第59話 銃刀槍誕生

 熱田におもむいてから、少し経って……。

 津島に秋風が吹き始めたころの、大橋屋敷の庭。

 俺と伊与、さらに藤吉郎さんと前田さんが集合した。


「試作品ができました」


 と言って、俺が前田さんと藤吉郎さんに見せたのは――

 棒と、サヤにおさめられた剣つき拳銃だった。


 前田さんは、試作品を見た瞬間、すっとんきょうな声をあげた。


「じ、銃と刀がくっついている? なんだこりゃ。こんなもん、使えるのか!?」


 声を荒らげる、前田さん。

 じっさい、剣つき拳銃は奇妙な外見なのだ。

 長さを切り詰めた短い火縄銃――馬上筒。

 その先端に、数打物(安物)の刀の刃の部分が取りつけられている。

 拳銃の、銃口と刀身以外の部分が、丸っこい金属(護拳部)によって覆われているのも特徴だ。


 こんな武器は、戦国時代の日本には存在しない。

 だから、前田さんが驚くのも無理はないのだ。

 ……しかし藤吉郎さんは驚かず、ニタリと笑った。


「弥五郎、また妙なものを作りおったな」


「考え? おい藤吉郎、どういうこった?」


「前田さま。とりあえず、弥五郎のお手並みを御覧あれ」


 俺はうなずき、まずかたわらにいる伊与に剣つき拳銃を渡す。

 サヤから剣つき拳銃を引き抜く、伊与。

 彼女は刀を構え、型をいくつか披露した。


「こちらは、鉄砲としても刀としても使える代物になっています。そして」


 俺は棒を持ち上げた。

 その先端はソケット状になっている。

 剣つき拳銃のグリップ部分も、袋穂ソケットになっていた。

 俺は伊与から剣つき拳銃を受け取り、棒と接続させた。


 武器が、できた。


「こうすれば槍になります。……銃として使え、剣として使え、最後は槍にもなる武器です。名前は決めていませんでしたが……ここで仮に、銃刀槍じゅうとうそう、とでも名付けましょうか」


「じ……!」


「銃刀槍じゅうとうそうか、なるほどのう!」


 前田さんは驚き、藤吉郎さんは笑顔で手を叩く。

 俺は、 銃刀槍を伊与に渡した。彼女はうなずき、今度は槍の型を披露した。


「……さすがに私には、少し重いな」


 伊与は苦笑いを浮かべた。

 俺はうなずき「そのへんでいいよ」と言った。

 そして、振り返る。


「どうですか、前田さん。見たこともない槍でもあり銃です。刀でもあります。……単発式火縄銃なので、リボルバーと違って連発はできませんが、しかし武器としては使えるでしょう」


「弥五郎、今回はどうしてリボルバーではないんじゃ?」


「一番は、リボルバーだと、さすがに槍として壊れたり暴発する危険性があるからです。次に予算の問題もあります」


「リボルバーを作るのは、28貫26文だったのう。……うむ、それを500も作れば、10000貫をゆうに超えるな。それに作っている時間もなかろう」


「おっしゃる通りです。リボルバーは俺しか作れませんから、500も作っているとそれだけで年単位の時間がかかります」


 しかしこの銃刀槍ならば、基本的に戦国時代にあるものを組み合わせて作ったものだから、この時代の鍛冶屋でも指導さえすれば作れるようになるだろう。


 予算の問題もいちおう解決だ。

 俺は熱田のがらくた市にあった物干し竿と、鉄砲からくりを購入。

 さらに鉄板と鉄棒を買い求め、槍つき拳銃を製作した。


 銃刀槍を作るのに必要だった素材は、以下の通り。


〔鉄棒 3貫400文〕〔鉄板 2貫750文〕〔鉄砲からくり(1丁分) 300文〕〔物干し竿 80文〕〔袋穂 50文〕〔刀(数打物) 520文〕


 鉄棒0.25、鉄板0.25、鉄砲からくり(1丁分)1、物干し竿1、袋穂1、刀(数打物)1を消費して、銃刀槍を製作した。

 その費用は、2貫488文だ。



《山田弥五郎俊明 銭 3320貫568文》

<最終目標  5000貫を貯める>

<直近目標  織田家に見たこともない槍か銃を提供する>

商品  ・火縄銃    1

    ・炭      4

    ・銃刀槍    1



「槍と銃のカラクリは中古品の寄せ集めですが、その分、低価格です。……単純計算ですが、この槍つき拳銃を500生産しても、1244貫で済みます」


 もちろん、 鉄砲からくり300文ってのは熱田の露天商から手に入れたものだし、それを500も揃えるとなると、いつも300文でいけるわけがない。あくまでも目安の価格だ。

 しかし、こうして中古品や安いものを買い集めて、合成武器として作りあげていけば、なんとか3000貫以内にはおさめられるんじゃないだろうか。


「……ううむ! なるほど!!」


 前田さんは、合点がいったのか、激しく何度もうなずいた。


「見事だぜ、弥五郎! これなら銃でもあり槍でもある! いいぞ、こいつを作ろうぜ!」


「分かりました。しかし前田さん、銃刀槍500を作るのは、さすがに俺ひとりじゃ無理です。材料集めも武器作りも、とても手が足りません」


「もちろんだ。前田家お抱えの鍛冶屋や小者を紹介するぜ。みんなで頑張って、尾張中から中古の槍や鉄砲からくりを集めてよ、銃刀槍を500、作りあげるんだ。なあ、藤吉郎!」


「おうともさ! よし、わしも知り合いに声をかけまくって、人を集めるで!」


 どうやら、光が見えてきたようだ。

 俺は、ニヤリと笑った。

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