魔王(笑)のあるじ

にゃんたろう

01 これが始まり

 あと数か月で三十代が終わろうとしていた今日この頃。


 若かりし頃はゲーセンやVR型PCでゲーマーとして名を馳せていた時機もあったが、いつの頃から仕事中心の生活に変わり稼いだ金は仕事の憂さ晴らしの為に酒に変換される毎日だった。その為、私生活の中での自由な時間が減り自ずとゲームから遠のいていったことは言うまでもないだろう。


 そんなある日、仕事帰りにマンションの宅配用ポストに何か届いているに気付き確認すると小包が届いていた。


 小包が届くなんてめずらしい。両親は既に他界しているし一人っ子なので兄弟はいない。ネットで何かを買った覚えもない。


 送り状を確認すると、送り主はいつも愛読しているデジタル経済流通新聞社からだった。


 荷物を持ち部屋に帰り何時ものグレーの上下のスウェットに着替え、届いた小包を開けてみる。そこには今世間で話題になっているフルダイブ型VRゲームsyber elemental Co.,Ltdの『infinity world』が入っていた。


『infinity world』去年、発売されたゲームだが今予約しても一年待ちの状態という程の人気ゲーム。全世界で発売されているが国ごとにサーバーが分かれている為、違う国のプレイヤーと共闘は出来ない。最初の設定で自国以外のサーバーに変更は可能らしいが言葉の壁があるので、その国の言語が出来ないと難しいらしい。翻訳機能も有るがタイムラグがあるうえ、本人の声ではなく無機質な声らしく不評と記事に書いてあったのを覚えている。


 そういえば、新聞の懸賞に応募した様な……しなかった様な。


 ここはひとつ折角なので転売して酒に変換しよう! と思った時機もありました。結論から言うと出来なかった。応募した時点でメールアドレスや使用PCのアクセスIDなどの情報も確認されていたらしく転売出来ないように手が打たれていた。いったい、いつ応募したんだ? 全く記憶にない。あれだな、恐らく酔った勢いで応募したんだろう。酒って怖いな……。


 ふむ。売れないならやってみるか、VRゲームならやっていたがフルダイブ型VRゲームなんてやったことがない。だが、これでも元自称ゲーマー、昔取った杵柄。まあ、なんとかなるだろう。



 そう思いたった日からゲームを開始するまで一週間かかった。自分が持っているPCではフルダイブ型VRに対応していないし、周辺機器も持っていない。それをネットで注文して届くまでに時間とお金が少なからずかかってしまった。


 その他にも、医療機関での健康診断証明書が必要だったり、全身の3Dスキャンデータが必要だったりと忙しい日々が続いた。ちなみに、3Dスキャンはある程度大きいデパートかゲーセンに行けば取ること出来るし、今回の健康診断で出してもらえたので問題はなかった。


 時間が掛かったと言えばゲーム内音楽だ。今時のゲームはOP、EDくらいしか音楽が流れない仕様になっている。リアル志向が主流なので当たり前なのだが、オールドプレイヤーとしては寂しいかぎりだ。そう言うプレイヤーの為に自前での持ち込みが可能になっている。


 本人にしか聴こえない様にしたり、周りにも聴こえる様にもできる。後からも設定可能なのだが、取り敢えずフィールド、バトル、セーフティエリア、ボスの4曲だけは譲れないので作成に時間を掛けてしまった。


 そして金曜の夜、新しいPCに周辺機器をセットしてゲームのダウンロードを済ませ、3Dデータと音楽データのダウンロードを完了させる。


 ベッドに横になりフルダイブ型VR機器を自分にセットする。フルダイブ型のVR技術自体の安全性は既に確立しているが、法律で必ず生体異常確認が出来る様に血中酸素濃度や血圧、脈拍、体温等をモニター出来るようになっており異常があれば、すぐに強制ログアウトする仕組みになっている。見た目はまぁ、あれだ病院の集中治療室のベットに寝ている患者に見えなくもない……。



「よし! 準備はOK。始めるか」



 誰に言う訳でもないが、久しぶりのゲームの為気合を入れてみた。






  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る