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「優香、頼むよ」


 かめなしさんは私の肩を抱き寄せる。


「本当に私がナギさんの振りをしてもバレないのかな?」


「ナギのメイクなら俺がする。ナギと優香はそっくりなんだ。同じようにメイクすれば誰にもわからないよ」


「……もし協力したら、この家から出て行ってくれるのね?」


「そんなに出て行って欲しいのか?マジでヘコむな。あんなに何度もハグやキスを交わしたのに」


「……っ、あれは猫だったから」


「じゃあ、今もだったらキスしてくれるのか?ニャオ~」


 かめなしさんの顔が近付く。

 唇が触れそうな至近距離。


 トクントクンと鼓動が速まる。


「……わ、わ、わ、わかったから。ナギさんの振りをするから。でも、ずっとは出来ないからね。ナギさんは……期間限定で、すぐに脱退することにしよう」


「マジかよ。タカの傍にいたくねーの?あいつはモテるから、傍にいないと浮気するかもな」


「う、浮気!?」


 確かに、矢吹君はイケメン俳優だ。

 異世界ファンタジーを再結成すれば、人気はますます上がる。


 風月桜の噂だって、完全に払拭出来たわけじゃない。


「芸能界には美人は山ほどいるからな。タカに群がる女ならいくらでもいる」


 かめなしさんは意地悪だ。

 私を不安にさせて、ずっとナギの振りをさせるつもりなんだ。


「ナギも必ず地球に転移する。それまででいいんだ。優香、一緒にバンドやろう」


 異世ファンは世界一大好きなミュージシャン。

 かめなしさんは大ファンだったナイト。

 その異世ファンのメンバーと一緒にステージに立てるなんて、こんなチャンスはもう二度とないかもしれない。


 ナギが地球に戻るまで……

 それまで、私が代わりをすればいいの?


「わ、私がナギになるなら、私の代わりは誰がするの?」


 かめなしさんはニヤリと笑ってサファイアのリングを見つめた。


「そうだな。公園にいたメスの仔猫でも拾ってくるよ」


「……仔猫?えっ?仔猫?」


 かめなしさんの言ってる意味は、私には全く理解出来なかったけれど、摩訶不思議なこの世界で、ほんの少しの期間ならば、異世ファンのメンバーになってみてもいいと思ったんだ。


 大好きな矢吹君の傍にずっといられるなら、夢の世界で輝いてみたい。






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