アンダー

いちごはニガテ

第1話 ブラックアウト 1

「御国のために散ってこい!」


それが俺の聞いた最後の命令だ。



帝国の下士官である俺は、上の命令には絶対に逆らえない。


逆らえないことはないが、俺を守護するアトパ(自律思考型個人装甲 ATTPA)の奴がそれを許さない。


長きにわたって混迷した戦時下では、命令違反は重大な不確定要素を導くからだ。



他に誰もいない空母艦の操作デッキの席で手を止め諦めかけた俺に、声がかかる。


『タケル様 命令は絶対です  軍人は上官の命令 上官は御国の意向に従うものです』


俺の反発する感情の波を計測した俺専属のアトパであるツムガリが、実に冷たいAI独自の口調で促す。


「わかったよ。散ればいいんだろ!散れば!!」


『これは無駄死にではありません 今回の作戦で あなた様は御国の糧となるのですから…』


『お前は俺の生存をたすける保護者のはずじゃなかったのかよ?』


『私は あなた様をサポートする存在であって 親ではありません  そもそも それはそれ これはこれ  軍人は上官の命令 上官は御国の意向に従うもので そのことは 軍の兵器でもある 私にも当てはまります』


お決まりの答えに、俺は返す言葉もなかった。



「それにしても、この自爆作戦のための操作ができねぇんだけど」


『最新型の帝国の空母艦のAIには 自己防衛の為のプログラムが搭載されてますからね 自らに向けての攻撃や自爆は できないと思われます』


「こいつには御国の意向が通用しねぇってことか?それじゃ、お手上げじゃねぇか」


『空母艦や艦載機は 所詮グレードの低いAIしか持たないので そのような高度な判断はつかないと思われます」


自殺が高度な判断かよ…。そんな思いはもちろん聞こえなかったようだ。


『手立てはあります AIの制御を外すか もしくは…』


ツムガリの奴が珍しく言いよどんだ。



「もしくは、なんだよ?」


『…搭載されているAIを破壊することです』



これは擬似感情のなせる言動ってやつか…。


よくよく考えれば、作戦が始まって以来の受け答えの冷静さも本来の高度AIには不似合いな口調な訳で、ツムガリもツムガリなりに今回の作戦の理不尽さを理解してるのかもしれない。


グレードが低いと蔑んだ搭載AIの破壊をためらったように。


「…お互いに」


「…宮仕えは、つれーよな」


そんな俺の言葉に肯定を示さずに、ツムガリは両方の作戦の可能性をパーセントで表した。


『タケル様  制御切り離しによる成功率は 70%  …AI破壊によるものは 95%になります』


「それじゃあ、70%の方だな!」


『あなた様は また  確率の低い方を…』


「意向には逆らってねーだろ?」


『はい!』


その返事は、今回の作戦の中で一番のはっきりした感情のこもったものだった。



タケル 


ネオ第三帝国ヤマトの 下級下士官 生まれ育ちの事情により この時代には 珍しい純粋なヒューマノイド(一般のサイバー化されたヒューマノイドの中では 希少な存在)

下級下士官の階級は 作戦伍長 いわゆる戦場においての何でも屋


ツムガリ


戦場における人員をサポートする アトパ(自律思考型個人装甲 ATTPA)に搭載された 擬似人格とも言える 高度なAI

個人によるものの中では 強大な戦闘力と 的確な判断 そしてヒューマノイドに近い 擬似感情を持つ






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