サンドボックスな私は豆腐作りに励む
赤砂多菜
1章:耕作者
第1話:何が起こってますか?
第1話:何が起こってますか?
「あなたは何者ですか?」
厚い皮製の服――というよりは鎧かそれに類するものと思われる。実際、その皮鎧の下にアンダーウェアかどうかわからないが、それらしきものを着込んでいる。皮鎧は赤く着色され、威圧感を放っている。
声にも張りがある。年上だろうとはいえ、そこまで大きく差はないように思えるのに、一歩下がりそうな気持ちになってしまう。そんな声だった。
彼女は唐突にあらわれた。そして唐突に質問してきた。
いや、違う。
トワは直近の想いを否定する。
少し前に、数人の
さらにここ数日は何かと人の視線を感じていた。
まぁ、近いうちに向こうから接触してくるだろうと踏んでいたら案の定。
ただ、何か熱血武闘派っぽいキャラな人が、
魔女狩りよろしく、最悪包囲されてマイハウスごと火をかけられる可能性すら考慮して、地下道掘ったり、それ以外にも逃走経路をいくつか用意していたのに、こう真っ向からこられても困るというものだ。
それに
トワには格闘技の経験はないが、それでも彼女にはいわゆるスキと思われるものがないのはわかる。
だが、ある意味ではこれはチャンスでもあった。
数日前に出会った人達は言葉が通じなかった。
ああ、まぁそんなもんでしょ。日本じゃないんやし。
そう納得していたトワだが、彼女の言葉に失意の底に埋もれていた希望が頭をもたげる。彼女の言葉は明らかに日本語に
だからトワも思い切って聞いた。――日本語で。
「その前にこちらからも聞きたい事があるんやけど。その後で良かったら、何でも答えるで」
「ふむ。まぁ良いでしょう。素直に話してくれるのであれば、私の手間も減りますし」
こちらからの日本語も
彼女が特別なのか、単に数日前の人達が特別だったのかはわからないが、ここで逃げ出して今後あるかどうかも不明な機会を捨てる、そんな意味のない賭けをする事もないだろう。
「で、何が聞きたいのですか?」
だから、トワは正直に聞いた。
「ここって、どこやの?」
「……はい?」
これが後々長い付き合いとなる、
□-□-□-□-□-□-□-□-□-□-□-□-□-□
「さて」
何度目かの「さて」になるだろうか。
そして、その後には沈黙が続く。
トワはそれをずっと繰り返していた。
制限時間が決められているのならば、なんらかの行動に移れたろうが。制限時間どころか何一つとして状況がつかめない。
自分が誰かはわかる。
中学2年の帰宅部。両親の名も住まいの住所も学校名も、クラスメイトの顔も覚えている。記憶力及び記憶内容には問題ない。……たぶん。
着ている服は私服。それも部屋着だ。
今は真冬のはずで、こんな格好で外に長時間いたら風邪まったなしのはずだが、頬をなでる風のすずしさに心地よさを感じる。
そもそも、冬であるならば、だ。
「なんで、木が青々としとるん?」
ようやく「さて」以外の言葉を紡げたが、状況はまったく改善されていない。
周囲は木々に囲まれていた。木は一種類ではなく、恐らく果実と思われるものを実らせているものや、葉の形が違うもの。数種類で構成されていた。
ただ、手を伸ばせば届く距離にはない。
木々の間の地面には長けの長短はあれど、雑草が生い茂っているが、トワの立っている地面だけが赤茶の土が露出しており、そんな地面がトワを中心に半径5メートル程度の円を描いていた。
円の中には土以外何もなく、見上げると森の木々に邪魔される事なく、晴れの空が見えた。余程のひねくれ者でない限り「快晴」と表現するだろう。太陽に薄く輪がかかっているのが気にかかる。何かの自然現象か、あるいは……。
約一時間前。気付けばトワはここにいた。
その前、どうしていたかは記憶に残っていない。
趣味の
冬休みだったはずなので、学校にいるはずがない。
ネタ動画をニコニコ動画やユーチューブに投稿してたりもしていたが、撮影時には必ずホッケーマスク(血のり付き)をかぶっていたし、自作のチェーンソーカスタムマイク(重量2.5キログラム)も持っていない。
現在のトワは身につけている部屋着以外、何もないまま見知らぬ森に放り込まれた、そんな状態だった。
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