第17話:うさぎおいしかのやま
第17話:うさぎおいしかのやま
「充実して来たやん」
豆腐
丈夫なツタを入手した事により
……出来ればネズミはカンベンと思うトワだが、それも含めて運頼みだろう。
汲んできた水は
水がめは豆腐
後、基本作業机の
カマド付き料理台とちがって、こちらは木炭の生成も基本機能なので、かなりスピーディに木炭を増産出来るようになった。
衣食住のうち、住は問題なく、食も衣も改善されつつある。
頼る人もなく、見知らぬ世界に独りのはずだが、今のトワは好奇心と高揚感に背を押されていた。
次は何が手に入るのだろう。
次は何が作れるのだろう。
まるで大好きなサンドボックス系の新作ゲームをしているような気持ち。あるいはそれ以上だった。
ゲームでは作った
だが、この世界では違う。何もかもが触れて感じる事が出来るのだ。それはなんて素晴らしい事だろう。
サンドボックスとは砂場の意。子供が公園の砂場で自由に遊ぶが如く、サンドボックス系のゲームはプレイヤーが目的も目標も自らが決めるようにデザインされている。
後にトワは知る事になる。
この世界は決して
トワが水場と命名した沢を発見してから数日が経過した。
「うーわー。かかってるやん」
その水場近くの茂みに仕掛けた宙吊りトラップに、丸々と肥えたウサギがかかっていた。しかし、本来喜ぶべき事のはずがトワは複雑な表情だった。
まるで、いつか来ると分かっていた小テストを教師が宣言したかの様子だった。
宙吊りのウサギはすでに散々暴れた後なのか、ぐったりとしていたが時折思い出したように弱々しく足掻いている。
たしかにネズミよりはウサギの方がありがたい。皮も肉も多いだろうし、特に肉に関しては現在の日本ではポピュラーでこそないものの、昔から食べられていた。
トワも誰から聞いたのかは忘れたが、ウサギの数え方が一羽、二羽なのは、戒律から獣の肉を口に出来ない僧侶が、ウサギの足の速さから『あれは鳥だ』とこじつけ食べたからだと聞いている。
今や確かめる術はないが。トワの経験したゲームでも、
ともあれ、イノシシの肉と同じく、
それでもないトワが渋っているのは、ウサギが
宙吊りトラップとはそういうものであったし、そもそも対獣用のトラップは捕らえる事がまず大前提で、殺傷力のあるものもあるがそれ自体は目的ではない。
トワはその事を失念していた訳ではない。ただ、こうして現実に向き合うまで目をそらしていただけだ。
イノシシの時は襲われる立場だったし、結局自爆して勝手に死んだ。
だが、このウサギは違う。トワがトワの為にトワの意思で殺すのだ。皮と肉を得る為に。
「――『
衰弱からか、逃げられないとさとったからか、ウサギは浅い息をもらしながらじっとこちらをみている。
ここで、ツタを外してやる事も出来た。
肉にしろ、皮にしろ、生き残るのには絶対ではない。元の世界では菜食主義者はいくらでもいるし、皮だって代替品になるものがありそうだ。トワは
それでも、トワは苦しそうに剣先を下に向けて、それをゆっくり上げる。
ここがゲームの世界か、それに似た力を行使出来る異世界かわからない。
例え、ここがゲームの中の世界であっても、トワはここにいる以上、それは現実世界にいるのと何も変わらない。
例え死んだとしても、どこかで
「
突き下ろした剣から伝わってくる感触は忘れる事が出来ないだろう。
トワは自分が行った結果を最初から最後まで目に焼き付けた。
「……『
死骸となったウサギとその血が消える。
そして、
トワは座り込みそうになったが、剣を地面につきたてこらえる。
トラップはまだ他の場所にも仕掛けてあるのだ。
「日本やないんやなぁ」
トワはそう独りごちた。
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