まおある ある日のひとコマ その十一

 さくら編



 今日はオメガと約束した日にゃの。


 さくら探検隊、遠征計画の是非を決める大事にゃ日にゃの。


 朝から待ち遠しいかったにゃの。てっきり朝から開始されると思っていたにゃので、全員集めたにゃのにみんなダラケきってるにゃの。しっかりするにゃの。オメガのことだからこれも想定済みにゃと思うにゃの。恐るべしオメガにゃの。



 時間ににゃったのでオメガの下に来たにゃの。



「お嬢様。心の準備はお済でございますか?」


「もっちのろーんにゃの」


「そうでございますか。さくら探検隊! 外出許可を掛けた試験開始でございます! それではご説明致します。その試験とは荷物の配達でございます。時間内にここにあります、三つの荷物を届けて戻るkと。それだけでございます」


「ホーホッホッホッホ。簡単過ぎておへそでお茶を沸かすにゃの」


「お嬢様はよほど、ご自信があるご様子」


「当たり前にゃの。こんなのちょちょいのちょいにゃの」


「そうですか……ふっ。それでは開始致しましょう。届け先は王都のシャングリラのマスター更紗様宛、ルグージュ情報ギルド長ガレディア様宛、最後はいつもお世話になっておりますコリン様宛でございます。場所は各拠点におりますのでお間違えのなきようお願いします。ニーニャお嬢様と三獣士の皆様にはこの腕輪をご用意いたしました。転移ゲートがご使用いただけます。他にご質問はございますか?」


「ほんとにそれだけにゃの?」


「それだけでございます」


「信じられにゃいにゃの! 狡猾な闇の黒羊とまで言われた、オメガらしくにゃいにゃの」


「狡猾な闇の黒羊……執事? で、ございますか……」


「よいにゃの! 受けて立つにゃの! 必ずやその羊の面の皮を剥ぎ取ってやるにゃの」


「羊の仮面は只今被っておりませんが……」


「我ら姉妹力見せてやるにゃの! ニーニャ行くにゃの!」


「あい!」


「そ、それではタイムリミットは夕方五時でございます。それでは、お気をつけていってらっしゃいませ。お嬢様」


「任せるにゃの!」



 次回、狡猾な闇の黒羊の魔の手が迫る! さくら探検隊はミッションを遂行できるのか! 道中は罠だらけ!? こうご期待!





 リートゥス編



 私は第二魔王アイト配下リートゥス。


 アイト様の数少ない配下の一人。


 なぜ、配下が少ないのかと言えば、アイト様は極度の面倒臭がり屋で配下を管理するのが嫌なのだそうです。


 私以外には数人の魔族がいるる程度で他はゴーレムのみ。


 私は生まれも育ちもこの叡智の塔。当たり前です、両親がアイト様の配下なのだから当然です。幼い頃からアイト様を見ていますが、ご自身の興味あることしかしません。時にはお食事すらしないことがあるくらいです。とても心配です。


 幼いときによく抱っこしていただき、


『私はニートだからね。将来、リートゥスが養っておくれ』


 と、ことあるごとに仰られていました。いえ……今でもですけど。


 そんなある日、アイト様に呼ばれ、第十三魔王を探れと使命を受けたのです。


「魔王は12のはずでは?」


 つい、口から漏れてしまいました。父から叱咤が飛んできます。主に対し何事かと。でもアイト様はそんなことを気になさる方ではありません。逆に父のように口煩いほうが疎ましく思う方です。


 態度に出すことはまずないですが、私と二人のときはたまに愚痴を言っています。魔王の座なら譲ってやると。本気なのでしょうか? アイト様の考えは私如きでは到底理解することなどできません。


『そうだね。だけどいるのは事実なんだ。だから探さないといけない』


 そう笑って仰られていました。その笑顔は余りにも眩しく、私には直視できなかったです……。


 しかしどうやって調べようか、アイト様の調査ゴーレムですら見つけられない相手。


 正直、途方にくれてます。


 何度か大きな街に赴き情報収集をしましたが、一向に成果が上がりません。


 しかし、他のことはいろいろわかりました。


 プレイヤーと呼ばれる存在がこの世界に来ていること。クルミナ聖王国のルグージュがモンスターに襲われた際、強力な魔法が行使されたこと。人魚の住む島にリゾート地ができ、とても良い所との噂、是非アイト様とバカンスに行きたいものです……ゴホンッ!


