セノーテの夜
月夜野眼鏡
第1話
それはちょっとした気まぐれ、小さな親切心だった。
舞子が、夜 メールチェックをしていると、全く知らないアドレスからメールが届いていた。
Subject 七夕の夜に
悪戯かもしれない、そのまま削除しようかとも考えたが、タイトルに惹かれ開封してみた。
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やあ、久しぶり。元気だった?
俺は相変わらずの忙しさだが、なんとか日々をやり過ごしている。
東京は速くて広くて思っていたよりも懐が深い。慣れてくると決して悪い街ではないな。
行く前からホームシックにかかっていたのが嘘のようだ。
友達も出来たし、仕事にも慣れてきて、自分なりにやり甲斐を感じられるようになってきた。
君の方はどう?
きっと前向きにバリバリ飛ばしているんじゃないかな。
頑張りすぎるのが君の欠点だ。くれぐれも無理はしないで。
来月二週目に関西に出張する予定。上手く週末に入れられたら、金曜日は七夕だ。
忙しいとは思うけれど、もし君に時間があれば久しぶりに会いたいな、なんて考えているんだけど。気楽にどう?
連絡をもらえると嬉しい。
俺の携帯もメルアドも昔のままだ。
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多分女友達に宛てたメールね。
この人の方がご執心なんだわ。
宛名もなければ自分の名前もない。
メールアドレスで分かり合える親しさなのね。
ちょっとうらやましいな。
でもそれにしては間違って送信するなんてうっかりしているわ。アドレスが似ているのかしら。教えてあげるべきかしら。
メールが届いていないことを知らずに連絡がないとがっかりしては気の毒。
舞子はそのまま返信アイコンをクリックして、短いメッセージを添えた。
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Subject Re:七夕の夜に
あなたのメールが私のところに間違って届いています。一応お知らせします。
てっきりわたし宛だと思ったので、読んでしまいました。ごめんなさい。
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それを送信すると、ブックマークをしているサイトをいくつか見た後、パソコンの電源を落とした。
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Subject Re2: 七夕の夜に
わざわざありがとう。
あなたは随分親切だね。おかげで助かった。
俺のメールを読んでしまったのは仕方がない。ちょっと恥ずかしいけれどね
ところで、あなたのパソコンの日時設定は大きく狂っているよ。(今時珍しいね)
余計な世話かとおもったが取りあえず。
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見ず知らずの相手に書く礼状としては、メールとはいえあまりにも砕けすぎだと思ったが不快ではなかった。
舞子はむしろこのちょっとしたハプニングのもたらす刺激を楽しく感じていた。
日時設定云々が気になり、ディスプレイの右下を確認したが、別に違ってはいない。相手のメールのタイトル横の日時を見て思わず笑みがこぼれた。
何、こういう悪戯なの?
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