114 愕然たる思いと空漠たる想い

 俺はドラゴンを見上げている。ファル師匠にデルタも見上げている。


 名前はデンちゃんとなっている。さくら命名だろう。



「なんで、デンちゃんなんだろうな?」


あるじ殿はわかりませなんだか? スドラゴですからじゃろうのう」


「さ、流石。我が愛猫。ナイスなネーミングセンス!」


「そ、そうですのう……」


「「……」」



 何ですか? ファル師匠にデルタ。そのジト目はデスドラゴンのデンちゃん、魔王(笑)のペットに相応しい名前じゃないか。何か問題でも?



「デンちゃんと話はできるのか?」


「残念ながらできませぬのう。おそらく魔王様さくらさまにより一時的に純白竜ぺルレが自我を取り戻したおり、どうしようもない事を悟り己を魔王様さくらさまに委ねて自我を封印したと思われますのう」


「封印が解ければまた暴れだすという事じゃな」


「何とも言えませぬのう。魔王様さくらさまの慈愛を受け、少しでも安らぐ事ができれば収まるやもしれませぬのう」


「要するに、今のデンちゃんって?」


魔王様さくらさまの忠実なるペットですのう」


「「「……」」」



 ほっといても良いよな。他にやる事あるし。


 オメガの元にやって来た。



「被害状況は?」


「死者の都の80%が消滅。降魔神殿のシールドは42%まで低下しております」


「ほぼ壊滅か……。人的被害はどうだ?」


「セーフティーエリアが壊滅的な状況で、全ての店舗が破壊されました。プレイヤーは98名が宿に泊まっており、ルーク様達がNPCと呼ぶハンターは24名宿泊、8名がドールの誘導により難を逃れましたが、残りの16名とハンターギルド出張所に居た職員6名全て死亡が確認されております。食い倒れ屋も全壊のようです。プレイヤーが何人死亡したかは確認できておりません。それから、ドールも26体中6体のみ逃げ遂せた模様」


「マジかよ……」



 プレイヤーは良いとして、NPCが22名も亡くなったのか……。ドールの生存率も23%って……。



「できるだけ亡くなった人の家族に補償してやって欲しい」


「承知しました」


「復旧はどうなる」


「降魔神殿のクリスタルにあるポイントだけでは足りませんので、蒼流神殿のポイントを流用すれば復旧可能です」


「足りないの!? 結構なポイントあったよな」


「足りません」


「マジっすか……」


「丁度、更地になった事ですので、迷宮を作り直そうと思います」


「そうだな、それは賛成だ。デンちゃんの居場所も作ってくれ」


「デンちゃん……でございますか?」


「さくらのペットになったデスドラゴンだ。降魔神殿の裏に居るから見てくると良いぞ」


「しょ、承知しました。今後の見聞を広げる為確認しておきます」



 クリスタルの部屋を後にして、ふと気付いた。食い倒れ屋にこんちゃんは居たのだろうかと。メールしておく。と、すぐに返事が来た。


 こんちゃんは気付いたらルグージュの教会前に居たそうだ。ほっとく訳にもいかないのでルグージュに向かった。



「ルークくん! 何があったの? 気付いたらここに居たよ」


「迷宮が何者かによって襲撃されたようです」


「えっ? でもあそこセーフティーエリアだよね?」


「迷宮のセーフティーエリアは、フィールドのセーフティーエリアとは違うみたいですね。俺も初めて知りました」


「お店はどうなったのかな」


「……全壊です」


「そんな……これからどこで生活すれば良いの……」


「補償はしてくれるそうですので、取り敢えずひなさんの所に行きましょう」



 こんちゃんを連れイノセントハーツの砦に飛んだ。



「何があったの? 空が赤く染まったって聞いてるわよ」


「死者の都が襲撃を受けました」


「マジで?」


「マジです。取り敢えず、こんちゃんをよろしくお願いします」


「わかったわ。部屋を用意させるわ」



 こんちゃんを連れひなさんが出て行った。



「何があったんだ?」



 もう、夜中近いのでまりゅりゅとプルミはログアウトしたそうだ。残っていたのはダイチにコッコ、ひなさんだ。



「デスドラゴンの襲撃を受けた」


「デスドラゴンってなにさ?」


「アンデットドラゴンの上のアンデットドラゴンロードの更に上位種」


「マジ?」


「何度も言うが、マジ」



 ひなさんが戻って来た。こんちゃんは一旦ログアウトしたそうだ。



「それで何があったの?」


「馬鹿どもの実験が失敗して、死者の都がほぼ壊滅した」


「壊滅って……」



 言葉通りですよ。事のあらましを説明した。空き巣が礼にくる……もとい、呆れが礼にくるとはこう言う事を言うんだと、三人は開いた口が塞がらない様子。



「それから、アルファが天に召された……いや、魔王のメイドだから地獄に落ちたのか?」


「嘘よね……」


「嘘だよな」


「!?」


「本当だ、メイドの使命を全うしたとだけ言っておく……」



 さっきの呆れ顔から一転、信じられないと言った顔になった。



「さくらとうさ子が相当気落ちしている。暇な時会いに来てくれると、少しは気がまぎれると思う」


「まりゅとプルミには伝えておくわ」


「俺達にできる事はあるか?」


「復旧に関しては問題ないと思う。何かあればお願いする」



 正直今は何も思いつかない。用件も済んだので降魔神殿に戻った。


 部屋に入るとがらんとして誰も居ない。


 メイド隊の一体が来て、さくらとうさ子はレイアとニーニャの部屋で寝ると言ってきた。ついでにペン太もな。ファル師匠も猫共も部屋に戻って休んだそうだ。


 メイドに礼を言って下がらせる。


 こんなにこの部屋大きかったかな?


 誰もいない部屋のベットに腰掛ける。何も考えず、ただぼーっとしていた。


 どのくらいぼーっとしていたかわからないが、気付けば頬が濡れている……。


 ゲームだと割り切れば良いだけの事だ。そろそろログアウトしよう。


 ログアウトしても、何かぽっかり心に穴が開いたような気分のままだった。






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