


トシヒコ「ミサ」


ミサ「?」


トシヒコ「引っ越そうと思う。今より…もっと広め? なとこに」


ミサ「広め?」


トシヒコ「そう。広め」


ミサ「そう……」


トシヒコ「ミサはどうする?」


ミサ「…条件、同じって訳じゃないんでしょ…?」


トシヒコ「まぁ…うん、そうだな」


ミサ「……考えとく」


トシヒコ「そうだな」


ミサ「先帰ってて。ちょっと色々と考えたいから」


トシヒコ「わかった」


あっさりミサに背を向け、早歩きで立ち去るトシヒコ。

その背を見送り、夜の街を一人で歩き出すミサ。


■モンタージュ

夜の街を歩くミサ。

ケバケバしいネオン輝く街と、童顔・ロリータ服のミサ。その対比。


横断歩道を渡るミサ。

その前をテクテク歩く先刻の野良猫。

ミサを先導してるよう。


突然、ダッと走りだす野良猫。

あっと目線を向けた先、古びたアパート。その階段を登る拓と笑顔のあいりの姿。


ミサ「あ…」


バタンとドアの閉まる音。

二階の角部屋に灯る明かり。

アパートの表札に目を向けるミサ。

「入居者募集。敷礼2。ペット可」の張り紙。


ミサ「………」


ふと振動を感じて、スマホを取り出すミサ。

拓からのLINE。showroomのアドレス。

起動する。


女の声「えーちょっと、いきなりー?」


スマホから流れ出るあいりの声。

隠し撮り的な画角。

ステージ衣装のまま交わり出すあいりと拓。

激しくキスをする二人。

ミサの時のように突き出した舌先を合わせるキスと異なり、唇と唇を重ね合わせるキス。

ぐっと唇を噛むミサ。カーテンのかかった二階窓の真下でただただ立ち尽くす。


あいり「(声)えっ?やだぁ」


顔を上げるミサ。

カーテンが開き、上半身裸のあいりの姿が現れる。恥ずかしそうに抵抗するが、激しく突き挿れられ前後不覚に陥っていく。


あいり「(声)見られちゃう…恥ずかしいよ…!」


拓「(声)嘘つけ。ビチャビチャだぞ?」


あいり「そんなことないもん…ああっ!」


豊満な胸を揺らして、悦楽に身を委ねるあいりの上気した表情。

唇を噛みながら階上を見上げるミサの顔。

配信されてるshowroomを終了する。途切れる音声。

ミサ、スマホを構える。数度に渡り、響くシャッター音。


■ファミレス

一心不乱にスマホを操作してるミサ。

Twitterのアカウント。別アカを作成し、ツイートを入力するミサ。


ツイート「セクロス発見! 超ウケるwwwww」


先ほどの盗撮画像を立て続けに投稿していく。

ツイートボタンを押すミサ。

やりきったようにスマホをテーブルに置き、ドリンクを飲む。

一口二口飲んだところで、不意に我に帰ったように慌ててスマホに手を伸ばす。

Twitterを開くと、どんどん増えていく「いいね」とフォロワー・リツイート数。

大急ぎで、アカウントに鍵をかけるミサ。

15を超えている「いいね」とリツイートの数。

泳いだ目で爪を噛む。

急に振動するスマホ。

一瞬ビビるも、すぐに冷静さを取り戻し、液晶画面を見るミサ。首を傾げる。

次の瞬間、限界まで見開かれる目。指先が、全身がガクガク震え出し、思わずスマホを取り落す。

テーブルの上で、バイブを繰り返すスマホ。

その画面、ミサのハメ撮り写真がどんどんアップされていく。

申し訳程度に掛けられてる目線。

ピンク基調のラブホの一室で、衣装のまま生挿入されてるミサの姿。

最後にメッセージで


マスター「これミサちゃん? ここのサイトに大量に載ってるけど、身に覚えある?」


■モンタージュ

・どんどん拡散していくミサの画像。

罵詈雑言で埋め尽くされていくミサの表のTwitterアカウント。

「だまされた」

「清純きどりやがって」

「許さない」


まとめサイトにも載る。「地下アイドルのハメ撮り写真が出回った結果wwwwww」



