97
交際は、全面否定の内容。
事務所と矢吹貴の連名で、文書は締めくくられていた。
――そっか……。
そうだよ……ね。
私は友人の一人なんだ。
だから、電話も通じないんだ。
そんなこと、とっくにわかっていたよ……。
でも……なんでだろう。
涙が溢れて止まらない。
「なんだ、友人と一緒だったんだ。そりゃそうだよね。俳優になったんだもの、一般人の優香と付き合えるはずないもの」
母がつまらなそうに呟いた。
私はここにいるのに、私に問いただすこともなく、テレビの報道を信じてる。
バカみたい……。
マスコミも母も……
そして私も……バカみたい。
涙が堪えきれず、二階の部屋に戻る。涙がポロポロと溢れ頬を濡らした。
机の上のウルフを見つめていると、不意に背後から抱き締められた。
背中に感じるぬくもりは、かめなしさんだった。
かめなしさんは何も言わず、黙って私を抱き締めている。
いつも私が悲しい時、かめなしさんは私の傍にいてくれる……。
かめなしさん、あったかいね……。
私は幾つになっても泣き虫だ。
――私ね……
決めたよ……。
矢吹君と……
別れる……。
矢吹君と私は……
住む世界が……
違ったんだよ……。
一緒にいてはいけないんだ。
私は矢吹君が……
今でも……大好きだよ。
だから……
あなたの……
幸せを見守りたい……。
愛しているから……
別れるんだ……。
◇
あれから一週間、矢吹君からの電話はない。やっぱり私は友人の一人に過ぎなかったんだ。
矢吹君のマンションの鍵を返さないと……。
結局、合鍵なんて一度も使わなかった。
――携帯電話が音を鳴らす。
矢吹君……!?
突然鳴った携帯電話に驚き、すぐに画面表示に視線を向ける。
なんだ……恵太か……。
『優香、俺だよ。大丈夫か?』
「……うん、大丈夫だよ」
『やっぱり思った通りになったな。いつかこうなると思ってたよ』
恵太の声を聞いたら、止まっていた涙がまた溢れ出す。
「恵太ぁ……」
『おい、泣くな。俺はいつだって、優香の親友ナンバーワンだからな。いつでも相談に乗るし、優香が望むなら、矢吹をボコボコにし射殺してやる』
射殺する!?
「やだな。恵太……過激な発言してると、警察クビになっても知らないよ。美咲さんにまた叱られちゃうんだからね」
『俺は優香のためなら、警察をクビになっても構わない。美咲なんか怖かねぇよ。断じて俺は、美咲の尻には敷かれてないんだからな』
恵太の発言に、私は泣き笑い。
結婚する前から、尻に敷かれてるってば。
「ありがと、恵太。恵太は私の一番の親友だよ」
『はぁ……つまんねぇな。俺はどうせ親友だからな。また、電話するよ。優香、元気だせ。男なんて世の中に掃いて捨てるほどいるんだから。俺は捨てられた方だけど。いつだって復活するぞ』
「くすっ、恵太の復活なんて望んでないから」
『ちぇっ』
恵太……ありがとう。
少し、元気が出てきたよ。
やっぱり恵太は、私の一番の親友だね。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます