43 新装オープンとお見舞い

 死者の都の改変が終わり、さくらとうさ子を連れてセーフティーエリアを見に行く。多くのプレイヤーやNPCのハンター達は口をアングリ開けて立ち尽くしている。



「イベントがあるなんて聞いてねーぞ」


「食堂があるぞ」


「メイドさんがおるでー」


「ネコミミサイコー!」



 など聞こえてくる。概ね好評だな。


 ここに居るプレイヤーが街に戻れば、この迷宮の情報が広がり多くの人が訪れる様になる。多くの人が訪れれば多くの魔力が吸収できてウハウハ。これぞチャルメラ吹けば麺屋が儲かる作戦。


 俺も街に行き噂を流せば更に情報が広がるかも。やらねばならぬな。


 一通り見たのでクリスタルの部屋に戻り、レイアリーサさんのお見舞に持っていくケーキを用意する。



「そういえば、あの皆さん方はどうなされたのかのう」


「皆は王都に向かったぞ」


「王都とはヘルネの事ですかのう」


「オール知ってんの?」


「生前に一度、国ができたばかりの頃でしたかのう」



 流石、五百年も存在してるとスケールが違うね。



「我の知ってるヘルネなら、転移で行けたのにのう」


「なぬ? 転移で行けんの?」


「行けますのう」


「連れてって!」


「夜ならば問題無いと思いますのう」



 成程、日中にオールと行ったらパニックになるな。という事で夜に王都に行く約束をした。うまくいけば、自力で行く必要がなくなる。


 夜までは時間があるので、当初の予定通り、レイアリーサさんのお見舞にルグージュの街に行こう。


 街に着き【優雅高妙】の皆に連絡がつけばとチャットを試すが、もう出発した後の様だった。今さら引き返せと言えないので、みんなで頑張って王都まで行ってください。自分は一足先に王都に行ってるぜ。


 さて、レイアリーサさんのお見舞にも行かないといけないけど、情報を広げる広報活動もしないといけない。その辺に居るプレイヤーに適当に声掛けてみるか。



「なぁ知ってるか?」


「ん? なんだ?」


「最近解放された迷宮あるだろう」


「死者の都とか言うのだろ。遠いし、アンデットが面倒だからパスだ」


「確かに遠いな、でもな迷宮の入口にめちゃくちゃ可愛いメイドさんがやってる宿や食堂があるらしぜ。それもネコミミ」


「マ、マジかそれ」


「さっき転移石で戻って来たプレイヤーに聞いた話だから、間違いない。道具屋や武器屋なんかもあるらしぜ」


「そ、それなら行ってみるかな。か、勘違いすんなよ、メイドさんに惹かれたからじゃねぇからな」



 はい。一名様ごあんなーい。チョロイ、チョロ過ぎるのですよ。世の男性諸君! そんな事では簡単にぼったくりバーに引っ掛かるぞ。この後も二十人程に全く同じ様に声を掛た成果……百発百中だった。男はメイドと言う言葉に弱すぎると思う……。


 うさ子とぺん太が飽きてきたみたいなので、そろそろお見舞に向かうか。


 コリンさんの家に着いたら、うさ子が勝手に扉をノックしちゃいました。まだ心の準備ができてないのに。



「あらあら、皆さん良く来てくれたわね。どうぞお入りになって」



 うさ子はズカズカ入って行って、こないだ座った椅子に座ろうとまたジタバタしている。仕方ないのでぺん太の入ったリュックをうさ子から受け取り椅子に座らせてやる。



「あら、新しい子もいるのね。何をお出ししたら良いのかしら?」


「この子達の事は気にしないでください。食べ物は持ってきてますので」


「そーお、今度来た時はちゃんと用意して置くわね」



 そう言っていつもの様に紅茶を入れてくれ、うさ子の前にクッキーの載った皿を出してくれた。



「ルークくんがレイアを救ってくれたと聞いるわ。本当にありがとう」


「いえ、もっと早く助ける事ができれば、あんな辛い思いをしなかった思うと悔まれます」


「そんな事はありません。貴方が救ってくれなければ、おそらく二度とあの子に会う事は叶わなかったと思うの」



 二階から誰かが降りてくる気配がする。


 姿を現したのはパジャマ姿にカーディガンを羽織ったレイアリーサさんだった。一瞬その姿にドキッとする。



「レイアまだ寝ていないと駄目よ」



 コリンさんはそう言って、彼女の肩を支えてあげてる。



「ルークさんの声が聞こえたから……」



 コリンさんは取り敢えず、彼女を椅子に座らせた。腫れていた顔もだいぶ良くなり、多少痣が残っている程度、この分なら顔に傷痕は残らないだろう。



「お加減は如何ですか」



 何て陳腐な事を言ってるんだ俺は。もっとウィットに富んだセリフの一つでも言えんのか。



「おかげさまでだいぶ調子が良いです」


「みゃ~」



 さくらが彼女に飛びつき顔をペロペロ。さくらも心配してたんだな。それに比べうさ子とぺん太、お前たちクッキーの取り合いをやめなさい。



「さくらちゃん、ありがとう」


「ミャー」



 うーん。凄く絵になる光景だ。絶対的可愛いさと慈愛に満ちた美しさがお互いを引き立て合うマリアージュの様な……ってなに言ってんの俺。



「これ良かったら食べてください」



 持ってきたケーキを出した。



「あら、何かしら開けても良いかしら」



 頷いた。



「まぁ、美味しそうなケーキ? かしら。折角だから頂きましょう。ね、レイア」



 そう言って俺にも皿に載せ出してくれる。一度断ったが、一緒に食べましょうと言われたので、俺も頂く事にした。



「美味しい……」


「とても美味しわね。こんな美味しいケーキ初めて食べたわ」



 さくらにケーキの上に乗っていたイチゴと、スポンジ部分をほんの少しだけあげる。うさ子とぺん太は興味がない様だ。


 ケーキを食べ終わりお茶を飲んで一息着いた所で、レイアリーサさんが頭を下げてきた。



「ルークさんには何てお礼を言えば良いかわかりません。このご恩は必ずお返しします」


「頭を上げてください。そこまで恩に着る必要は無いですよ。ちゃんとガレディアから報酬は貰いますし、切っ掛けを作ってしまった自分にも責任があると思っています。逆に謝らなければならないのは自分かもしれません」


「そんな事は絶対にありません。ルークさんが助けに来てくれて、ほんとに嬉しかったです」


「あらあら、年寄りはお邪魔かしらね。ね、うさ子ちゃん」


「ブッ! ブフッ……」


「ミャッ!」


「な、何言ってるんですか、おばさまは!」



 さ、さくらすまない汚かったね。ごめんよ。


 と、そこで急に扉が開き。



「待ってたぜルーク! 良くやってくれた。今日は俺の奢りだ。飲み行くぞ!」



 自分の意思とは関係なく熊に拉致された……。




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