第7話:クロスベリーの自生地
第7話:クロスベリーの自生地
トワはインドア派である。
元々、趣味はゲームであったので、友人に誘われたりしない限りは自分から外出してまで遊びに出なかった。たまに
そんなトワだからハイキングや森林浴なんてした記憶はない。遠足と言う名の拷問は強制参加だったので、記憶から抹消した。
見知らぬ森をスローペースで歩いていく。スローなのは靴を履いてないからだ。
唯一幸いだったのはケモノ道のような歩きやすい場所が森のあちこちにあった事だろう。ただ、本当に
「この森の木はニフレ、コノコノ、トゲハの三種類みたいやな」
ヒイラギのようにトゲのある葉の木を
ただ、トワとしても
「となると果実がなるのはコノコノだけなんかぁ」
あるいは単に季節や環境の問題かも知れないが、今のトワにとっては、
「他に食べられるもんはないんかなぁ。出来れば野菜。私が狩りなんて無理ゲーやし」
肩を落としつつ先を進もうとして、視界のスミに鮮やかな色が引っかかった。
「なんやろ?」
ケモノ道から外れた膝丈の藪を苦労してかき分け、――そしてそこに辿りついて絶句した。
見渡す限り紫と薄紅色、そして緑の空間。
藪の先は小さくひらけた空間になっており、その周囲に十字型の大きめながくに6~8の鮮やかな色の実をつけた植物が埋め尽くしていた。
トワは気付けば、その植物群から実を一つちぎって手にとっていた。
キレイなバラにはトゲがあるというが、あまりに不用意な行動だった。もしも、これが手に触れるだけで影響のある毒の実だったらどうなっていたのか。
トワは反省しつつも、手にした実に顔を近づける。微かな甘い匂い。色はつやのある紫。他の実に薄桃色や、その中間っぽい色があるので、色の差は熟し加減を示していると思われた。一粒の量は一つのがくに成っている分量で、コノコノの実一つといった感じだ。
手にした一粒を
クロスベリーの実。
つまり、この植物はクロスベリーというらしい。
この場で食してみたい衝動にかられたが、万が一これが毒の実で食中毒を起こしてここで身動きがとれなくなるとまずいので、それは我慢した。
そのやるせなさをぶつけるが如く、クロスベリーの実をがくから引きちぎっては、
日本に帰れる当てがあるならともかく、現状は手がかりすらない状態だ。手近にある、食料が確保出来る場所を狩り尽くすのはまずい。まぁ、まだ食べても大丈夫だと決まった訳ではないのだが。
実をとったがくが再び実を成らすか分からなかったので、トワはひとつのがくから実を半分だけをちぎっていった。これなら、再び実をつけなかったとしても、実の中の種が新たなクロスベリーとなって生えてくると思ったからだ。
ケモノに食べられて糞として別の場所に生えるパターンもありえるのだが、さすがにそこまでは考えてはいられない。
「1マスは64個までか」
64個のクロスベリーの実が2枠、3個のクロスベリーの実が1枠となっていた。木材や赤土も一枠64個までだったので、それが共通の最大数なのだろう。
「まぁ、もったいない気もするけど」
トワは
それに――。
「『
あご付近まで上げた左手のひらに円形で平たい物体が現れる。それは外枠が木製のコンパスだった。
それはともかく、コンパスの存在があった為、帰路に迷う心配はなかった。普通のコンパスは常に北をさすだけなので、一直線に歩くだけならともかく右往左往すると帰れなくなるが、
「『
トワの
ともあれ、これで必要な時にクロスベリーの自生地にたどり着く事が出来る。
行動に成果が伴うと人間やる気が増すものである。
まだクロスベリーの実が食べられるものと決まった訳ではないが、握りこぶしを作るぐらいにはトワも気合が入った。
しかし、それは藪が大きな音を立てて揺れるまでだった。
「は、い?」
トワの表情が固まる。予想した事態ではあった。だが、予想していたからといって、常に最善の行動がとれるとは限らない。
やがて、藪をこえて出てきたのは熊のような
トワは、この世界に来てから今この瞬間までで最大のピンチを向える事になった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます