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「北川先生と無理して付き合ってない?」


「……そんな事ないよ。北川先生はいい人だし、私よりずっと大人で優しくて……」


「そう?それならいいけど。矢吹君、今、大活躍だよね。映画やドラマに引っ張りだこだし」


「……うん、そうだね」


 美子…ずるいよ。

 矢吹君のことを話題にしないでよ。


 せっかく思い出さないようにしていたのに……。もう頭から離れない。


「本当にいいのね?このままで」


「……だって、いいも悪いも、私達もう別れたし、ずっと……逢ってないし。向こうから連絡だってないし。私は北川先生と真剣に交際してるし」


 私はわざと明るく振る舞う。

 でも、美子には嘘がつけなくて目を逸らしてしまった。


「本当に……そう?」


 美子が私の顔を覗き込んだ。


「そうだよ。当たり前でしょ。矢吹君は今は友人の一人。ただ、それだけだよ」


「ふーん……。ねぇ」


 ――矢吹君は……


 今でも、私の……


 一番大切な人。


 かめなしさんがノソノソと近付き、美子の脚にスリスリする。


『美子、もうその辺で勘弁してやれ。俺は矢吹が元カレでも、全然気にしてないから。ていうか、俺の招待状は?二次会でもいいから招待状くれよな』


「かめちゃん、こんにちは。『ニャーニャー』よく鳴くね。お腹空いてるのかな?ごめんね、今日はオヤツ持って来てないんだ」


『猫が鳴けば腹が減ってると思うなよな。ちゃんと愛情表現してるんだよ。優香は動物病院の先生とは本気で付き合ってないんだからな。それに俺が欲しいのは、オヤツじゃなくて、招待状』


「ねぇかめちゃん。かめちゃんと話が出来たらよかったのにね。結婚しても時々遊びに来るからね」


『美子、約束だよ』


 相変わらず、美子が来ると鼻の下を伸ばしてデレデレしてるかめなしさん。美子の頬をペロペロ舐めて厭らしいんだから。


「うふ、くすぐったい。かめちゃんが人間だったら浮気だね。彼にバレたら破談になっちゃう」


「美子、かめなしさんに冗談通じないから、気をつけた方がいいよ」


「やだ。人間の言葉わからないでしょう」


『わかってるよ』

「わかってんの」


 思わずハモり、かめなしさんがニヤリと笑った。


 かめなしさんが美子にキスをすると、妙な気持ちになる。


 異性に嫉妬するみたいな……

 妙な感情がフツフツと湧き上がる……。


「優香、今から結婚式の打ち合わせなんだ。じゃあね。かめちゃん、またね。バイバイ」


「バイバイ」


 美子を見送り、かめなしさんを睨み付ける。


『なに怒ってんの?』


「美子にキスしたから」


『それ?ヤキモチ?マジでヤキモチ?』


「違います。美子にセクハラしないでって言ってるの」


『俺もヤキモチ妬くんだぜ。動物病院の先生とキスすんなよ』


「……バ、バカなこと言わないで。そんなこと絶対しないし」


 ――絶対にナイ……。


 北川先生ごめんなさい。



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