類は友を呼ぶ?

春野ハル

第1話 華麗なる吝嗇家

世の中にはたくさんの人がいる。タコ焼きが好きな人もいればイカ焼きが好きな人もいる。豚骨ラーメンが好きな人もいれば醤油ラーメンが好きな人もいる。そして笠川茜の場合は、お洒落で上品なスイーツよりスーパーで割引シールの貼ってあるおトクなお菓子のほうが好きだった。


笠川茜はピッチピチの女子大生である。しかし茜はそんじょそこらの女子大生とは一味違う、いわば変わり者と呼ばれる部類の人間だった。

「どうして理解してくれないかな。」

困ったことに、彼女は自分の価値観が世間とは少しずれていることに気がついていなかった。自分が標準的だと信じて疑わなかったのである。


どういうことなのか?端的に言えば、彼女は度が過ぎた吝嗇家だった。お金を愛していると言っても過言ではない。そんな彼女の残してきた逸話はまるで現実の話だとは思えない。


まず、彼女の走りは凄まじい。同年代の女性、いや、男性と比べても圧倒的な速さであろうと思われる。だからこそ、彼女は大学に入学してすぐに陸上部の監督に声をかけられた。しかし、彼女が陸上部に入ることはなかった。

「スーパーのタイムセールに間に合わなくなるので。」

これが、彼女が陸上部への入部を断った理由だった。彼女の凄まじい脚力も、授業後のタイムセールに間に合うように全力疾走し続けた結果なのである。現在も陸上部は彼女を(スーパーのクーポンをちらつかせつつ)勧誘しているのだが、なかなかうまくいかないようである。


また、彼女は酒の席には決してでない。

「お酒が入ると食事の値段があがるでしょ?」

これが彼女の持論である。彼女が酒を飲もうと思ったら、スーパーで割引されているお酒を買って家で飲む、という選択肢しかないのである。


ここまでの話で十分思い知らされただろうがもう一度言っておこう。笠川茜は度が過ぎた吝嗇家なのである。安いスーパーを求めて蝶のように華麗にスーパーを渡り歩く彼女だが、今回、今までにない危機を迎えることになる。

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