第37話 連装銃完成

 薄暗い『もちづきや』の中。

 青山さんは、険しい顔で叫んだ。


「こんな銃が新しい武器!? 山田どの、どういうことですか!」


「見ての通りですよ」


「見ての通り……?」


「……ああ、そうか。この部屋は暗いですからね。外に行って見てみましょうか」


 そう言って、俺とカンナは宿の外に出る。

 青山さんもついてくる。すると――


「こ、これは……!」


 青山さんは、はっきりと目を見開き驚愕の面持ちを見せたのだ。


「これは……銃の砲身がみっつ、水平にくっついている!?」


 そう、俺が持っていた火縄銃は砲身が3つあったのだ。


「はい。3つの砲身をもつ火縄銃です」


「な、なんと!」


「その名も、連装銃です」


 銃身を複数くっつけることで、いっぺんに数発の弾丸を発射できるという仕組みの銃は、すでに15世紀半ばには明(中国)が発明していた。三眼銃、と呼ばれる銃だ。

 ただし三眼銃は、中に火薬と弾丸を詰め込んでから少し待ち、時間が経てば発射する、という構造になっている。引き金を引いて発射するタイプの火縄銃とはそこが異なっていて、撃つタイミングを微調整できない。さらにその外見も、こん棒に銃身がみっつくっついている、というものなので銃と違って照準を合わせるのが難しい。

 そんな三眼銃に対抗するわけじゃないが、俺が作った連装銃は、あくまでも火縄銃の改良版だ。3本の銃身を横並びにくっつけた『水平3連』というタイプのもので、本来はいまから何十年もあとに登場する兵器だ。


 使い方は根本的に、火縄銃と変わらない。

 火薬と弾丸を詰め込んで、引き金を引いて発射する。

 基本的には単発の銃を水平に並べてあるだけなので、引き金もみっつついている。

 いっぺんに撃てば3発の弾が発射され、ひとつだけ引けば1発だけ弾が発射される。


 クソ重たく、扱うのが難儀な銃。

 使いこなすには銃の腕前が必要不可欠だろう。しかし強力なのは間違いない。

 これならば、青山さんが求める『ひとりで3人分の活躍ができる』だろう。


「こんな銃を、よくぞ作ったものですな!」


「大変やったとですよ~。道具を手に入れるために知り合いのところにまで行って――」


「いや、カンナ。そのへんの話はいいよ」


 俺は苦笑いと共に手を振った。

 まあ、確かに大変だったけど……。


 俺は半月前を思い出す――




「3連の連装銃を作る。とにかく材料を集めるんだ。それと手入れ道具だ」


 俺は言った。

 するとカンナは首をかしげる。


「連装銃の材料って、なあん?」


「まあ簡単にいえば鉄砲3丁分なんだけどな。……鉄砲の作り方を説明しようか」


 俺は、軽い笑みを浮かべて言った。


「まず真金(しんがね)と呼ばれる鉄棒(かなぼう)を作る。つぎに瓦金(かわらがね)と呼ばれる細長い鉄板を作り、この鉄板をさっき作った棒状の真金に巻きつける。

 そして合わせ目が糊状になるまで加熱し、接合。あとはヤスリで銃身の形を整えて、そこに火皿、先目当、前目当、地板、火縄挟みなど、鉄砲に必要な部分を取りつければ完成だ」


「ふわあ! ……アンタいつもながら、よう知っとるよね、そんなこと。ばりすごか~!」


「いや、まあ。……ありがとう。……で、鉄砲といってもピンキリで、ピンのほうになると、鉄を打ち延ばした巻板を何枚も繋いで接合した頑丈な砲身のものだったり、いろいろあるんだけど――まあそのへんのウンチクはまた次の機会にするとして、とにかくいまは連装銃の試作品を作ろうと思う」


 俺は言った。


「連装銃を作るのに必要なのは、銃身を作るのに必要な鉄棒3本、それに巻きつける鉄板3枚。さらに火縄挟みや引き金などなどの――『鉄砲からくり』とでも呼ぶべき細かな素材の数々。これも3つ分欲しい」


