第14話 播磨国攻防戦

 天正6年(1578年)3月、越後の上杉謙信が病没した。

 織田家にとっては強力な敵だった謙信が亡くなることは、信長にとって有利だった。謙信亡きあとの上杉家は家督争いで内乱を起こす。いわゆる御館おたての乱である。少しあとの話になるが、この乱に勝利した上杉景勝は、謙信の代からの宿敵であった武田家と和睦、同盟をした。


 上杉と武田の同盟。

 さらに西側の毛利、本願寺との対決。

 織田家はまたひとつ、難しい舵取りを迫られる。


 そんな中、信長は、


「天下統一はまだなっていない」


 という理由で、右大臣を辞任した。

 この年の4月9日のことである。


「万国安寧、四海平均のときになれば、余はふたたび帝の臣となろう。それまでは、ただの信長でいたい」


 信長はこう述べてから、


「朝廷がどうしてもと言うのであれば、我が嫡子、信忠に官職を賜りたく」


 と公言した。


 ただの信長。

 日本の、すでに三分の一を手に入れた男が。

 朝廷とは別個の権力者であろうとしている。織田信長が。


 俺はこの動きに対して、どう動くべきなのか。まだ答えを出せていない。




 その、信長が官職を与えるなら嫡子、と言った織田信忠がいま、俺のすぐ目の前にいる。

 信忠だけではない。丹羽長秀、佐久間信盛、明智光秀、さらに我が友、滝川一益までもがいる。

 さらに、秀吉、小一郎、蜂須賀小六、竹中半兵衛といった面々も揃っている。


 天正6年(1578年)、6月。

 現在地は播磨国。織田軍の本陣である。


 一度は従っておきながら、織田家に対して反乱を起こした三木城の別所長治に立ち向かうため、織田家の軍団が勢揃いした、というわけだ。そしてその中にこの俺も加わっている。伊与とカンナは、神砲衆の商務と伊勢の造船を手伝うために、津島のほうに残っているので不在だ。


 そういうわけで軍議である。


「三木城の別所だけなら、どうってことはなさそうだがよ」


 滝川一益は、やや物憂げに言った。


「問題は毛利の本軍だ。やってきているんだろう? 播磨の西側に」


「上月城を包囲しております。数はおおよそ3万」


 竹中半兵衛が、これまた物憂げに言った。


「上月城には、織田家の味方となった尼子勝久とその家来衆が詰めております。毛利はこれを落とすつもりです。その上で、毛利軍は三木城に攻め寄せてくるでしょう」


「数は織田軍と同等ってか」


 滝川一益は、腕を組んだ。

 そこへ蜂須賀小六が、


「だが、地の利は相手にある。毛利は播磨の政情や地形に明るく、別所に至ってははるか昔からこの播磨を根城としている大名だ。数は同じでも戦うとなると手を焼くことだろうよ」


「ひとつ、案がござる」


 明智光秀が言った。


「われわれ織田軍は三木城を攻略することだけを考える。上月城は捨て石にいたす。毛利本軍が上月城を攻めている間に、我々が三木城を攻略すれば、毛利は播磨の東側にやってくることは困難となり申す」


「それはいかがなものか。……明智」


 この場の総大将である信忠が、静かに言った。


「上月城に籠もる尼子軍は、いまも我々の助けを待っているはず。これを見捨てては、しょせん織田家は自分たちのことだけ、頼りにならぬと世間が思うことだろう」


「殿様(信忠)、恐れながら、それはいささか甘うござる。尼子は新参者。織田にとって譜代の臣でもなんでもござらぬ。であれば、尼子のほうこそ獅子奮迅の活躍を見せ、毛利軍を上月に引き寄せておき――織田本軍がやってくるまで、五年でも十年でも戦い抜く覚悟と実力を見せねばなりませぬ。そうやってはじめて、尼子は織田家の信用を得ることができるのです」


