第62話 5000貫達成!
「よーっし、できたぁ!」
「完成だな!」
鍛冶屋清兵衛さんと俺は、笑顔を向け合った。
銃刀槍500が、ついに完成したのだ。
清兵衛さんのところにいた、手伝いの人たちも、笑みを作った。
「これで藤吉郎のやつも顔が立つだろう」
「あいつめ、いよいよ織田家で出世していくのかな」
「まあ、組頭くらいにゃなれるだろうさ!」
3人の男が、笑っている。
いずれも、藤吉郎さんが紹介したひとたちだ。
それぞれ、がんまく、一若、市兵衛という。
藤吉郎さんと同じ村の出身で、幼馴染だというがんまくと一若。
さらに市兵衛さんは、藤吉郎さんの母親の妹の旦那様――
つまり藤吉郎さんからすれば義理の叔父にあたるひとだ。
津島の外れで桶屋を営んでいたところを、藤吉郎さんに頼まれて手伝いにやってきたのだ。
……俺は知っている。
市兵衛さんは、のちに福島正信と名乗るひとだ。
そう、賤ヶ岳七本槍のひとり、福島正則の父親がこのひとだ。
背が高く、陽に焼けているその姿は、なるほど、猛将の父親らしい雰囲気である。
「侍働きだけで、食っていけるのかねえ。金になるなら、やってもいいがねえ」
なんて、陽気にカラカラと笑いながら、清兵衛さんと酒を交わしている(言うまでもないが、市兵衛さんと清兵衛さんも親戚同士であり、旧知の仲だった)。
「なあ、山田さん」
と、市兵衛さんは酒の臭いを漂わせながら、声をかけてきた。
「この銃刀槍を持って、三郎さん(織田信長)は北の斎藤山城(斎藤道三)と会いにいくんだよな?」
「その予定ですよ」
「その対面。うまくいけばいいが、いかなかったら、どうなる?」
「そりゃ……」
俺は、しかめっ面をして言った。
「尾張と美濃は荒れるでしょうね。……ただでさえ尾張は荒れているのに、北の斎藤家まで織田家の敵に回っては……大変なことになります」
「……そりゃそうだな」
市兵衛さんは、完成した銃刀槍を撫でながら、つぶやく。
「斎藤山城が、この武器を見て、少しでもビビればいいんだがな」
「…………」
市兵衛さんの言うことはもっともだった。
織田信長と斎藤道三の対面。……どうもこれは来年の春ごろになるらしいが、これがうまくいくかどうかは、尾張と美濃の平和、そして今後の歴史に大きく関わってくる。そんな気がする。
そのときだ。
「おうい」
「やってるか?」
と、鍛冶屋の中に、ふたりの男が入ってきた。
藤吉郎さんと前田さんだ。
ふたりは、出来上がった銃刀槍を見て「「おお」」と笑った。
「できとるじゃねえか。いいぞ、こりゃ見た目の迫力もすごいのう」
「ああ。これならきっと、斎藤山城さまも度肝を抜かれるぜ」
前田さんは、ニヤニヤ笑った。
「市おじ、がんまく、一若。手伝ってくれてありがとう。助かったで」
「気にするな」
「おう、どうせヒマだったからな」
一若とがんまくは、ひらひらと手を振った。
市兵衛さんも、そうだ。
「桶屋が近頃、儲からなくなっていたからな。鍛冶屋の手伝いでもなんでも、仕事があるのはありがたかったよ」
「そう言ってくれるとほっとする。……さて、銃刀槍を那古野城まで運ぶとするかの」
「おう、そうしよう」
前田さんが、うなずいた。
「前田さんと藤吉郎さん、おふたりで運ぶんですか?」
「バカ言え。銃刀槍500なんてふたりで運べるか。……ちゃんと外に小者と馬を連れてきている」
言いながら、前田さんは外に出る。俺もそれに続いた。
すると、なるほど鍛冶屋の外には確かに馬が十何頭もおり、人間も30人ほど揃っていた。
俺たちは、銃刀槍を馬にくくりつけ、あるいは人が運べるように荷駄にしていった。
……こういうとき、リヤカーなどがあれば便利だな、と思う。
しかし、実のところ、その運用は難しい。
いや、作るだけなら可能なのだ。
木の車輪を作って、木製のリヤカー。
いわゆる
だが、問題は荷車のほうではない。……道路だ。
戦国時代の道路事情は極めて劣悪である。
ガタガタで、砂利も多く、ねじ曲がっていて……。
ハッキリ言ってリヤカーの類を運用するのは難しい。
戦国時代のひとびとが馬車を作らず、使わなかった理由のひとつは、それだ。
馬を飼ったり人を雇ってものを運ぶほうが、よほど楽で安上がりで、確実なのだ。
まあそんなわけで、俺たちは銃刀槍を馬に乗っけていく。
やがて銃刀槍500を馬や人に預けると、前田さんと藤吉郎さんは、俺のところへやってきた。
「山田弥五郎。世話になったな。助かったぜ」
「わしからも礼を言う。さすがは弥五郎、良い仕事をしてくれたわ」
「いえ、俺だけの力じゃありませんよ。藤吉郎さんや前田さんが人を紹介してくれたおかげです。もちろん伊与たちも頑張ってくれました」
「はっはっは、謙遜しやがる。まあ、そこがお前のいいところだ。……それじゃいくか、藤吉郎」
「はい。……っと、そうだ。前田さま、あれを忘れておられます」
「あれ? ……ああ、そうか、あれか! 悪い悪い」
前田さんは、改めて俺の前にやってくると、
「織田家の割符だ」
前田さんがくれた割符は――
なんと、3000貫分の割符だった!
「え、これ……いいんですか!?」
「そりゃそうだろ。銃刀槍の材料代と報酬だ。受け取れ」
待てよ、ということは。
銃刀槍の材料代が、確か1244貫。
そこへ、3000貫の収入があったんだ。
つまり。
つまり――
……つまり!!
《山田弥五郎俊明 銭 5079貫56文》
<最終目標 5000貫を貯める>
→達成
商品 ・火縄銃 1
・炭 4
――ついに集まった。
5000貫!
シガル衆を倒すためのお金だ!!
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