48 魔王(笑)の休息日

 さくらにペロペロされ、目が覚める。朝だ。


 さぁ、出掛けよう。港街イーリルへ


 えっ、昨日の訓練はどうなったって。ハハハ……順調だよ、順調。このささくれ立った俺の心を癒す為、出発だ。



「お待ちください。ルーク様」


「ん? 何か用かアルファ」


「本日は、休息日とお嬢さまより聞き及んでおります」


「そうだよ。今日は休息日、心のオアシスだ」


「そういう事であれば、本日はわたくしもご同行致します」



 この子は何を言ってるのかな。何故ついてくる?



「どういう意味?」


「ルーク様は本日は釣りをなさるとか」


「そ、そうだが何か?」


「その間、お嬢さま方のお相手はわたくしがお引き受け致します」


「だから何故に?」


「ルーク様が釣りに夢中になってる間に、万が一お嬢さまが海に落ちたら如何なされるのですか」


「落ちたくらいなら、拾い上げれば良いだけだろう」


「お、落ちたくらいですって! ルーク様は既に落ちる事を前提にお考えなのですか!」



 いやいやいや、何言ってんのこの人形、お前が海に落ちたらどうすんだって聞いてきたんだろう。



「今日は断固お嬢さま方にご同行させて頂きます。日頃ルーク様がお嬢さま方と、どう接してらっしゃるかこの目で確かめさせて頂きます」



 面倒くせー。あぁ良いですよ。好きにしてください。


 さぁ行くよって何だよ! その荷物。それ全部持って行くつもりか。ビーチパラソルにテーブルに折りたたみチェアー、クーラーバックに敷物まで。誰が持つんだよ。



「ミャ~」


「お、お嬢さま、何とお優しい。どこぞのヒューマンに見習わせたいものです」



 それって俺の事かな? アルファさんや。さくらが見かねて、キティバックに荷物を収納してあげた事に対する皮肉ですかね。勝手にしやがれって思うが、正直、目の上のたん瘤だな。さくらが良いってんなら自分としてはあえて、これ以上口を挟まない。大人だからな。


 さぁ気を取り直して出発。



 海の匂い、カモメの鳴き声、目の前に広がるオーシャンビュー最高!


 今日は余計な事は考えず遊ぶ。先ずは釣りの道具を買いに行こう。街の道具屋に来てみた。取り敢えず、覗いて見ようか。



「いらっしゃい。何が欲しいんだい」


「釣りの道具を探してます」


「どの程度の腕前だ」


「まだ、初心者です」


「なら、この初心者セットで十分だ。これでまともに釣れる様になれば、一ランク上のを買うと良い」


「じゃあそれでお願いします」


「毎度あり。売った後に言うのもなんだが、今この街で魚は釣れんぞ」


「えぇ!? なんですとー」


「この街の沖にサンゴ礁に囲まれた島があるんだが、どうやらそこで人魚族とサハギン族が戦争を始めてな、此の近海の魚が一匹もいなくなったんだ。漁師達はあがったりでハンターギルドに何とかしてくれと、泣きついたみたいだが……まぁなんともなぁ」


「マジっすか。一匹も?」


「あぁマジだ。魚どころか海洋生物全てだ」



 終わった。街に着いて一時間も経たず休日終了してしまった。


 カモメは自分達を歓迎してくれていた訳でなく、腹を空かして鳴いていたのだな……。


 天のインフォが聞こえる。


『海の幸は誰のもの? が現在発生しています。この問題が解決しない場合、港街イーリルは消滅します』


 この街に居る全てのプレイヤーが対象のクエストみたいだ。


 さて、どうしますかね。ここで帰っても構わないと思うが、なんかむしゃくしゃしている。このどこにもぶつけようの無い怒りに。



「さくら達はどうしたい?」


「クェッー!」


「……ミャッ!」


「「……」」



 何故かぺん太がやる気満々の様だ。さくらもやっても良い様くらい。残り二名は全く興味がない様だ。従って三対二でクエスト参加に決定。


 取り敢えず、情報収集をするか。


 港に来てるが、閑散としている。港には多くの漁船はあれど、人っ子一人見当たらない。ちょうど通りかかったおじいさんに話を聞いてみる。


 この状況になったのは、最近らしく今までこんな事になった事はなかったそうだ。そもそも人魚族は滅多に人前に姿を現す事など無く見れればラッキーぐらいっだたのが、今では完全武装のマーマンが沖にある島の周りを回遊しており、船が近づくと攻撃されるらしい。


 そうなった理由がどうやらサハギン族にあるらしく、サハギン族が沖にある島に攻撃を加えているらしいのだ。サハギンはそれほど強いモンスターではないが質より数で攻めている為、人魚族は防戦一方のに追い込まれている状態でピリピリしているとか。


 一度ハンターギルドがサハギン退治にハンターを集めて行ったが、海の上では分が悪く失敗に終わった事から次の打つ手が無く、手をこまねいているそうだ。


 サハギン族は本来おとなしい種族で王制を敷いており、そこからあぶれた者たちが所謂モンスターとして区別されると、アルファが教えてくれ。なかなか博識な奴。



「只の喧嘩じゃ……ないよな」



 なんですかアルファさんそのゴミでも見るような目は。やめてください……ゾクッとしたじゃないか。昨日の折っかn……訓練のせいで変な扉がちらほら見えているから危険な状態なのに。ご褒美はいら無いぞ。じょ、冗談ですってアルファ……その剣どこから出した? 危ないから……な?


 ど。どうやら命の危機は去った様だ。


 さくら~あのおばちゃ……お、お姉さん怖いよ~。さくらのほっぺにスリスリするのを見せつける。アルファが口にハンカチをくわえキィーと悔しがっている。ざまぁ。さくらも俺の顔をペロペロしてくれる。更に追い打ちがかかり打ちひしがれている。


 あぁ、アルファ泣いちゃったよ。遣り過ぎたかな。仕方ないさくらちょっとペロペロしてあげなさい。さくらをアルファに渡し、さくらが顔をペロペロするとやっと泣き止み笑顔になる。現金なやつだ。しかし、泣き止んだと思ったらこちらを見て、どや顔をしてるよこの人形……。


 いつか分解してやると心に誓う。



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