「それはそうだが。……しかし明智。先の天王寺の戦いで、父上はみずからそちを助けに向かった。そのときの嬉しさは、かけがえのないものであっただろう?」


「無論。……しかし、それはそれ、これはこれでござる。……そして、新参の尼子と、織田にとって長年、多大なる功績をあげてきたこの明智十兵衛とでは、命の重みがまるで違いまするぞ」


「自分で言うのかよ」


 滝川一益が、俺にだけ聞こえる声でぽつりとつぶやいた。


 秀吉は、ずっと黙っている。

 この状況になったのは、結果だけ言えば、秀吉の責任であった。

 播磨国をうまく制御できず、一度は織田の味方となった三木城の別所氏を毛利側につけてしまったのは、秀吉の失敗でもあった。だから秀吉は、珍しく無言を貫いていたのだが、そのときであった。


「あいや。拙者、発言、よろしいですかな!?」


 突如、大きな声が陣中に響いた。

 誰もが声の主に目を向ける。


 やや皺の多い、しかしまだ若い――といっても三十路ほどだが――の鎧武者が手を挙げていた。


「そちは、誰じゃ」


 信忠が問いかけると、男は、


「拙者、播磨の小寺官兵衛こでらかんべえと申す者!」


 と、名乗った。

 それで俺は、ちょっと驚いた。


 彼が小寺官兵衛か。

 のちに黒田官兵衛と苗字を改め、秀吉の軍師となって無数の活躍を見せる名将だ。

 反織田、反羽柴、そして親毛利の気運に満ちあふれるこの播磨の地において、一貫して織田、羽柴を支持し続けた男でもある。


 結果的に言えば、秀吉を支持し続けることは、歴史の正解である。

 しかしいまこの時代において、織田を取るか毛利を取るかの選択肢が現れたとき、周囲の大名小名の多くは毛利家を選んだ。


 周りの誰もが選んでいる道を選ばず、みずからの選んだ道をただ突き進む判断ができた小寺官兵衛は、やはり尋常の男ではないわけだが、――その官兵衛がいま、秀吉の背後にいる。


「おう、そちが小寺官兵衛か。父上から話は聞いておるぞ」


「ははっ。上様には以前、お目通り叶いまして、名刀、圧切長谷部へしきりはせべをいただきましてござる。それより拙者、羽柴筑前どのの与力として、この播磨国にて智謀を働かせておる次第で!」


 うまい。

 俺は素直に、官兵衛の話の進め方に感嘆した。


 誰もが、小寺官兵衛のことを(誰だこいつは)という目で見ていた。(秀吉の家来か)という目でも見ていた。


 そもそも先ほど、明智光秀が「よそ者など助けなくてもいい」と主張したばかりであった。

 そんな軍議の場において、見慣れぬ播磨人がいきなり登場すれば、誰もが(なんだ)と思ってしまう。


 だが官兵衛は、すぐに信長から名刀をいただいたと主張した。

 すなわち信長と関係がある人物だとアピール。

 さらに、自分は秀吉の与力と主張した。家来ではない。


 これでまた、みんなの官兵衛を見る目が変わる。

 秀吉の家来ならば、他の織田家臣より身分がひとつ下ということになり、対等に話せる立場ではなくなる。まして信忠とは口も利けなくなる。


 だが秀吉の与力という立場になれば、官兵衛は他の織田家臣団と対等になるのである。

 喋ることができる。


 そこへ、秀吉がニコニコ笑って「おお、おお」と言いだした。


「いや、殿様と皆の衆には紹介が遅れて申し訳ない。ここにいる官兵衛は確かに我が与力。智謀は我に勝り、愛嬌は我が女房にも勝る。この藤吉郎から見て、小一郎のようなもの、すなわち弟同然の存在なのでござるよ」


