第46話 鳴海城、寝返る

 1552(天文21)年、4月。


 俺たちの財務状況はずいぶん変化していた。

 もちろん、良いほうにだ。


 あれからカンナはさらに、交易で【106貫226文】を稼いでくれた。

 内訳は以下の通りだ。



 交易スタート【31貫626文】


→海老原村に赴き、商品輸送のための馬を5頭レンタル。借り賃は5頭で1貫(持ち金【 30貫626文 】)


→伊勢に移動。塩の相場を調査。1袋につき21文。これを1400購入(持ち金【1貫226文】)


→加納に移動。塩の相場を調査。1袋につき45文。ここで塩を1400売却(持ち金【64貫226文】)


→伊勢に移動。塩の相場を調査。1袋につき24文。これを2500購入(持ち金【4貫226文】)。


→加納に移動。塩の相場を調査。1袋につき39文。ここで塩を2500売却(持ち金【101貫726文】)


→伊勢に移動。塩の相場を調査。1袋につき28文。これを3000購入(持ち金【17貫726文】)。


→加納に移動。塩の相場を調査。1袋につき33文。ここで塩を3000売却(持ち金【116貫726文】)


→1泊30文の宿代、人間7人分で30日。6貫300文(持ち金【110貫426文】)


→1日20文の給金、人間7人分で30日。4貫200文(持ち金【106貫226文】)



「……見事に相場が崩れたな」


 塩の売却相場。

 最初の交易のときは53文だったのに。

 最後は、33文にまで下がってしまっている。


「あは。……やけん最後のほうは、仕入れの数がちょっと控えめになっとろ? でも、もうこの交易は当分できんね」


「ああ。だけど、おかげで助かったよ。お疲れ様。次郎兵衛と聖徳太子たちもな」


「「「「「「ういっす!」」」」」」



《山田弥五郎俊明 銭 186貫302文》

<最終目標  5000貫を貯める>

<直近目標  津島衆に武器を売る>

 商品  ・火縄銃   1

     ・連装銃   1

     ・炭    9

     ・小型土鍋  1



 カンナたちが交易に励んでいる間、俺も遊んでいたわけじゃない。

 まず、48貫450文をかけて、連装銃を1丁作りあげた。

 さらにカンナたちが交易を終えて戻ってきたあとは、さらに2丁作りあげる。

 その上、聖徳太子たちの協力も得て。――15貫10文と炭4を消費して、早合140を作りあげた。



《山田弥五郎俊明 銭 25貫942文》

<最終目標  5000貫を貯める>

<直近目標  津島衆に武器を売る>

 商品  ・火縄銃   1

     ・連装銃   4

     ・炭    5

     ・小型土鍋  1

     ・早合  140



 なかなかの結果だ。

 これを全部売れば、けっこうな儲けになるぞ。

 俺はカンナとふたりで、大橋屋敷に出かけた。




 大橋さんは、連装銃と早合を見ると、喜びの声をあげた。


「ほ、ほ、ほ。見事じゃ。連装銃4丁か」


「この連装銃を用いれば、ひとりの鉄砲兵が3人分の活躍をすることでしょう」


「うむ。では試射をしてみようかの」


 大橋さんは、家来のひとを呼んだ。

 そして、屋敷の庭で連装銃の試し撃ちをしたのだが。


 結果は――見事なものだった!

 威力も、命中精度も、一般的な火縄銃を大きく上回るものだったのだ。

 この結果に、大橋さんは満足そうにうなずいた。


「うむ! 弥五郎少年、よくやった。威力もさることながら、このような武器が出てくるだけで敵は驚くであろうの」


「間違いないでしょう」


「ほ、ほ、ほ。では約束通り、連装銃は1丁270貫、早合は1発360文で買うことにしよう!」


「あ、ありがとうございます! 270貫と360文かあ。これは合計だと――」


「1130貫400文やね!」


 カンナが横で計算してくれた。


「1130貫!」


 俺はさすがに驚いた。すごい金額だ。

 ついに1000貫を超えるとは……!


 ……しかし、これからそれだけのお金を、どこに置こう?

 銅銭が1000枚揃って1貫になるわけだが、その重さはけっこうなものだ。銅銭は1枚で1匁(3・75グラム)ほどの重さなので、1000枚揃うと3.75キロになる。1貫でこれだ。1000貫になると、もうこれは尋常じゃない重さである。

 これまでは、馬に載せて運んだり、余剰の現金はツボや土鍋に入れて、『もちづきや』の片隅に埋めて保管していたわけだが、これほどの金額となると持ち歩くのも保管するのも大変だ。

 のちに徳川家康が江戸幕府を開いたあと、永楽銭1000枚に対して金の小判1枚、という貨幣制度を確立させてくれるのだが、この時期にはまだそういうのもないし。


 そんな俺の心配を見抜いたのか、大橋さんは「ほ、ほ、ほ」と笑った。


「もちろん、1000貫を超える銅銭を渡そうとは考えておらぬよ。割符わりふで渡そう」


 大橋さんは竹の札を用意すると、金100貫の価値を保証するという一文を記した。

 そしてその竹札を11枚、用意してくれた。この竹札1枚を大橋さんに渡せば、100貫が貰えることになる。

 つまり割符とは、一種の紙幣である。大橋さんならば確実に、割符を渡せばお金を渡してくれるという信用に裏付けされた、紙幣。

 戦国時代、日本各地の大商人は、すでにこのようなシステムを作りあげていたのだ。信用経済ってやつだな。


 というわけで、俺の現状はこうなった。



《山田弥五郎俊明 銭 1156貫342文》

<最終目標  5000貫を貯める>

 商品  ・火縄銃   1

     ・炭    5

     ・小型土鍋  1



「す、すごーい! すごいばい、弥五郎。1000貫を超えたばいっ!」


「ああ。俺たち、一気に金持ちになったな!」


 俺とカンナは喜んだ。

 大橋さんも目を細める。


「1000貫はちょっとしたものじゃな。弥五郎少年、そのお金でなにか買うかね?」


「無駄なものはなにも買いませんよ。5000貫を貯めるまでは」


「そうか、そういえば、そう言っておったな。野盗集団シガル衆を倒すための金を貯めると」


「そうです。俺は自分の大切なものを守るため、金と力を得たいんです」


「……確かに金を稼ぎ、私兵団を作りでもしない限り、この乱世においては自分も仲間も守りぬくことはできまいな。この津島とてそれに近い。織田家に従属しながらも、津島衆という独自の組織を抱えておる」


「……大橋さん。ぶしつけなお願いですが。もしも俺が5000貫を貯めたら、人集めや武器集めに協力してくださいますか?」


 いきなりの頼みである。しかし俺は本気だった。

 大橋さんが俺の夢に力を貸してくれれば、本当に助かると思うから。

 聖徳太子たちはいいやつらだと思うが、彼らだけではまだ足りない。

 もっと、人が欲しい。力が欲しいんだ。


「よかろう。これほどの武器を作ることができるそなたとは、これからも繋がりを保ちたいでな。来るべきときが来たら、わたくしにできる限り、協力しよう」


「あ、ありがとうございます!」


 俺は頭を下げた。

 やった、大橋さんが味方につけば百人力だ。


 俺はホッとしたのだが――

 そのとき、どすどすどすと、廊下を歩く音が聞こえてきて、


「清おじ!」


 と、ガラリ。

 ふすまが開き、小六さんが顔を出したのだ。


「清おじ、大変だ。鳴海城が謀反したぞ!」

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