163 自称魔王討伐イベント、通達される。

「俺達は手伝はなくていいのか?」



 とセイさんは言ってくれるが、ふむー。



「手伝って欲しいのはやまやまですが、ゾディアックとの戦いには手を出さないほうが無難かと思いますよ」


「NPCか……」


「えぇ。相手はNPCになるので、苦い戦いになると思います」


「魔王のほうなら良いだろう」


「そうですね。時間が合えば、よろしくお願いします」


「他にできることはないかな?」


「ならひとつ、作って欲しいものがあるんですが……」



 黒板を使って説明する。これがこうで、こうなのよと。



「構造はネットで調べればすぐだな」


「おもちゃでもこんなの見たことあるにゃ」


「こんなもの何に使う気だい?」


「もちろん兵器としてですよ」


「これが戦いの役に立つのか?」



 みなさん、怪訝な表情をしているな。



「考えが間違ってなければ、絶大なる効果を発揮すると思います」


「わかった。生産組に言って作らせよう。どの位必要だ?」


「百台……それ以上あっても良いです」


「多いな……。間に合うかは約束できないぞ」


「構いません。できたものからください」



 みなさんの協力に感謝を伝えて降魔神殿に戻った。


 オメガの所に行き、頼んであったものを受け取る。



「どうだった?」


「はい。賢者殿が言われた通りでした」


「そうか、ものは?」


「こちらに。こちらが水に入れすぐ出したもの。こちらが一日入れておいたものでございます」



 鑑定してみるが、同じものだ。区別がつかない。


 今度はそれを持ってオールの下に行く。



「鑑定してみてくれ」


「聖水ですのう」


「ふたつの違いは?」


「無いですのう」


「効果はどうだ?」


「下級のスケルトンならイチコロですのう」



 オールの言葉に感情がない。嫌々話している感がある。



「モンスターにも効くか?」


「負の力が強ければ強いほど、効果がありますのう」



 オールに種明かしをする。只の水に聖なるオーブを入れただけのものだと。



「……何とも恐ろしい品ですのう」


「使えると思わないか?」


「諸刃の剣ですのう……」



 そうなんだよな。うちはアンデット主体だから、扱えるものが居ないんだよねぇ。困ったな。少し考えなくてはいけない。できれば、あるものは有効に使いたい。



 シルバーウィークも終わり、リアルでの日常に戻り五日が過ぎた。


 その間は、コボルト族や妖精族の買い物に行ったり、やっと舞姫さんが戻り忙しくなったこんちゃんの代わりに、ルグージュから部品を運んだりして日中は忙しく、夜は夜で迷宮に入り忙しかった。ちなみに舞姫さんは元手を五倍に増やして、ホクホク顔で帰って来た。生粋のギャンブラーだ。


 ゲインからの情報で、クルミナ聖王国から各場所に向かった使者が戻り始めているが、今のところ全て断られているらしい。


 エルフ、獣人の国は西にあり北の魔王に備えるという口実で断り、他の天使族は不確かな情報では動かないと断られたそうだ。


 他種族についてはわかっているのが、大森林のトレント族、ドライアード族、ラミア族は時期が冬という理由で断った。植物に蛇だからな、うまい理由だ。


 ドワーフ族が唯一保留状態になっていて、参戦するかの部族会議がおこなわれているそうだ。


 大方の予想通り、クルミナ聖王国に力を貸す勢力は少ないと思われる。


 北の魔王もまだ動ごく気配がなく不気味だ。


 南の魔王もこれといった動きはないが、オーロラには精力的に動いて他種族の友好度を上げてもらっている。船による貿易も始まっているので、他種族との友好は船舶の安全にも関わってくるからな。


 コボルド族と妖精族も我々と同盟を結ぶと決めてくれた。どうやら里に来たクルミナ聖王国の使者が余りにも高飛車な態度に腹をたて、使者たちを異常状態の混乱にして大森林の奥に投げてきたそうだ。おそらく生きては帰れないだろう。


 そしてイベント開始が運営よりメールで流された。


 内容は、クルミナ聖王国が自称魔王の討伐を掲げた事で、どちらの陣営に着くかの選択がおこなわれる。もちろん、どちらにもつかないという選択肢もある。


 クルミナ聖王国陣営の勝利条件は自称魔王討伐。自称魔王陣営の勝利条件はクルミナ聖王国軍の撃退。


 注意が必要なのは北の魔王の事が一切記載されていない事だ。それと討伐対象が第十三魔王ではなく自称魔王となっている事だな。湯殿の湯を真っ先に沸す……もとい、江戸の敵を長崎で討つってことを運営側が言っていることになる。正に、正義は我にあり! だな。


 しかし、クルミナ聖王国軍だけを撃退すれば勝利だとすると、北の魔王とは別のイベントないし、クエストになるのだろうか? 運営の意図が見えない。


 今回の主役ランツェとは何度も打ち合わせをしている。


 ランツェたちの砦は大森林内にある。大森林内は日中でもアンデットが活動可能エリアになっているからだ。だが、結局最初の戦闘は大森林の外、街道脇の平原になる。というか、する。


 クルミナ聖王国軍もそれを望むはずだ、少しでも野戦でこちらの兵力を減らしたうえで、砦に攻撃を仕掛ける気だろう。夜間の戦いになるが、魔法(聖)(光)や聖水などを使う者を前面に展開して戦う策だろうな。まあ、それ以外策はないしな。



「何度も言ってるが、この砦は捨てるからな、手筈通り準備をおこたるなよ」


「そう、上手くいくのか?」


「いかせないと北の魔王が動いた場合、我々がチェックメイトされる」


「動くのか?」


「動く動かないではなく、全ての状況に対応できるようにするんだ。相手が動いてから行動していたら間に合わない。戦術とは常に二手三手先を読んで行うものだ。指揮官なら体ではなく、頭を使え」


「……」



 仮にも一国の騎士団長だった男なのだが、戦略戦術に疎い。俺には現代社会の知識があるとはいえ、この常識のなさは勘弁してほしい。ルグージュの時の騎兵といい、戦術という学問がないのだろうか? 実際には歴史学になると思うが、この世界の戦いは脳筋的な戦いばかりだったのかもしれないな。


 何度も何度も段取りを確認し、攻撃時、引き際、部下の把握まで、一から説明した。


 そして一番大事な事は戦いには感情は必要ないと、口が酸っぱくなるほど言って聞かせる。感情的になれば正しい判断ができなくなり、自分だけでなく味方まで窮地に立たせる危険がある。指揮官たるもの常に冷静でおり、指揮所にどんっと構えていなくてはいけないのであると。


 それが名将の器ってやつだ。


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