 これまた、うまい。

 先ほどまで秀吉は、失敗をしたばかりで黙っていたが、ここで官兵衛の存在を猛烈にアピール。


 播磨国の侍、誰もが毛利に走ったのではない。

 信長とも顔を合わせたこの官兵衛が、まだ織田についているのだ。

 すなわち、秀吉は失敗ばかりしたのではないぞ、と信忠、ならびに諸将にアピールしたのだ。


 秀吉と官兵衛は、互いに目配せしあった。

 成功した。場の空気は変わった。いるかいないか分からなかった秀吉と官兵衛が、突如として軍議の場の主役として躍り出た。見事なタイミングでの会話開始であった。


「……小寺殿」


 丹羽長秀が、温厚な声を出した。


「拙者、羽柴筑前どのに『羽』の一文字を授けた丹羽五郎左衛門と申す者。以降は見知りおいていただきたい。……ところで、先ほど、発言がしたいと言ったようだが、さてどのようなご意見ですかな?」


「おお、あなた様が丹羽様でござるか。戦においてもまつりごとにおいても、米のように欠かせぬ存在。米五郎左の異名は、播磨にも鳴り響いておりますぞ。はっは……。さて拙者の意見でござるが、……先ほど明智どのがおっしゃったように、上月城の尼子、これは見捨ててしまい、織田軍は三木城攻めに集中するべきでござる」


「ほう。尼子を見捨てれば、織田家は天下の信を失うというのが殿様の意見でござるが?」


「左様でもございますまい。尼子はそもそも出雲国の大名だった家。播磨の人間からすればよそ者でござる。これを見捨てたところで、天下の信は変わりますまい。明智どのの申される通り。上様や殿様が、損得勘定を抜きにしても尼子を助けたいと思わせるほどの存在になれなかった。それだけでもはや、尼子の負けなのでござるよ」


 冷たい。

 と俺は思った。


 例え外様であっても、助けられるなら、助けてやりたい。

 しかしそれが困難なことも分かっていた。……尼子を助けようとするばかりに、織田の兵が命を失っても、またいけないのだ。


 ……と、頭では分かっているが。

 やはり、誰かを見捨てるという選択肢は辛い。

 明智光秀や小寺官兵衛のようには、すぐには割り切れない俺であった。


 俺の思いはどうでもいいとばかりに、軍議は進む。


「で、あるならば、上月は見捨てて、我らは三木城の別所を倒すべし。……拙者、毛利と尼子の力をよくよく考えてみたところ、毛利はおそらく上月を落とす。しかしながら、そこから別所を助けるために、織田本軍と戦をするほどまでは余裕がありますまい。……毛利はここまでは来ぬ! であるならば、我々はまず三木城の支城を攻略し、三木城を丸裸にする。その上で、三木城をぐるりと包囲し、そう、兵糧攻めにするのが上策と存ずる!」


「……さて、兵糧攻めは、いかがなものでござろうか……」


 そのとき竹中半兵衛が口を開いた。

 今度は陣中の注目が半兵衛に集まる。

 半兵衛は、青白い顔で、


「小寺どののお考え、策としては申し分ありません。尼子衆を見捨てるはいささか心苦しくもありますが、他に上策もなし。ましていまの織田家には兵も金も余裕がなし。で、ござろう? 山田弥五郎どの」


 突如、話を振られて俺は少し驚いたが、すぐにうなずいた。


「北陸は、上杉謙信没したとはいえ、なお討ち滅ぼしてはおらず。東は武田家も北条家も健在。さらに石山本願寺もおり、毛利家本体もいるこの状態では、確かに織田にはそれほどのゆとりがありません」


「ならば上月は見捨てるほかない。……そして三木攻めでござるが、兵糧攻めをやるには、包囲する側に金と米がいり申す。しかしいまの織田家にはその余裕がない。……ならば兵糧攻めは下策でございます。そうは思われませんか?」


