閉じた光②

ウラノス庭園と名付けられた場所に行くと、大剣を地面に突き刺し、両手を柄頭に添えているティエオラが立っていた。

辺りには両断された死体が大量に転がっていて、壁の後ろで怯えた特殊部隊も、手を出せないでいた。


友希那が言っていたダウンが何か気になったが、取り敢えずスモークグレネードで視界を奪い、ティエオラに近付く。


「おい、ここから脱出だ。鈴鹿の反物質で、おい聞いてんのか」


目を閉じたまま反応を見せないティエオラは、静かにゆっくりと呼吸を繰り返していて、体には大量の穴が空いている。

滲む血は乾き始めていて、背後の庭園には傷ひとつ付いていなかった。

この状況で思い出だけを守る為に、自分を盾にしたティエオラに、恐ろしさと狂気すら感じる。


「おい、運ぶからここを……」


ティエオラに手を伸ばして肩を掴もうとすると、神速で通過した剣が、何本か髪を持っていく。

特殊部隊が突撃出来ないのはこれが原因かと思い知らされ、遅れて空を切り裂く音が響く。


「クソッ、こんな時に足踏みしてられねえのに。何か手はないのか」


「私にやらせなさいよ……そこのウラノス大好き病の馬鹿くらい、この体で止められる」


刀を杖代わりにして歩いて来た都子が姿を現し、抜刀と同時に雰囲気が一転し、炎を纏ったかと思うと、体の傷が全て塞がっていく。


「良い? これは魔法でもなんでもない、私たちごうしょ劫初ごうしょ10家はね、古来から伝わる化け物の混ざりもの。聖家は鬼、最強の九条家は龍、雨宮家は狐、物部家は猫。それ以外も居るけど、国内外に隠れ住んでるから見つけたげて」


「お前はどうすんだよ都子!」


「見て分からない? この傷じゃリペアでもないと死ぬし、最後にティオを止める。私ならこの体でも十分」


「おらぁ! とっとと建物から出ろって言っただろ、聞こえなかったかお前ら!」


壁をぶち抜いて現れた鈴鹿は体の半分程を見た事も無い鉱石に覆われていて、なんとか突破しようと投げられたグレネードを掴み、手の中で衝撃を殺し切る。


「鈴鹿……私はどの道助からないから残る、私の炎は表面の傷は治せるけど、体の中のは流石に無理よ。貴女ひとりでいかせるのも嫌だし、一緒に……」


「ユニコーン!」


叫んだ鈴鹿の背後から影が伸び、黒色のユニコーンが現れ、その隣に光の中から現れたユニコーンが姿を現す。

意識が入れ替わるように倒れた鈴鹿が見えたが、黒いユニコーンに角で背中に落とされ、以前意識の無いティエオラが落ちない様に支える。隣を走る白いユニコーンの背中には都子がしがみついていて、今にも意識が無くなって落ちそうで怖い。


「なんだよこの訳の分からない光景は」


「あの体はもう使い物にならない、反物質を放出するだけの爆弾だ。すまん都子、劫初十家のひとりは私だ。でも娘が居るし、頼むよ馬鹿娘の事」


「……遂に鈴鹿も居なくなるんだ、誰にも殺せないと思ってた人が、自分の所為で死ぬって……殺してしまうって、天は私に恨みでもあるの?」


気を失った都子だが、落ちずに背中の上に乗っていて、白いユニコーンは幸せそうに溜息を吐く。


「説明してくれ鈴鹿、何がどうなってるのか」


「あぁそうだな、お前には教えても良いかもな。劫初十家は一生に一度だけ力が使える、今の私みたいにユニコーンになるとかだな。都子と妃奈子なら鬼だし、秋奈と愛奈は妖狐、物部姉妹は化け猫ってな感じだな」


「最後に放つ光って事か、何か物分かりが良くなってきた気がするよ。お前らと一緒に居るとさ、何でも出来る気になってさ。ってこれは死ぬ前みたいだな」


「まぁ私はな、都子とティエオラだけは絶対に死なせるなよ。何としても連れて帰れ、秋奈がこの先で防衛してる。ヘリですぐに逃げろ、爆発に巻き込まれるなよ」


「ありがとな鈴鹿、本当にありがとう」


「はっ……馬鹿言うな、何もしてやれてねーのによ。心残りだな、いや、いっそ清々しいよ。所詮は100万年の居眠り、やりたい事は来世に持ってくよ」


到着と同時に消えてなくなったユニコーンから投げ出され、着地と同時に都子を抱き留めて、ティエオラと都子を身体強化で抱えながら走る。

隣を通過すると同時に同じ方向に走り出した秋奈と並び、ヘリに乗り込んで迅速に離陸する。

燃え盛る建物が遠くなっていくのが、思い出ともはぐれるみたいな感覚に重なって、伸びそうになる手を反対の手で掴み止める。


固く拳を作って堪えながらへたり込むと、ティエオラが正気に戻っていて、膝を抱えて俯いて座り込んでいる。


「これからどうするんだ、どこに行けば良い。光なんてもう見えない、勝てると思ったから私は乗ったんだ。それなのになんでこんな事になった、教えてくれよなぁ!」


「全ては2度目の作戦からだ、ウラノスが体を壊したあの日から僕たちは着実に、勝って負けに近付いていた。短期決戦を試みたも叶わず、結局は空の加護も無いまま不利になり続けた」


「友希那が居るだろ、ウラノスの加護があったら勝てるんだろ。なら何で友希那にさせないんだよ、空になったんだろ友希那は」


「ウラノスが死ぬ前に力を制限したんだ、僕たちは生まれ落ちた神じゃない。人の器に神を入れたもの、その代償は記憶と寿命。友希那が使っているのはほんの一部、ウラノスの全盛期には遠く及ばない」


「んだよそれ! なら勝ち目の無い戦闘で人を殺し続けて、仲間も沢山失ったってか」


壁に叩き付けてばらばらになった瓶の破片が飛び散り、床でキラキラと光って、地面に叩き付けた手に突き刺さる。

滲んだ血が床を伝って何本にも分岐して伸びるが、道を作り上げていた血も全て止まってしまう。それが自分たちのことを見ているみたいで、脱力感に見舞われる。


「ドイツ政府から攻撃信号、投降の合図を送ってるから全員何があっても抵抗しないで」

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23:50 聖 聖冬 @hijirimisato

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