 話がそれました。裏の世界のことも調べました。


 北と南で魔王が暴れているkと、南の海の覇者であらせられるダゴン様がお怒りになっておられること、南には近づかないほうが無難でしょうか? アイト様とのバカンスが……。


 クルミナ聖王国のゾディアックの一族と一部のプレイヤーが揉めていること、自称魔王を名乗る者が北との国境付近の大森林にいること、など多くの情報を得ることができました。自称魔王にいたっては、叡智の塔と目と鼻の先にいるではありませんか……。なんたる不覚。


 そんな私の報告でさえ、アイト様はいつもニコニコと笑い聞いてくださいます。


 ですが、一番大事な情報が集まりません。


 第十三魔王はよほど優秀な情報遮断をおこなっているようです。ここまで何も出てこないと、アイト様のお話でなければ第十三魔王などいないと言ってしまうでしょう。


 そんな折りに、近くにいる自称魔王が軍勢を南に移動させていると情報が入りました。よく調べてみますと、今まで同盟関係にあったアンデッドの王と揉めているらしいです。何か怪しいですね。これは実際に行って確かめてみなければ。


 場所はすぐにわかりました。アンデッドの王が支配する死者の都の近くに、軍勢が既に陣を張っていました。


 どうやら、穏便には済みそうもありませんね。指揮はダークナイトが執るようです。流石、アンデッドの総本山、優秀な者がいるようです。ゾンビだったらどうしようかと思っていました。ゾンビは少しばかり苦手です。臭いが……。


 陣構えの後方にアンデッドの王らしき者がいます。流石に只者ではない雰囲気を出し、畏怖さえ感じさせます。


 そんなアンデッドの王が、何かに向かって手を振っていますね。目の錯覚でしょうか? 一瞬、尻尾をブンブン振る飼い犬が見えました……。


 それにしても、凄い数の間者です。至る所に潜んでいます。どこの間者かわかりませんが、それだけ関心高いことなのでしょう。


 ん? アンデッドの王の横に誰かが現れました。人族のようですが、何者でしょうか? どう見てもアンデッドの王より態度が偉そうです。


 どうやら両陣営準備が整ったようですが、余りにも陣同士が近く前代未聞の状況。完全に力と力のぶつかり合いで勝敗を決めるようです。アンデッドだからこそできる戦術ですね。他の種族なら被害甚大です。


 自称魔王側からの使者がアンデッドの王の陣営に向かって進んで行きます。なんてふてぶてしい態度でしょう。頭はありませんが……あっ、腰の辺りにありました……不気味です。これだからアンデッドは……。


 使者は何かアンデッドの王と話をしてますが、急に隣に居た人族が魔法を放ちましたね、光属性の魔法のようです。開いた口が塞がりません。アンデットの弱点属性ではありませんか。当たりどころが悪ければ致命傷になりかねないです。


 アンデットの王が間に入り攻撃を防いだ後、人族に対し土下座をしています。やはりこの人族の方が立場が上のようです。


「デルタ! 攻撃開始! 完膚なきまで叩き潰し、自称魔王を俺の前に引きずって来い! 己の愚かさをその身で味あわせてやれ!」


 遠くにいる私にさえ聞こえる大声で命令を告げました。なんという、慈悲無き言葉。この方はお優しいアイト様とは正反対の方のようです。私の全身に寒気が襲うほどの冷徹さの持ち主のようです。できれば近くに寄りたくない方です。


 戦闘は呆気ないほどすぐに決着が着きました。正直、自分の目を疑っています。自称魔王側は壊滅状態、アンデッドの王側はほとんど損害無し、あり得ません。夢でも見ているのでしょうか?


 自称魔王もアンデッドの王側のダークナイトに、為す術なく一方的にやられてしまいました。全ては人族が指示した通りの状況です。恐ろしい男です。とても危険です。


 危険といえば、どうやら自分も危険のようです。周りに居た間者が減っています。あっ、また気配が消えました……。不味い状況です。情報遮断の為に間者を消している凄腕の者たちのようです。この辺が引き際でしょう。もう少し情報を集めたかったのですが仕方ありません。危ない場面もありましたがなんとか、転移アイテムで逃げることができました。


 この話は驚くほど瞬く間に裏の世界に広がりました。自称魔王が第十三魔王に敗れて軍門に下ったというのです。どこでそんな話になったのでしょうか?


 私が見た限り第十三魔王はどこにも出て来ていません。あの人族が魔王だったのでしょうか? あり得ません。彼は魔法(光)を使用していました。魔王は光、聖属性は間違っても覚えません。


 それに第十三魔王の名がランツェですか? ランツェは敗れた自称魔王の名だったのでは? 何が何やらさっぱりです。取りあえずアイト様にご報告いたしましょう。


『ハッハッハ……。そう来たか、面白い!』


 今回の件をご報告したところ、いたくご機嫌が良くなりました。何が面白いのでしょうか?