「そこは上様に頼るしかありますまい。安土の楽市で入った金を使い、米を買い集めれば……」


「その金は安土の築城に使われております。いくさには使えません」


 ここで官兵衛の、ちょっとした計算ミスが露呈した。

 官兵衛は織田家の経済状態が、決して良好ではないことを知らなかったのだろう。


 織田家は豊か。

 織田家は強い。だから兵糧攻めもできる。そう思ったに違いない。

 外から織田家を見ていると、そういう風にも見えるのだろうが……。


 兵糧攻めはダメか。

 陣中がまた、暗い空気に包まれかけたが、そのとき俺は口を開いた。


「兵糧攻め、結構なことです」


「……なんですと?」


 官兵衛が、驚いた目で俺を見る。

 俺は、ちょっと笑って、


「官兵衛どのの策でいきましょう。金や米のことならば、心配されないでください。こんなこともあろうかと、この山田弥五郎、以前から駿河国や遠江国より米を仕入れておりました」


「なんと!」


「我が娘が、駿河の商人に嫁ぐことになりまして。その繋がりから兵糧を買い集めることができたのです」


 おお……と陣中がざわついた。

 そのとき、秀吉が、ばぁん、と俺の背中を叩いた。


 いてて。

 痛いよ、秀吉。


「さすが弥五郎じゃ。汝、さすが商人、先の流れを読むことにかけては天下一品じゃな! 殿様、これでいかがでござろうか。官兵衛の策、弥五郎の米、これを持って別所を倒す。どうでござろうか!」


「うむ。羽柴の言や良し。……尼子は悪いが捨て石とする。その上で、我らはまず三木城の周囲にある城と砦を落とし、そして三木城を兵糧攻めにする。左様、決めた。……おのおの、異存あるまいな?」


「ございませぬ」


 誰もがうなずいた。

 信忠はうなずいて、


「では小寺官兵衛と山田弥五郎の考えでいく。おのおの、油断めされるな」


 これで方針は決まった。

 織田軍は、上月城を見捨てて、三木城攻めに集中することになったのである。


 諸将が、陣から出ていく。

 だがそのときだ。俺は手を挙げて、


「殿様。それに藤吉郎」


 と、信忠と秀吉を呼び止めた。


「どうした、山田」


「……上月は見捨てる。……しかし、上月から逃げ出した尼子の兵や小者は、なるべく助けてやりたい。……神砲衆から、助けるための忍びを放ってもよろしいでしょうか?」


「忍びを? ……人間はひとりでも多く、別所攻めに回したいところだが」


 と、信忠は難色を示したが、秀吉はニヤリと笑い、


「神砲衆の采配は山田弥五郎が決めることじゃ。汝、わしらに気を遣わず、上月の兵をひとりでも助けてやれ。……どうせ、五右衛門と次郎兵衛あたりを出すんじゃろうが? んん? ……構わんよ、やれい」


「すまぬ。……ありがとう」


「余はまだ、なにも言っておらんが」


 俺と秀吉があっさりと人助けに動いたことを、信忠は、ちょっと眉をひそめたが、やがて少しだけ笑って、小さな声で、


「父上には内緒じゃぞ。見つからんようにうまくやれ。ばれると、あの方はいろいろとうるさい」


 さすがに信忠はまだ若く、悪戯心のようなものをまだ強く持っていた。

 いや、それは俺と秀吉も一緒か。


「ありがとうございます、殿様」


「わしからも。感謝申し上げますぞ、殿様」


 俺と秀吉は深々と、頭を下げた。




 その日の夜。

 近隣の寺に置かれてある羽柴の本陣で、夕食を終えた俺は、竹中半兵衛と小寺官兵衛が廊下で立ち話をしているのを発見した。


「これは、お二方……」


「おう、これは山田どの。……軍議では世話になり申した。改めて、小寺官兵衛でござる。以後、お見知りおきのほどを」


 官兵衛は、頭を下げる。


「ああ、いえ、なんてことは……。……ああ、半兵衛。そちらこそさっきの俺は、そちらの顔をつぶすようなことを言って、申し訳なかった」


「いえ、とんでもない。それよりも、あらかじめ米を買い集めておくとは、さすがは山田殿でござるな。半兵衛、感服仕った」


「いやいや、実に実に。これが天下に名高き山田弥五郎殿の先読み商いかと、官兵衛も目を丸くしておりました。……山田殿に竹中殿がおれば、別所など恐るるに足らず。すぐに討ち滅ぼしてみせましょう。はっは。……では、拙者はお役目があるので御免――」