・母親「だから言ったのよ!早急に手を切りなさいって。もう我慢できないわ。あんな汚らわしい野良猫、とっとと追い出しなさい!」


電話口でヒス気味に騒ぐ母親。

受話器を耳にただ無言のトシヒコ。


■ライブハウス

張り紙「本日、星野ミサは急病のため欠席となります。ご了承ください」


納得できない様子のファンたち。


ファン「あのクソアマ! どこまでも舐めやがって!」


ファン「逃げれると思ったら大間違いだぞ!」


■楽屋

ミサの話題で一色の楽屋内。


「ね、これ本物かな?」


「なんじゃない? ヤバイよね(笑) あのコ、もー終わりじゃん?」


「まさかのAV堕ち?(笑) チョーウケる」


「あざとくて嫌いだったからさ、イイ気味だよ」


これ見よがしにミサへの悪口を華開かせる地下アイドルの面々。

ただ一人、あいりだけは浮かない顔。


■調光卓

音響オペ「マズイってこれ」


拓「ですねぇ」


音響オペ「よくそんな落ち着いてられるね」


拓「いやぁ、こっち(男側)にはしっつりモザイクでしょ? ツマンネぇなって」


音響オペ「(ため息)拓ちゃんさぁ…、犯人が分からない以上、いずれ拓ちゃんの顔も出回るぜ。そうしたらもう収集つかないよ? 今ならまだ「騙していて申し訳ない」「でもちゃんとお付き合いしてるカレシです」ってことで収集できるかもしれないけど、これで相手は実はあいりちゃんのカレシでしたなんてなったら、ミサちゃんだけじゃない。あいりちゃんも大ダメージだぜ。そうなったら拓ちゃん、このハコ確実にクビだし。他所も雇ってくれないぜ。拓ちゃん、聞いてる?」


■マンション

母親「あのコは?」


トシヒコ「昨日から帰ってきてない」


母親「ああ良かった。出てってくれたのね。あの荷物も早く処分しなきゃね」


トシヒコ「母さんさ」


母親「…なに?」


トシヒコ「週刊誌とかに載ったのならともかく、普段ネットとか見ない母さんがよくすぐ気付いたね」


母親「なにが言いたいの?」


トシヒコ「母さんが何かしたんじゃないかと思ってさ。流出(これ)の」


母親「アハハハ、なにを言い出すかと思えば(笑) どうやって?」


トシヒコ「わからない」


母親「信じたくないし、誰かを悪者にしたい気持ちもわかるけど、現実を見なさい。トシヒコは裏切られたのよ。もっとも野良猫に裏切りなんて概念があればの話ですけどね」


トシヒコ「……」


母親「あのコを庇う必要がどこにあるの? 自業自得じゃない? トシヒコを裏切って、動物みたいに欲望のままに行動した結果がコレよ。とても同情なんかできないわ。そうでしょ?」


立ち上がるトシヒコ。


トシヒコ「探してきます」


母親「トシヒコ⁉︎」


■漫画喫茶

漫喫のフラットブースで、胎児のように身を丸めて横になってるミサ。

ずーっとブルブルしてる枕元のスマホ。電話、メール、LINE、ツイッター、あらゆる手段で連絡が入ってくる。見ようともしないミサ。

目だけガラス玉のように見開いている。


■ステージ

一曲歌い終わるあいりたち。


あいり「こんばんわ、アイリスです。えー今日はいつもと違うことを話したいんですけど…ミサちゃんのことです」


打ち合わせ無しなのか、焦った顔になるメンバーたち。


あいり「もう皆んな知ってますよね?」


ざわつく客席。


音響オペ「おいおい…!」


無表情の拓。


あいり「正直言って、今回のことはあたし、許せません。アイドルとして一番やっちゃいけないことだと思う」


そうだー!拍手で沸く客席。


あいり「でも! …でも一人の女の子としては仕方ないと思います。どんな形であれ、好きになったら仕方ないもん! だからこれからもミサちゃんを応援したいと思います。アイドルとしてじゃなく一人の女の子として、幸せに(c.o)」


