聖なる想い⑤
「入るぞ」
木で作られたドアをノックして部屋の中に声を掛けるが、帰ってきても良い筈の返事が無い。
また何かあったのかと思い、焦ってドアを開けて部屋に入るが、ベッドの上に膨らんだ布団の中で、すすり泣く声が聞こえる。
「おらウラノス、いつまでうじうじしてんだよ。いい加減にしてくれ、お前の所為で4日続けて雨だ。そろそろ憂鬱になりそうなんだよ」
「世話なら要らないから出てって」
「あーそうかよ、なら出てくからな」
「……待って、やっぱり話だけ聞いて」
部屋から出ようとドアを開けると、布団から顔を出した小さなウラノスが、腫れた目を擦ってこっちを見ていた。
酷いクマを付けた大きな瞳から涙を拭い、強がる様に睨み付けられる。
「めんどくせぇやつだな、まぁ聞くだけならしてやるよ」
「私がティオと出会った時の話なんだけど、まだ聖冬が居てくれた頃の話。当時高校生だったんだけど、同時に軍にも所属してて、エースパイロットだったんだ。無愛想だけど笑うと可愛いティオに、今と変わらない生徒会のメンバーは聖家とその周囲の人。本当に色んなことがあって、私は夏に倒れたんだ」
「取り敢えず服は着とけ、持ってきてやったからよ」
「うん、それでね。私は起きたら女になってていたんだ、後遺症が残っていないのは奇跡的だということだったんだけど、やっぱり戻る方法もこうなった原因も分からない」
「まぁ、そりゃいきなり性別が変わるなんて体にすげぇ負荷がかかるのは分かる。それで服を着ろよ、それとこれとは関係無いだろ。あそこにある布切れもどうせ元は服だったんだろ、次は破るなよ」
1度ベッドに置いた服を手に取って無理矢理着せてやると、初めて服を着たかのようにこそばゆがる。
これはかなりの重症だと頭を抱えている暇もなく、ウラノスは服を脱ごうと抵抗するが、どうにも体は小さくなったが、成長した部分はあまり引っ込んではいない。
「ほら、形崩れるぞ。大人しくしてくれ、ティエオラに頼まれたんだ」
「ティエオラ? ティエオラさん呼んで来て、挨拶しなきゃ」
「こんな姿見せられるかよ、せめて服を着てくれりゃ考えてやる。ってお前ティエオラとの出会いを語ってたんだろ」
「……そうだった、ティオだ。ティオー!」
「おい待てよ糞餓鬼、本当に来たらどうするんだよ」
背後でドアが開く音がして、恐る恐る振り返ってみると、ドアから七凪が顔を覗かせていた。
ティエオラじゃなかった事に胸を撫で下ろして安堵していると、いつの間にかウラノスは呑気に寝息を立てていた。
「お疲れ様でしたエイルさん、後は私が見ます。また明日もよろしくお願いしますね」
「あぁ、めんどくせぇけどやってやんよ。どうせ私らが不甲斐ないからこうなったんだし、そうじゃなくてもやってたと思うからな」
小さな声で話す七凪につられて小さな声で柄でもない事を言うと、何故か嬉しそうに小さく笑われる。
部屋を出ようとドアを開けて立ち止まり、黒い大きな箱を展開した七凪が、ウラノスに何本も注射を打っていた。
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