「あ、ちょっと……」


 立ち去ろうとする官兵衛を、俺は呼び止めた。

 いまは天正6年(1578年)の6月だ。……言おうかどうか迷ったが、ここで言わねば官兵衛と話す機会を失いそうだから、言っておくことにした。


「これから先、敵が現れて、……官兵衛殿が説得をしなければならない、という状況が起こるかもしれません。しかしそのときは、決して独断専行されませぬよう。くれぐれもお願い致します」


「は? ……はあ……」


 官兵衛はキョトンとしている。

 無理もない。こんなことを言われても困るだけだろう。


 だが言わねばならないのだ。

 いまから四か月後、摂津国の荒木村重が織田家に対して謀反を起こす。

 官兵衛はその荒木を説得するために、単身、荒木のいる有岡城へ向かい、だが逆に捕まり、幽閉されてしまうのだ。


 官兵衛の幽閉は、その後の歴史にとって大きな影響もない。

 官兵衛が幽閉されなかったとしても、歴史に影響はないはずだ。……おそらくは。


 むしろ、その幽閉によって官兵衛は、足が不自由になったとさえ言われている。

 そんなのは、気の毒だ。官兵衛には幽閉されないように忠告しておいたほうがいい。俺はそう思ったのだ。


「よく分かりませぬが、山田殿がおっしゃるなら、心に留めておきましょうぞ。では今度こそ御免」


 官兵衛は一礼して、場を去っていった。

 あとには俺と半兵衛だけが残される。


 半兵衛は、しばし呆然としていたが、やがてゴホゴホと咳き込みはじめ、


「近ごろ、身体の具合が良くないことが多いのでござる。それがしも、もう休みまする」


「そうか、それがいい。……そうだ、俺が持っている良い薬がある。高級なものだ。あれを飲んではいかがでしょう」


「山田殿はお優しゅうござるな。……実にお優しい」


 半兵衛は目を細めて、


「とてもこの乱世に生まれた男とは思えませぬ。はっはっは」


 その言葉に、俺はギクリとした。

 半兵衛はなんの気になしに言った言葉だろうが……。

 ……俺は気を取り直して、


「はっはっは。優しいどころか、気が弱い男だと、伊与からもカンナからもよく叱られるもので。あっはっは」


 笑って、ごまかした。

 半兵衛も笑って、


「いやいや、人間、気が弱いといわれるほど、優しいくらいでちょうどいいのではないですかな。それがしも病が重くなるたびによく考えまする。人間、誰かに対して優しいことが最上であると。……おや、そう考えると、誰かを騙し誰かを殺す、侍などという生き物は下の下のそのまた下……。……そう考え出すとキリがない。


 しかし山田どの。真っ暗な夜の中、病のために咳き込みながら、ふと目が覚めて、……近ごろはよう考えるのです。……もっと元気であれば。……そう、もっと強くありさえすれば、と。そして……」


「…………」


「叶うならば、もう一度、人間をやりたい、と。……そう、輪廻転生を果たし、再び半兵衛としてこの世を生きたいと……」


「…………」


 俺は、なにも言えなかった。

 半兵衛は本当に、ただ心からの言葉を吐き出しているに過ぎないはずだが……。

 しかし彼の言葉は、俺の心に響く。……弱かった俺には。……転生者の俺には……。


「いや、つまらぬ弱音でした。忘れてください」


 半兵衛は、目を細めて、また少し咳き込むと、


「いつまで生きられるか分かりませぬが、命尽き果てるその瞬間まで、侍として采配を振るいたいものですな。……では、また」


「はい、また……」


 俺は半兵衛と別れた。

 廊下の奥に消えていく半兵衛が、妙に小さく見えた。


 半兵衛は来年の7月に死ぬ。

 彼が死ぬまで、あと1年だ。

 たった1年……。


「強くありさえすれば。……輪廻、転生……」


 それらの言葉が、俺の脳をぐるぐると回っていた。



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