第68話 決着
――だあぁん!!
火縄銃が、火を噴いた。
鉛玉がまっすぐに飛び、無明の眉間に直撃する。
一念を込めたその弾丸は、仇の脳を確かにえぐった。
「ぎゅ……っ」
無明は――そんな息を漏らした。
言葉にさえなっていない、声。
それがやつの、最後の生命の息吹であった。
……どすん。後ろに向かって、やつは倒れる。その背中が地べたに着いたその瞬間、なにか、巨木が倒れたような印象を俺は受けた。
敵は、倒れた。
眉間に穴を開けたまま、仰向けに倒れる。
「父と母。そして村のみんなの仇。思い知ったか」
言葉と共に、銃を下げる。
火薬のにおいが、やけに鼻についた。
――それが合図だった。
「か、頭がやられた!」
「ちくしょう! 退け、退けぇ!」
「どこに退くんだよ、おい!」
「知るか、馬鹿。とにかく逃げろ!」
シガル衆は、大将を失ったことで、蜘蛛の子を散らすように逃げていく。
神砲衆は、追撃戦に入る。藤吉郎さんを先頭に、逃げゆく連中を次々と討ち取ってゆく。
無明の仇討ちをしようという者は、いないようだった。
「冷たい家来たちだなあ。大将の死体、放置かよ」
田吾作のひとりが、少しばかり哀れそうに無明の死体を見つめたが……。
俺はこの男に同情しない。力で弱者を蹂躙しまくった悪党め。見捨てられていい気味だ。
そうだ。誰かに強く踏みにじられ、そして誰からも愛されず、ひとりぼっちで死んでいく。
そんな死は、本来、無明のような人間にこそふさわしい。こいつのような悪党にこそ……。
「弥五郎」
伊与が、口を開いた。
戦場に不釣り合いなそよ風に、長い髪をなびかせている。
返り血を浴びたその姿が、なぜだかとても美しく見えた。
「ついにやったな」
「……ああ」
「仇をとったな」
「…………ああ」
「義父様と義母様は、きっと喜んでくれているよな?」
「………………」
伊与の言葉に、俺は少しだけ、間を置いた。
血の臭いがした。煙が目に染みた。喉がやたらに渇いていた。
足下に転がっている無明の死体を見て、俺は――
笑いはせず、泣きもせず。ただ拳を強く握りしめつつ、うなずいた。
「もちろんさ」
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