貴side
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俺は所属するking production(芸能事務所)社長に呼ばれ、こっぴどく怒鳴られた。
「俳優デビューしたばかりなのに、自分のしたことがわかってんのかっ!異世界ファンタジーのTAKAであることは、映画がクランクアップした時に公表し、世間の注目を集める手筈だったのに、全て計画が水の泡だ。今すぐこの女と別れろ!いいな!」
一方的な社長の言葉は続く。
だが、どうして俺が異世界ファンタジーのTAKAだとバレたのだろう。
このことは社長しか知らないはずだ。
元メンバーがマスコミに情報を流すはずもない。
「どうして俺が異世界ファンタジーのTAKAだとわかったんですか?今はメイクだってしてないし、誰にも口外していない。映画のオーディションでも履歴書に記載していないのに」
「SHOCKING編集部にタレコミがあったそうだ。とりあえず関係各所にFAXを流した。『友人数名と自宅にてパーティーをしていて、朝、友人の勤務先まで送り届けた。彼女は友人の一人であり、交際はしていない』と公表した。
マスコミには一切ノーコメントを貫き通せ。どうせ噂を流すなら、風月桜と恋愛しろ。その方が映画の宣伝になるってもんだ!」
これが……業界なんだ。
こんなこと、わかっていたはずなのに。
俺、何やってんだか。
映画やコマーシャルの契約もあるし、これ以上騒ぎを大きくすれば、関係者に迷惑をかけ、多額の違約金も請求されるだろう。
何よりも、俺が優香との交際を肯定することで、一般人の優香がマスコミの餌食となる。
この騒ぎで、奴らが俺の居場所や優香の居場所を突き止めたら、優香を危険に曝すことになる。それだけは避けなければならない。
だから、社長に反論することが出来なかった。
――ごめんな……優香……。
優香からのメールもちゃんと見たよ。
【矢吹君ごめんなさい。こんな騒ぎになって大丈夫ですか?矢吹君が異世界ファンタジーのTAKAだなんて信じられません。それは本当なの?どうして今まで教えてくれなかったの?】
素朴な質問に、どう返信すればいいのか迷ってた。
今ここで、中途半端な事はできない。
俺なりに真剣に考え、出した答えだ。
でもな。
優香……。
優香に対する俺の気持ちに、嘘偽りはない。
それは……本当だよ。
例え連絡出来なくても……
優香なら、わかってくれるよな。
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