嘲笑うファイター
タチバナエレキ
第1話
愛なんて嘘だ。
そう、愛とは重圧。
むしろ偽物であるべきで、私はそれよりもっと大きい声で叫びたい事がある。
私の主張が憎いなら殺せ。殺すなら殺していい。覚悟は決める。
だけどそしたらゾンビになってでもあんたを返り討ちにしてやる。それだけは言いたい。
だからお願い、死ぬ前に一度私の歌を聴いて。
彼女は歌う。世界を壊すかのように激しく歌う。
「絶対的に納得は行ってないよ、でもやるしかないんでしょ」
その天使のように可愛い声をした少女はチラシの束を握り締めながら悔しそうにそう言う。その隣に立つ小柄だが人の良さそうな男は顔をしわしわにして笑い「うん、そうだよこれは僕達じゃないと出来ない仕事だ」と答えた。
「だからこれからこのチラシを配るんだ、僕達がこれからやる事を皆に知って貰うためにね。そして僕達がやっている事は正しいのだ、と思うために」
ライブハウスの前の大通り、華やかな街角に一見とても不釣り合いな2人は同時に大きな深呼吸をすると道行く人にチラシを配り始めたのだった。
1週間後に迫った彼らのバンド、初めてのライブを告知するチラシ。
ただ、そのバンドの作られた経緯はとてもではないが少女に取っては不可解でやるせない物だった。
しかしそれを隠すかのように偽の笑顔で愛想を振りまいてチラシをばらまく。
少女はボーカリスト希望の儚い夢見る夢子ちゃんだった。
まるでアニメのキャラクターのような高くて可愛い声で、見た目もその声に見合う可愛らしいものである。バンド内でのあだ名はそのまま「アニメ」と身も蓋もない。しかしかつて組んでいた別のバンドやユニットでもそう呼ばれる事が多かったのでなんの違和感もなく受け入れた。
そしてそのアニメの横に立つ小柄な男はバンドのドラマーだ。
嘗てジャズクラブで働いていたためにあだ名は「ジャズさん」という。最小限のドラムセットで無限のリズムを刻むプロである。
「新たに我が事務所からデビューさせるバンドのメンバーをオーディションで決めます」
とある音楽事務所が出したこの広告がきっかけでアニメとジャズさんは出会った。
最終オーディションに残り、そして選ばれた者同士。
他にはギターの「オシャレ」と「パンク」、ベースの「メタル」とキーボードの「オタク」が選出された。
そしてこのメンバーで「普通のバンド」としてデビューさせられる物だとてっきり思い込んでいたのだが、実際は違ったのである。事務所の甘言にすっかり騙されたのだが、時は既に遅い事このうえなかった。
これはアイドルのバックバンドとしてのデビューだった。
しかも期間限定の企画物アイドル、とてつもなく強烈なコンセプトの。
今は2025年秋の終わり。
世界には終末論という最高に聞き飽きた寒風が吹きすさんでいた。
世界が少しづつ鬱状態に陥り始めたその時、日本のアングラシーンに流星の如く現れた企画物アイドルがいた。
そのプロジェクトの名前は「アンデッド・ブースター」と言う。
瞬く間にアングラからメジャーへと駆け上がったアンデッド・ブースターというアイドルは「少女のゾンビ・サイボーグ」だったのである。
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