2107の兵士

キセ!

プロローグ

友情の約束

 とある日の朝。

 森の中を突っ切って人が走っていた。

 

 男の人だ。

 彼は少しは赤色をした茶色の濃い髪ともじゃもじゃの眉毛の持ち主だった。初対面でも美男イケメンだ。


 木の葉の戦ぎに午前の日差しが網のように森の地面に当たる平穏な日に。彼の人は激しく息を吸いながらも、目隠しをした馬のように、風で赤い髪は振り立てて走った。

 忙しぐ理由でもあるようだ。

 

 結婚式に遅刻でもしたとも思われる状況だが、男の格好が結婚式に行く洋服ではなかった。遠いところに旅へ出る人が着る服と荷物を背負っている。

 おそらく乗ろうとした電車に遅れたかも知らない。


 しかし、予測が外れたことを、すぐ解ってしまった。  


 狩を知らす角笛つのぶえが森の向こうから鳴った。それを聴いた彼は動きを止めて音が聴こえた方向にこうべをぷいと巡った。


 「……」


 数秒間沈黙が流れた。

 待っていると二回目の角笛の音が聴こえてきた。

 北の東側だ。


 方向を解った彼は全力でサンダルの足を踏み出した。


 やや違う。サンダルに見せかけたの靴だ。

 疑問が湧いた。

 皮で精々にった手作りの靴は現代の産物と言うには、ちょっとだった。まるで彼のために、彼だけのサンダルに見える。


 そう言えば、空気もさっぱりして肺まで草が深くなる気分がした。


 「今日は晴れで、狩をするにはいい日だ」


 「さようです。あれ?あっちを見てください!ちょうど空にたかが飛んでいます!」 


 林から野原で二人組みの大人と子供が仲良くたか狩の練習をしていた。一人は古代紫の服を着て、遠くでも輝く笑顔を持っていた男の人で、残りの一人は元気で茶色の服を着ている子供だった。どうやら貴族としもべの関係に見える。

 

 貴族の人は弓を握って空に向いた。

 血管が浮き出る程腕に力を入れて引き絞る貴族の人。一撃で獲物を打ち落とそうとするようだった。


 「もし私の射る矢が外れたら見つけて欲しい。出来るかしら、坊ちゃんが」


 「はい、ヨナダン王子様。何があっても捜して戻りますので、ご心配なく待ってください!」


 「逞しい気迫きはくだね。よし、行こうか」


 ヨナダン王子は勢いよく話して、子供が走る瞬間に後ろで高く矢を放った。

 しかし、矢は鷹を外れて飛んで森の中に落ちてしまった。大丈夫だ。面のために違う矢でもう一度狩をすればいい。と思って背中で新しい矢を持ち出した間に、空で高く飛んでいた鷹はその姿を消した。狩は失敗だった。獲物が無くては狩は出来ない。

 

 狩が失敗になって、ヨナダン王子はどこか不機嫌な様子で坊ちゃんを見守っていた。


 「矢はもっと遠くに落ちてはないのか?」

 

 首が絞められるように顔色が青く変わったヨナダン王子は、早く矢を両手を合わせて何かに祈りをあげた。時間はたっぷりあるはずの朝時間に王子は何だか焦っている。一回使った弓は――王族が使う弓は人の千人分の価値をする程の貴重品である――地面に捨てておいてまでする必要はあるかと、矢を捜している坊ちゃんは心の中で思った。

 少なくても、死ぬまでもうける金でも、王子の弓は買えないのだ。勿論、矢も相当の値段で失ったら首が飛ばされる。だから、坊ちゃんは似顔で王子の矢を捜した。


 ――昨日、サウル王との喧嘩で飲み食いを絶したヨナダン王子様は何時も不機嫌だ。それもそうだ。原因がダビデ司令官だったから、ヨナダン王子様もサウル王に負けてくれないんだよ。まぁ、狩の話を言い出してくれた時は機嫌が直ったと思ったけど。そうでもないね。


 坊ちゃんが忙しく捜しているところで、知らないうちに森の中へ一方近づいた。


 「ありましたよ、ヨナダン王子様!今持って行きま――」


 森の中に寒い風が吹いてきた。

 葉擦はずれの音ががわびしく森の中をさ迷い、影の網に掛かった坊ちゃんは静かに顔を上げた。


 「ダビデ……司令官?」


 「よ――、坊ちゃん。朝からバタバタ忙しく働いているね」


 ――大変だ。

 

 と坊ちゃんは恐れを成した。

 ヨナダン王子がやろうとした事を知ってしまった。


 「僕は何も見てません。聞いてもいません。ただ矢を拾いに来たです。すみません」


 親は王族に従うしもべになる前に二つ注意をした。


 見ても見なかったふりをしろ。

 聞いても聞かなかったふりをしろ。

 

 城で働く僕が死ぬ場合は皆この二つを守らなかったからだった。言い訳は通用しない。

 王族の運命に巻き込まれては無残に殺される。

 単純なら単純であるこの真理を死んだ僕たちは身につけていなかった。水の泡になった人生は後悔しても戻らない。坊ちゃんは死んだことは無いけど知っていた。

 

 「坊ちゃん――、何をもたもたしている。早く急いで」


 後ろから自分を呼ぶヨナダン王子の声が聞こえた。

 戻る時間だ。


 「歴史は坊ちゃんが何をかは判らないよ。だから安心して、主人のもとに戻れ」


 「はっ、はい!」


 坊ちゃんは急いで矢を取り抜けて森を駆け抜けた。

 考える時間がない。目の前で自分を待っている主人だけを見て命令を守るべきだ。

 坊ちゃんは頭の中に残った記憶を消すために、激しく手足を振り回ってヨナダン王子がいるところまで着いた。


 空にはまだ消えた鷹が戻ってこなかった。

 

 「ヨナダン王子様、お許しください。森の中が暗くて中々矢を捜せなかったです。でも、見てください。ちゃんとヨナダン王子様の矢を持ってきました」


 息苦しくても舌を噛むミスはなかった。

 

 「森の中が暗くて矢をすぐ見つけなかったんだね」


 「はい。暗いから矢を捜すまで時間がかかりました」


 「そう。暗かったか――」


 しもべの坊ちゃんは地面に膝を伏せて主人が許しを告げるまで待機した。

 下手にしたらこの場で首になる可能性も高かい。


 「さあ、坊ちゃんはこれを城に持ち込んで先に帰って」

 

 「え、はっ、はい。早速城に帰ってお湯の準備をしておきます」


 「そうしてくれるとありがたい。行け」


 片手で矢を持って城に向く坊ちゃんは考えた。


 ――助かった!帰ったらサウル王の様子を見に行こう。ヨナダン王子とダビデ司令官のことは一番気にかけている人が、どこかで尾行をしてもおかしい状況ではない。あ、でも、ロレンスは口が軽いから気をつけないとね。


 安心する坊ちゃん。子供でも大人の事情に詳しい。聡明な子を僕にしたと、王子のヨナダンは思った。


 坊ちゃんが消えるとヨナダン王子は一回城の方を見て森へ入った。

 坊ちゃんにはばれなかった顔色は、森に入るまでもっと青くなっていた。心配げに子供を失ったお母さんのように、一生懸命捜している人の名前を呼び出した。


 「ダビデ。ダビデ、そこにいるか?いるなら小石でも投げてみろ」


 ダビデ。真に切ない声で友人を見つけた。


 「こっちだ」 


 積み上げた石の後ろで現れたダビデは笑顔で友を迎えた。ヨナダンもようやく一安心して笑顔を見せた。


 「無事だったか。怪我はしてない?」


 「心配無用だ。そうだ、ヨナダン。まずお礼を言いたい」 


 と言ったダビデは地面にひれ伏して三度拝んだ。お礼の挨拶だった。


 「起きろ、友達同士で何をしている。あなたと私の主が怒るよ」


 「そうにはいかないんだ。君のお父さんでありながら、この王国の王であるサウルは、俺が君のご好意を得ていることをよく存じている。それで、息子の君が悲しまないように、俺が起こした過ちを教えてくれなかったのだ。だけど、ヨナダン信じてくれ。主と君に誓って私と死の間は、だた一歩で触れるへだたりだった」


 「分かった、分かった。だからあなたの提案に乗って三日後、平野に来てないんじゃないか。三日間食べ物や寝床もよく解決できなかったはずのあなたに、お礼なんて受け取れない。これ以上私に恥をかかせないでくれ」


 「ヨナダン。君に、本当に申し訳ない。すまない……」


 「何を言っている!おい、あなたが泣くまではないだろ」


 ダビデとヨナダンはしばらく会話を止めてシクシクと泣き始めた。


 「いや、俺が悪いんだ!俺が無能で王の気持ちをうまく察してなかったから、君まで王に嫌われてしまったんだ。主よ、俺は大丈夫です。どうかヨナダンを守ってください!」


 とても大人には思えないくらいの泣き声だった。

 ヨナダンよりはダビデの方が一層激しく泣き続ける。自己嫌悪じこけんおまでして、友のヨナダンのために祈っている姿も、子供が友達のために代わりに泣いてあげるようだ。


 本当、仲がいいお友達だ。


 「行き先は決まったか?」


 やがて落ち着いた二人は口付けし、お互いの肩を軽く叩いて次の予定に関する話をした。


 「一応、ノブの祭司、アヒメレクがいるところに行くつもりだ。そこで助けを求めて生きようとしている」


 「アヒメレクか。まぁ、彼なら一番あなたの事情を分かってくれるだろ。信用できる。もしかして、ノブで定着するのか?」


 「いや。それはできない」


 「何でだ?いくらお父さんでもアヒメレクにまで手が届けないよ」


 ダビデは友の話に首を横に振って、真面目に理由を説明した。

 

