第30話:この世界では紐パンは標準
第30話:この世界では紐パンは標準
アレクがバスルームで体を洗い終わり、バスローブを羽織って二階から下りると、トワが皮鎧の泥汚れをせっせと布で拭いているところだった。
「トワ。私がやりますよ」
「ええよ。好きでやってるし。せっかくキレイな赤色やのに染みとかできたらあかんやろ? 洗剤があればいいんやけど、まだまだ全部の
トワが嘆息する。
「
アレクの言葉通り、一階には暖炉があった。豆腐ハウスは木造であるにもかかわらずである。もっとも、アレクはすでにトワが作ったものが発する炎は、燃え移るか否かはそれの機能設定次第である事をすでに知っていた。そして、トワは自分の作ったものの使用権限をアレクが使えるように問答無用で設定するのである。
「うん。だったら物干しセットだすわ。でも、
トワが摘み上げた下履きは、元の色であろう白の部分はほとんど残っておらず、染みこんだ泥水で茶色に変色していた。さぞ気持ち悪かっただろうにと、トワは気の毒に思った。
ただ、その当人は若干顔を赤らめて。
「あんまり
「気にせんでええやん。
何気ない声のトワに、しかしアレクは一瞬言葉を詰まらせた。
「え、ええ。それでも恥ずかしいものは恥ずかしいのです。それと、下穿きも替えがないので仕方な――」
「アレクがかまわへんのやったら、
「それはありがたいですが……。そうなんですか?」
「うん。サイズは調整出来るようになったんやけど、形は普通やな。
「それはごく一般的なものですっ。生地は良いもののようですが」
「私の
アレクの下穿きは紐パンであった。しかも布地の面積がトワ基準で小さい。まぁある意味機能的ではあるのかもしれない。
「それはさておいて、『シャワー』はちゃんと使えた?」
「
「……もしかして、ウォシュレットの件。まだ根にもってんの? 拳骨むっちゃ痛かったんやけど」
「自業自得です」
その時の痛みを思い出したのか、トワが頭をさすると、アレクは同情はしないとばかりに目を細めた。
「しかし、バスルームから出ると体中の水気が飛んだのは本当にびっくりしました。あれも『シャワー』か『浴槽』の機能なのですか?」
「あ、それ言ってなかったか」
トワは手をパタパタと横に振りつつ。
「機能じゃなくて、むしろ逆や」
「え?」
アレクは一瞬、トワの言う事が理解出来なかった。機能の逆とはいったい?
「私が水を汲みに沢まで行ってるのは知ってるやろ」
「はい、以前ご一緒しましたから」
「『シャワー』にしろ『浴槽』にしろ、水なりお湯なり出るからな。これがあったら水汲みいらんかなーとか思ってたんやけどな。試しに水桶に汲んで
「不思議な話ですね」
「たぶんやけど、水も含めて『シャワー』や『浴槽』なんやろうな。『ウォシュレット』もそうやけど、そもそもあの水がどこから来てどこに消えてるんか、私にもわからへんからな」
そして、トワは肩をすくめた。
「まぁ、考えて答えが出るとも思えへんから考えへん事にしとるけど」
「そうですね。私も
「使える事とそれを理解してる事は別ものやしなぁ」
悩ましげな表情のトワ。
言ってる事はまるで賢者のそれであるが、小柄なトワの言ってるようすは、アレクには背伸びをしている子供のように見えた。
アレクの服が乾くまでの間、二人は手分けして皮鎧を拭きながら雑談していた。
「寝室も二階に作ったんですか?」
「まぁ、ベッドを
アレクはかつて簡易ベッドがあった場所を見つめた。
「ベッドは
「うん、そのつもりやったんやけど。
……まぁ、いつ必要になる時があるかわからんしな」
言いながらどこかあさっての方向を見るトワ。
「いや、ちゃんとしたベッドはやはりあったほうが良いというか、常に必要な気がしますが。それより樹脂というと、確かゴムという木の?」
「うん。樹木の栽培はまだ先の予定やから、出来れば行商人にまた注文出しといてくれへん? 換金用の現物渡すから」
「私がすでに預かってる額で足りると思いますが、あれって何に使うのですか? ブヨブヨしていて、使い道が想像出来ないのですが」
「いや、何に使うも何も」
トワはバスローブを羽織り、イスに座っているアレクの下腹部をビシッと指差し。
「いま穿いてる
アレクは頷きつつ、指差された状態がいたたまれないのか、両脚を閉じて密着させた。
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