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 交際は、全面否定の内容。

 事務所と矢吹貴の連名で、文書は締めくくられていた。


 ――そっか……。

 そうだよ……ね。


 私は友人の一人なんだ。

 だから、電話も通じないんだ。


 そんなこと、とっくにわかっていたよ……。


 でも……なんでだろう。


 涙が溢れて止まらない。


「なんだ、友人と一緒だったんだ。そりゃそうだよね。俳優になったんだもの、一般人の優香と付き合えるはずないもの」


 母がつまらなそうに呟いた。


 私はここにいるのに、私に問いただすこともなく、テレビの報道を信じてる。


 バカみたい……。


 マスコミも母も……

 そして私も……バカみたい。


 涙が堪えきれず、二階の部屋に戻る。涙がポロポロと溢れ頬を濡らした。


 机の上のウルフを見つめていると、不意に背後から抱き締められた。

 背中に感じるぬくもりは、かめなしさんだった。


 かめなしさんは何も言わず、黙って私を抱き締めている。


 いつも私が悲しい時、かめなしさんは私の傍にいてくれる……。


 かめなしさん、あったかいね……。


 私は幾つになっても泣き虫だ。


 ――私ね……

 決めたよ……。


 矢吹君と……

 別れる……。


 矢吹君と私は……

 住む世界が……

 違ったんだよ……。


 一緒にいてはいけないんだ。


 私は矢吹君が……

 今でも……大好きだよ。


 だから……

 あなたの……

 幸せを見守りたい……。


 愛しているから……

 別れるんだ……。


 ◇


 あれから一週間、矢吹君からの電話はない。やっぱり私は友人の一人に過ぎなかったんだ。


 矢吹君のマンションの鍵を返さないと……。


 結局、合鍵なんて一度も使わなかった。


 ――携帯電話が音を鳴らす。


 矢吹君……!?


 突然鳴った携帯電話に驚き、すぐに画面表示に視線を向ける。


 なんだ……恵太か……。


『優香、俺だよ。大丈夫か?』


「……うん、大丈夫だよ」


『やっぱり思った通りになったな。いつかこうなると思ってたよ』


 恵太の声を聞いたら、止まっていた涙がまた溢れ出す。


「恵太ぁ……」


『おい、泣くな。俺はいつだって、優香の親友ナンバーワンだからな。いつでも相談に乗るし、優香が望むなら、矢吹をボコボコにし射殺してやる』


 射殺する!?


「やだな。恵太……過激な発言してると、警察クビになっても知らないよ。美咲さんにまた叱られちゃうんだからね」


『俺は優香のためなら、警察をクビになっても構わない。美咲なんか怖かねぇよ。断じて俺は、美咲の尻には敷かれてないんだからな』


 恵太の発言に、私は泣き笑い。

 結婚する前から、尻に敷かれてるってば。


「ありがと、恵太。恵太は私の一番の親友だよ」


『はぁ……つまんねぇな。俺はどうせだからな。また、電話するよ。優香、元気だせ。男なんて世の中に掃いて捨てるほどいるんだから。俺は捨てられた方だけど。いつだって復活するぞ』


「くすっ、恵太の復活なんて望んでないから」


『ちぇっ』


 恵太……ありがとう。


 少し、元気が出てきたよ。


 やっぱり恵太は、私の一番の親友だね。

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