 「俺はいつかサウルの手によって滅ぼされるだろ。その時に周りの人まで迷惑をかけたくない。これは俺一人が背負うべき荷物だ。ヨナダンも、ミカルも。俺から離れた方がいい」

 

 「素っ気無いやつめ。自ら孤独な道に歩こうとして、私たちを忘れようとしているのではないか?」


 「とんでもない!俺は一生君とミカルの恩は忘れないと、この場において誓う」


 純粋な子だ。

 冗談を真面目に受け取るダビデが可愛くて死にそうなヨナダンだった。


 「彼女メラプには何と伝えておこう」


 「――」


 『メラプ』。

 名前を聞いたダビデの耳が微妙に震えた。


 「悪い。彼女メラプは君に任せる」


 さっきとは全く違う言葉ワルイの使い。

 何に対してダビデは悪いと言い返したか。友のヨナダンすらわずか悲しい顔をして唇を動かした。

 

 「そうか。やはり、あの子には直接会えないよね」


 「面目ない。彼女に会える日はまだ程遠い。今は会っても顔を合わせてうまく言えない……」


 「ん?それはつまり、あなたも私の腹違い妹も怖いってことか?」


 「ち、違う!消して彼女が怖い意味で会えないとは言ってない!ただ――」


 「ただ?」


 「……止せ。何でもない」


 ヨナダンにからかわれたダビデは元通りに無表情な男に戻った。


 何だか暖かいピンク色が観える気がするやり取りだ。


 「あなたもかなりの草食系だね。最初から、お父さんがメラプとの縁談を言い出した時に受け入れたら良かったろ」


 「何事も順番がある!王族である彼女と平民出身の俺が似合うとでも思うか!?」


 「うん、思う。すごく似合うと思って、今もそう思う。あ、ミカルには内緒でね。あの子、嫉妬したら戦争でも起せる性格だから」


 「はぁ、君も性格が悪いわ……」


 「どうも。こんなジョークも城の中ではメラプとあなたくらいだよ。他の人とはどうにか軽い気持ちでいられない」


 ヨナダンが額を皺ませて両手を軽く挙げた。


 「まぁ、いいだろ。とにかく俺は連合に忍び込もうと思っている」


 「連合?連合のフィリスティアのこと?」


 「ああ、そうだ。」


 「やめろ!エラの谷であなたが起した奇跡を、連合が忘れたでも思っている?」


 エラの谷の話を言い出したヨナダンは恐怖に満ちた勢いでダビデを留めた。

 

 「敵の口に入って自殺でもしたいか?他にいい方法があるはずだ。一緒に探そう」


 「無理だ。俺を殺すまでサウル王の意思は折れない。君も見た。俺に槍を投げ込んだあの人の顔には主より鬼がうろついていたことを!」


 ダビデの話にヨナダンは反論できなかった。


 何回もダビデを殺そうとした自分のお父さんを思い出した。死んでもダビデに対する怒り――に匹敵する嫉妬――は簡単には収まらないだと、ヨナダンは既に思い知っていた。


 「連合のフィリスティアには俺に従う人もいないし、戦争が起こっても敵国の中では少なくても見方同士で戦う人災は起こらない。そうすれば、サウル王は俺をイスラエルの領土內で隈なく搜すことを諦めて、大切な息子の君を疑うことも止めるだろ」


 「しても、人の人生は思った通りにはならない。そうだ。居場所が決まったら、連絡できる道を教えてくれ。すぐにも援助しに行く」


 優れた男だ。

 いつまでも友を守ろうとしている。


 「一年。いや、一年よりもっと長くなるかも知らない。それでも待ってくれるか?俺を手伝うだけで、王族としての誇りを捨てることになる」


 哀れな男だ。

 死にたくなくて逃げる友を、王で実のお父さんであるサウルを裏切ってまで死に掛けようとしている。


 「言うまでもない。人は生きながら一人の親友と出会えば成功したと伝えたいる。私は親友としてのダビデと共に生きるだと、遠い昔から決めたのだ!」


 ヨナダンはもう一度ダビデの手を掴んで約束の言葉を告げた。


「私たち二人は、『主が常に私とあなたの間におられ、また私の子孫とあなたの子孫の間におられる』、と主の名をさして誓った仲だ。どこに行ってもこれを忘れてはいけない。必ずだ!」


 二人は別れの悲しみを後にしてそれぞれの道に急いだ。


 ダビデはもう一度助けを貰うためにノブに、ヨナタンはサウル王が過ごしている城に立ち去った。


 この日を覚えている人は数少ない。

 ダビデとヨナダンと坊ちゃん。

 そして、今まで彼らの物語を読み始めた人だけだ。

 


◇◆◇


 一年後。

 ダビデは連合で行方不明になったと言う報せがヨナダンと彼の腹違い姉妹に届いた。

 

 

 


 

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