 アイト様は第十三魔王と繋がりを持つため、今度はその人族を探すようにとご指示いただきました。


 またまた、前途多難なご命令です。


 名前も知らない相手を探すとは……。まずは死者の都にでも行ってみますか。何か情報が得られれば良いのですが。


 な、なんですかここは!? 死者の都は迷宮だったはず。迷宮の中に街があります。町の中に迷宮がある場所は知っていますが、逆です! 迷宮なのにモンスターも出てきません。ちょっとホッとしてます。ゾンビは苦手です……。


 取りあえず、聞き込みを開始しましょう。


 メイドさんです。なぜかメイドさんがいます。頭に動物の耳がついてます。普通の耳もあります。飾りでしょうか? 


 そのメイドさんたちに探している人物の人相を語り、上手くはないですが絵も見せますが全く収穫がありません。お腹も空いてきたので、目の前の食い倒れ屋というお店に入りました。食い倒れというくらいです。期待しています。


 中に入るとどう見ても、食べ物屋には見えません。それともこの武器防具はインテリアなのでしょうか?


 中にいた二人の女性に話を聞いてみましたが、やはり食べ物屋ではないようです。仕方ないので駄目もとで人を探していることを伝えて絵などを見せると、妙なイントネーションの喋り方をする方が


「これルークやない?」


 と仰りました。何ということでしょう。まさかのビンゴです!


 詳しくお話を聞きましたが、聞けば聞くほど何者かわからなくなりました。


 ですが、ルグージュや王都によく現れると情報をいただきましたので、見つけるのはたやすいでしょう。実際、すぐに調べが着きました。猫姫のお守という立場のようです。ですが皆様方一様に彼の存在に関心がないようです。絵を見せると、嗚呼この人だったという具合です。


 戦場に居た彼と同一人物なのでしょうか? 余りにも印象が違い過ぎます。猫姫という名は多く聞かれますが、ルークという名は全く聞かれませんでした。誰もどこに住んでいるのかさえ知らないようです。不思議です。


 いろいろ調べた結果、その人物は王都でおこなわれるルグージュ攻防戦祝勝会で露店を開くことがわかりました。


 これはチャンスです。その前にアイト様にご報告をしなければなりません。


『良くやったね。リートゥス。これを持ってその人物に会うといいよ。その人物が私の思う通りの人物なら、この価値に気付くはずだし、必ずや必要になるものだからね』


 ルグージュ攻防戦祝勝会当日に王都に着き露店を探し回りましたが、余りにも多くの露店があり見つけることができたのは夕方近くでした。


 見つけた場所は異界でした。兎とメイドが踊っています。何という世界に紛れ込んだのでしょうか。幼い頃に母に読んでもらった、お伽の国でしょうか? 兎がとってもラブリーなのに、妙に渋い玄人好みの踊りを踊っています。


 露店の中に入ると棚一面に、ケットシーのぬいぐるみが並んでいます。なんて素晴らしい場所でしょう。ここに一生住んでも後悔しない自信があります。


 うーん。買いたいのですが高いです。ヘソクリを使えば買えますが……買いましょう! 既に一体のぬいぐるみに一目惚れでした。茶トラのケットシーで真赤な剣士服を着ていて、真赤な羽付き帽を被ってる子です。


「すいません。この子が欲しいです」


 メイドさんのひとりが対応してくれました。ここいるケットシーのぬいぐるみは、メイドさんたちが心をこめて作ったと聞き、益々愛着が湧いてきます。お金を支払いぬいぐるみを渡された時、メイドさんに名前を付けて可愛がってくださいね、と言われたのでこの子の名前をペロに決めました。


 正直、本来の目的を忘れてしまうところでした。ですが、そのことに気付かせてくれたのは、ダイチという方です。


 必要に、名前や住んでる場所を聞いてきます。もしやアイト様の使いとバレたのかと内心ドキドキ。聞かれてばかりではなんですから、私からも何度か質問をしたのですが何の躊躇もなく答えていただけました。私の勘繰りすぎで、とても良い方のようです。


 そんな折に、私の全身を幾つもの剣で刺し貫くような感覚に襲われたのです。


「何者だ? ことと次第では生きて帰れると思うなよ」


 これが後に【光明のトリックスター】と呼ばれる男との、ファーストコンタクトでした。




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