そういう好きとは言っていない。

@Spece-Cancer

第1話

『あ…』

陳列棚に並ぶキャラクターコラボ商品に目が止まった。可愛らしいキャラクターがマスクや団扇やお菓子などのあらゆる商品にプリントされていた。無理やりな感じはあれど可愛らしいのでしょうがない。

最近、この黄色い犬のキャラクターを見つけるとすぐ様写メを撮って、『みーくん』に送り付けている。あれだけ『好きだ、好きだ』と言っていれば嫌でも思い出してしまう。しかし、写メを送り付ける私の顔はニヤニヤしているから嫌な訳では無いんだろうなと、どこか他人事のようにぼんやりと思う。

所詮この行為は、私の自己満足でしかない。みーくんは滅多に返信しない。その上、既読がつくこと自体あまりない。彼と知り合って少しした頃返信とか連絡はこまめに出来ないと予め伝えられていたから責めることなど出来なかったし、そういう人も居るだろうと別に気にはしなかった。

そもそもみーくんはSNS上での友達だ。住んでいるところも年齢も、本名さえ知らない。動画配信やSNSでのやり取りで急速に仲良くなっただけの人。多くを求めても自分が勝手に傷つくだけでいいことなんて何も無い。小さい頃からインドアでネットの沼に落ちていた私には身にしみるほど分かりきっている事だ。

『皆で仲良く』

そんなもんでいい。適当でいい。

ピンポン!

小気味よい電子音とともにスマホが振動した。珍しい。今日は返信が来た。ほんの少し鼓動が早くなる。

『かわいい!ありがとう!りんマジ天使!』

りんとは私のハンドルネームだ。正確には林檎だけれども、みーくんが親しみをこめてなのか勝手にそう呼んでいる。

『崇め奉りたまえ(ドヤ)』

冗談交じりで返信する。すぐさま返信したのだが、もう既読はつかない。まぁ、返信が来ただけいいかとため息混じりの笑みがこぼれた。

最近のみーくんは、SNSにもあまり顔を出していなくて気落ちしている様だったので、生存確認が出来ただけでも嬉しかった。とても繊細で精神が不安定な彼が心配で仕方ないのだ。これでも出会った頃よりはだいぶマシになったのだけれど、今でもたまにぐちゃぐちゃになっている事がある。最近は体調が良くなくて精神的にも弱っているようだったから時間を見つけて何かと連絡をしている。彼が見ていようが見てなかろうが、返信が来なかろうがそんなことは関係ない。私が気にしてるよって事が伝わればいいなと、それだけの事だった。

出会った頃みーくんは自殺未遂をすることがよくあった。SNSに意味深なことを呟き、音信不通になる。そんな時はだいたいぐちゃぐちゃになっていた。ある時はODをして意識朦朧となっていた。ある時はお酒を浴びるようにのみ、道路で横になっていた。全部落ち着いた後に本人から聞いた事だから実際どの様になっているのかは知らないが、しょっちゅう消えようとするみーくんをほっておくなんて出来やしなかった。

LINEでのやり取りは少なかったが毎日みーくんや、共通の仲間が行っていた動画配信などでずっとやり取りをしていたので仲良くなるのはあっという間だった。彼との距離を一気に詰めたのはみーくんが出会って初めて消えようとした時だろう。すべてのアカウントを消して音信不通になったのだ。いつものグループLINEで皆必死で連絡してようやく連絡が着いたとき自然と涙か溢れていた。いつから泣いていたのか分からないくらい私はぐちゃぐちゃになっていた。グループ通話でみんなが説得している中、喋ることも上手くいかないほど泣きじゃくっていた私は、参加することも出来ず個人メッセージを送り続けた。みんなと話が一段落した頃みーくんは電話をくれた。上手く話せないかもしれないと思いながらも彼の声をとにかく聞きたかったので電話に出た。

『ねぇ、りん。出会ってちょっとしかたってない俺のためになんでそんなに泣いてくれるの?』

困った様な優しいみーくんの声が聞こえた。

『分からないよ…』

『うん』

『…でも、怖かった。みーくんがいなくなると思ってすごい怖かった。』

『うん』

『勝手に溢れてきたんよ』

『うん』

『わからんけど、すごく…すごく…好きなんだと思うよ。』

泣き声まじりの聞き取りずらい私の話をゆっくりゆっくり聞いてくれた。そしてみーくんもゆっくり話し始めた。

『りんに心配かけたくなかった…泣かせたくなかった…ダメだな。りんが泣くと俺も泣いちゃうじゃんか…』

その日、初めて弱くて危なっかしいはずのみーくんの泣き声を初めて聞いた。

お互い大泣きしながら朝まで話した。思ってること全部言おうって。辛いこと全部言おうって。私たちの間では本音で話そうねって約束をした。他の人の前で遠慮ばっかしている二人だったからお互いの休憩所になろうって約束をした。私たちは考え方がなんか似てるねって笑った。似てるからこんなに話しやすいのかなって笑っていた。 そのまま二人、なんでもない話を笑いながら、時折真面目な話を泣きながら話していた。

いつの間にか朝日が目に染みるほどキラキラと輝き出した。他人とこんなに長い電話をしたことはなかった。こんなに時間が相対的に感じたことは無かった。遠足や修学旅行なんて比べ物にならない程あっという間だった。

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