■満喫

目を覚ますミサ。

スマホを見る。電池切れの表示。


ミサ「………」


■ライブハウス

歌ってるあいり。


ふと振動を感じ、スマホを取り出し横目で見る拓。液晶画面には


「公衆電話より」


一瞬躊躇うも、電話に出る拓。

照明を操作しながら、スマホを肩と耳に挟む。


拓「もしもし?」


無言。遠くからすすり泣くような息遣いが聞こえる。


拓「ミサか?」


えっ?と驚く音響。

踊りながらステージの端にくるあいり。照明が追って来ない。


あいり「?」


照明ブースを見るあいり。違う方向を見て電話してる拓の姿。

すぐに気付いてスポットライトが自分を照らす。真っ白に染まる視界。


あいり「……!」


ステージの様子を客席の後ろからじっと見てるネクタイ・ワイシャツ姿のヨシヒコ。


■ファミレス

入って来る拓。

キョロキョロと周りを見るが見当たらない。スマホを確認してようやく席を特定する。

無造作なロングヘアーで、パーカーを羽織って俯いてる女性。


拓「ぱっと見じゃ気付かないな」


顔を上げる女性。


ミサ「ライブは…?」


拓「まぁ…盛況だったよ。良くも悪くも」


ミサ「マスター怒ってた…?」


拓「そりゃな。でもあの状況じゃ来なくて正解だったかもな。刺されてもおかしくない雰囲気だったし」


ミサ「……」


お互い無言になる。

ビールを注文する拓。


ミサ「何も…訊かないの?」


拓「何を? …ああ…ハメ撮り?」


ビクッとするミサ。


拓「最初、俺のが流出したのかって焦ったけど、俺、あんな“立派”じゃねぇしな(笑)」


ミサ「………」


拓「相手、誰?」


ミサ「………」


拓「カメラマンさん?」


ミサ「……最近売れてきて…人気も出てきたから…今までみたいにノーギャラじゃ請けないよって…」


ビールが運ばれてくる。

一気に半分以上飲む拓。


拓「ヤらせてくれるんだったらノーギャラでもいいって?」


頷くミサ。


ミサ「でもホントに腕のいい人なの。他の人と比べ物にならないくらい。だから…!」


興奮してきたミサを手を制する拓。


拓「別にミサのやってきた事に何か言うつもりはないよ。お互い了承の上だし、それでOKだったんだろ?」


頷くミサ。


拓「じゃあ俺の出る幕はないよ。謎なのは、そんな売れっ子のカメラマンが何でこんなコトしでかしたのかだけどな。犯罪だもん、これ」


ミサ「……告られたの。付き合って欲しいって」


拓「(納得)ああ」


ミサ「さすがに40代は彼氏に考えられないって言ったら…」


拓「なるほど。…どうする? 警察行く? 訴える?」


ミサ「わかんない…」


拓「まぁ、警察行ったら『これあたしです』って白状するようなもんだもんな」


ミサ「アイドル…まだ辞めたくないし。AVなんか行きたくないし」


拓「他人の空似で押し通す?」


長考した末、頷くミサ。


男の声「ミサー!」


振り返る拓。

二人の前に来るヨシヒコ。

固まるミサ。

拓に軽く一礼するヨシヒコ。


ヨシヒコ「初めまして。須藤と申します。ミサがいつもお世話になってます」


拓「あーいえいえ、こちらこそ。槇原と言います」


ミサの隣に座るヨシヒコ。

固まって動けないミサを前に、ヨシヒコと拓、お互いに名刺交換。


ヨシヒコ「この度は、槇原さんにもご迷惑おかけしまして、大変申し訳ありませんでした」


拓「いえ、僕の方は特に…」


ヨシヒコ「犯人は、おそらく僕の母です」


拓「え?」


顔を上げるミサ。


ヨシヒコ「証拠はありませんけどね。僕とミサは同棲してるんですけど」


拓の目を見れないミサ。


ヨシヒコ「母がそれに反対してまして。もう別れろと言ってきた次の日にこれです。あまりにタイミングが良過ぎる」


拓「強制的に別れさせる為に?」


ヨシヒコ「そう考えるのが妥当です。そもそも売り出し中のカメラマンが流出なんかする訳がない。それに…」


熱心に話し込んでいる拓とヨシヒコ。それを遠い目で聴いてるミサ。水の中みたいに二人の会話が滲んで聞こえる。


女の声「たっくーんー」


ハッと顔を上げるミサ。

目の前にいるあいり。

固まるミサ。拓に目をやる。

同じく固まった表情の拓。

あいり、そんなミサと拓の顔を交互に見比べた後、ヨシヒコに。


あいり「どーもー初めましてー。飯塚あいりと言います」


ヨシヒコ「先ほどステージで拝見しました」


あいり「わぁ!ありがとうございますー!」


笑顔で拓の隣に座るあいり。

ヨシヒコの脳裏に浮かぶフラッシュバック。

ミサのスマホに映っていたハメ撮り実況の男女の顔。


あいり「(ミサに)この人が例のパトロンさん? 素敵な人じゃない?」


ミサ「(消え入りそうな声)あ、ありがと…」


ヨシヒコ「パトロン? まぁ、間違ってはいないか」


