魔法少女ナナセのバッドエンド
杉過
第0話 魔法人形のお時間です
魔法。
科学では説明のつかない奇跡。
20xx年、人間の作り出した幻想を、ある会社が現実にした。
これまでの科学、医学の常識を覆す力を使い、ほかの誰も成し得なかった事...人造人間の開発を成功させた。
人間とそっくりな見た目はもちろん、動き、話し方、性格や個性までも人間のそれ。全く見分けがつかないほどの完成度。
それは魔法人形と名付けられる。
だが、それらが一般の人間へむけて発売される事はなかった。
なぜなら――――
寂れたアパートが立ち並ぶ住宅街。
汚れた地面を頼りない街頭が照らす。
道を進んで少し奥、開けた場所に彼女達はいた。
彼女達の衣服は全てきらびやかで、奇抜で、その場所にふさわしいとは到底思えない。
レースで彩られたドレス。フリルをまんべんなく縫い付けたロリータ服。露出の多すぎる着物。豊かな胸をこれでもかと強調したメイド服。
技術のやけに高いコスプレイヤーの集まりのようだった。
何よりその異様さを引き立てているのは、足元に転がる無数の人間の死体。
ある者は顔を潰され、ある者は半身を引き裂かれ、ある者は全身を切り刻まれていた。
一面は血で彩られ、室内でもないのに濃厚に充満する血肉の香りは人間であれば息をするのもつらいはずだ。
だが彼女たちは全員顔をしかめる事もなく、むしろ一仕事終わった清々しい顔をしている。
その死体の一つが、ゆっくりと起き上がった。
苦悶の表情。最後の力を振り絞っている、そんな動き。
「あ、ぁ…ッ!」
彼女達に手を伸ばす。
震える指先が、その中の1人のスカートに触れる瞬間、
べちゃ
他の少女が、伸ばした手の大本を踏み潰した。
まるで空き缶をつぶすように簡単に。
それは衝撃で飛び散り、地面と少女の靴を汚す。
彼女達の正体は魔法人形。
会社で開発された人造人間。
淡々と任務をこなす、人に近く人間でないもの。
その中で、戦闘に特化した魔法人形がいた。
彼女達の職業は『魔法少女』
人間に害をなす存在を殺し続ける人形たちだ。
だが、この光景はそれとは矛盾していた。
「これで最後か」
人形の1人が言った。
血のついた靴を見ながら、相手へ話しかける。
相手といっても、この場にはいない通信相手だが。
『はい。任務完了です、お疲れさ…いえ、すみません。まだ感染者がいるようですわ』
人形の脳内と呼べる場所が、新たな情報をキャッチする。
情報に従い移動する。すぐそばのアパートの階段の横で立ち止まった。
階段脇の金属でできた戸が、不自然にガタガタと震えている。
その取っ手を掴み、勢いよく開けた。
「ヒッ」
中には男性が、母親らしき女性を抱えうずくまり、無理やりとも言える格好で収まっていた。
女性の首からは血が溢れ、顔の一部が不自然に緑に染まっている。
「た、助けてくれ・・・このままじゃ、母さんが死んじまう。いや、その前に奴らの仲間になっちまう!」
男は藁にでもすがるように少女を見上げていた。
だが、少女が手を伸ばし彼らを助ける事はなかった。
代わりに、ヒュッと空気を切る音。
男は間抜けな顔をして、数秒ののち、やっと視線を母親に向けた。
目に入ったのは母親の左胸に深く突き刺さる細身の剣。
柄を握り直し、少女は剣を引き抜いた。
剣で塞き止められていた血が一気に吹き出す。それは女性を殺した瞬間だった。
「お、おおおお前・・・ッどうして!魔法人形は人間をたすけ――――」
助けるためにあるんだろう
と、言いかけた男の口は、閉じられること無くだらりと垂れた。
男の眼球を貫いた剣は男の脳に到達し、男の意識は闇に呑まれた。びくびくと痙攣するだけで、そこにはもう知性も生命も存在しない。
剣を引き抜きながら、少女が口を開く。
「今ので感染者、感染の可能性のある者の処分が完了したはずだ」
淡々とした口調。
『はい。人類の脅威は全て排除されました。お疲れ様でした』
[NEWPAGE]
とー、いうことなんですよ~!
きゃはははは
真っ暗。
誰もいない部屋。
太陽の光も差し込まない。
唯一の明かりはテレビ。
毎日、テレビは笑っている。
つられて、少しだけ笑う。
食べかけのカップラーメン。散らばるインスタント食品。
放置された食器。ゴミ袋から溢れた空き缶。
それが、彼女の部屋だった。
誰にも愛されない彼女の部屋だった。
誰からも嫌われる、呪われた女の部屋だった。
しかし、ある日、
―――ピンポン
全ては反転する。
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