あいり「ミサちゃんの生活費や活動費、全部出してあげてるんですよね。いいなぁ(拓を見る)」


拓「ゴメンな、貧乏で」


あいり「頑張って稼いでくださーい。もうすぐ籍入れるんだから」


ミサ「え……⁉︎」


あいり「来月、入籍する予定なんです。式はあげられないけど」


ヨシヒコ「ああ、おめでとうございます」


あいり「ありがとうございます。一応、仲のいい友達呼んで小さなパーティするつもりなんで」


ミサを見据えるあいり。


あいり「ミサちゃん、来てくれる? パトロンさんと一緒にさ」


応えられないミサ。思わず拓に目を向ける。目を合わせない拓。


ヨシヒコ「ええ、是非。喜んで」


あいり「ありがとうございます〜。ミサちゃんも早く結婚すればいいのに。実質旦那さんなんでしょ?」


ヨシヒコ「ああ、うちはちょっと問題が…」


あいり「そうなんですか?」


ミサ「……どうして?」


あいり「ん?」


ヨシヒコ「ん?」


全員、ミサに注目する。

絶叫するミサ。


ミサ「どうして⁉︎」


暗転。


■アパート

コンコン、ノックの音。

ガチャリと扉が開く。立っているミサ。


ミサ「…来ちゃった」


無表情でミサを見るあいり。

やがてため息をついて。


あいり「どうぞ」


ただでさえ狭いアパートに、あいりの段ボールが山積みに置かれて、なかなか壮観な光景になっている。


あいり「ごめんねー。なかなか片付かなくてさ。なんか飲む?」


ミサ「ううん、いい…」


あいり「そう?」


両手を腰に置くあいり。左手の薬指に光る指輪。


あいり「で? 今日は?」


ミサ「こないだ…言ったコトまんまなんだけど…」


■回想。ファミレス

涙声で叫ぶミサ。


ミサ「どうしてあたしの欲しいもの全部持ってくの? あたし、拓と結婚したい訳じゃない。ほんの2時間でも抱いてくれればそれでいいのに。なんでそれすら許してくれないの? あいりちゃん、拓を独占できるんじゃん。2時間くらいさ、あたしに頂戴よぉ…‼︎」


目を瞑り、固く口を閉じた顔のヨシヒコ。

興味を失ったような顔の拓。

無表情のあいり。


■アパート

ミサ「ダメ…かな…?」


あいり「………」


ミサ「そっちの生活壊す気ないから。気が向いたらの時でいいから…」


あいり「あたしさ」


ミサの話を遮るあいり。


あいり「ミサちゃんの匂い、好きなんだよね」


ミサ「あ…え…? うん…」


あいり「なんでかなーって思ってたけど、いま判った。たっくんの匂いがしたからだ。だから今のミサちゃんの匂い、好きじゃない」


ミサ「…………」


ミサに背を向けてキッチンに立つあいり。


あいり「お茶入れるわ。それ飲んだら帰って」


動けず立ち尽くすだけのミサ。

やかんを火にかける音が聞こえる。


■アパート外

ラフな格好で待っているヨシヒコ。

とぼどぼと帰ってくるミサ。


ヨシヒコ「満足したか?」


ぎこちなく頷くミサ。


ヨシヒコ「これでわかったろ? 他所様の大事な人に手を出したらどうなるか」


ミサ「……はい」


ヨシヒコ「行くぞ」


まるで父親のようにミサより先に歩くヨシヒコ。

アパートを振り返るミサ。

ガラス越し、こちらを見送っているあいり。

俯いて歩くミサ。

その口角がだんだんと上がって行く。笑っているミサ。

ポケットから何かを取り出す。

淡青色のゴム状の袋みたいな物体。中に白い液体が入っている。


■回想

こっちに背を向けて、お茶を淹れているあいり。

寝室の片隅のゴミ箱に目を向けるミサ。手慣れた手で、ティッシュにくるまれたゴム状の物体を取り出す。


ミサ「あは、あいりの匂い(笑)」


■路上

小走りに駆けてヨシヒコに追いつき、腕を絡めるミサ。


ミサ「ね? あたしたちも結婚しない?」


ヨシヒコ「ええ⁉︎ いきなり?」


ミサ「ダメ?」


ヨシヒコ「いや、母さんが…」


ミサ「警察に行くぞって脅せば?」


ヨシヒコ「証拠がなー」


■ライブハウス

音響「ヤバイよ、拓ちゃん!」


本番中の調光ブース。

咥えタバコの拓。音響の差し出したスマホを見る。

ミサが撮った拓とあいりとハメ撮り写真。かろうじて目線は隠してるが、モロバレ。


音響「誰が撮ったか知らないけどさ、これマスターにバレたらヤバイって!」


目に光が宿る拓。嬉しそうな表情。


拓「イイっすね〜〜」


音響「え?」


拓「こーゆーの、ゾクゾクしますよね。堪んねぇ」


音響「おうホンモノだ。(ため息)歪んでんなァ…」


■エンディング

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シナリオ「distortions」 @nakazee

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