「そんなもん、簡単に手に入るん?」


「さっき、店先にボロい鉄砲があっただろ?」


「あ」


「そういうことさ」


 俺は、ニヤリと笑った。


「あれを手に入れて分解すれば、『鉄砲からくり』の部分は手に入る。あとは鉄を仕入れて、さらに銃の手入れ用の道具も手に入れ、3連の銃にするだけだ。……ただ問題は」


「問題は?」


「どこで手入れするか、なんだよな」


 鉄砲を手入れするのに必要な道具は、三ツ又、やっとこ(ペンチの様なもの)、目釘抜、木槌、油、剃刀カミソリの刃、和鋏わばさみ、などなどだ。

 道具そのものはなんとか揃えられると思う。値段はともかく、どれも津島か、熱田や加納にいけば手に入るだろう。

 問題は鉄砲の手入れをする場所なんだ。

 鍛冶の施設をなんとか使いたいところだが……。


 いきなり鍛冶屋に行って、使わせてください、っていってもなあ。

 たぶん通らないだろうなあ。うん。


「相談してみたらよかっちゃない?」


「え? 誰に?」


「比良城の佐々さん。『なにかあったときは来るといい』って言いよったやん。あのひとなら鉄砲関係の知り合いとかおるっちゃないと?」


 カンナのセリフに、俺は思わずガッツポーズをとった。




 ――というわけで。

 俺とカンナは、比良城の佐々さんを尋ねた。

 門番の人に頼んで取り次いでもらうと、佐々さんは驚くほどあっけなく登場してくれた。

 知り合いとはいえ、あちらは豪族の息子。正直、門前払いを食らう可能性も考えていたが、


「……しょせん、おれは三男ひやめしだ」


 と、むっつり顔のまま彼は言った。


「兄者なら知らず、おれは気ままだ」


 そうか、佐々成政にはふたり、兄貴がいるんだっけ。

 そのふたりが、のちに戦死するから、佐々さんが家督を継承するんだよな。

 そして歴史の表舞台に登場していくわけだが、この時期の佐々さんはまだ、よくも悪くも自由な立場ってことなのか。


 とにかく、佐々さんと会うことはできた。

 俺は連装銃の一件を伝え、新しい銃を作るのに協力してほしい旨を伝えると、


「……(きらきらきらきら)」


「あ、了解ってことですね。ありがとうございます」


「手入れ道具は、おれが前に使っていたお古でいいなら、譲ろう」


「い、いいんですか?」


「いい。代わりにその銃を作るのに、おれも同行させろ」


「もちろんですとも!」


「やったねえ、弥五郎! ありがとう、佐々さん。アンタよか男ばい!」


「…………(わずかに赤面)」


「――それで佐々さん。鉄砲の手入れができる場所はどこか……」


「知っている。津島に清兵衛という鍛冶屋がいる。刀鍛冶がおもな仕事だが、近年は鉄砲の手入れや修理もやっている。……紹介しよう」




 こうして俺は、佐々さんの紹介で鍛冶屋清兵衛さんと知り合い、連装銃を作る場所を得ることができた。

 鍛冶屋清兵衛さんは、気のいいひとだった。連装銃にも興味をもってくれて、ぜひいっしょに作りたいと申し出てくれた。


「新しいものを作り出すのは鍛冶屋の喜び。佐々さまの頼みでもありますし、よろこんで協力しましょう」


「お父ちゃん。新しい鉄砲はいいけれど、刀のほうも忘れないでね」


 清兵衛さんには、伊都という14歳の娘もいた。

 なかなか可愛く、しっかり者のようだった。

 清兵衛さんは娘が可愛いのか、ニコニコ顔で「分かっているよ」と優しく返していた。

 ……どうでもいいが、清兵衛さんと伊都さん。この父娘(おやこ)にはどこかで会った気がするんだが、気のせいかな?


 さて。

 とにかくこうして状況を整えた俺は、津島の町で材料集め。


 ひとつ10貫の、ボロ火縄銃をみっつ購入。これでマイナス30貫。

 ひとつ3貫400文の鉄棒を3本。これでマイナス10貫200文。

 ひとつ2貫750文の鉄板を3枚。これでマイナス8貫250文。


 合計、48貫450文のマイナス。


 これだけの金を使って、連装銃を作った結果、



《山田弥五郎俊明 銭 19貫479文》

<最終目標  5000貫を貯める>

<直近目標  青山聖之介に連装銃の試作品を見せる>

 商品  ・火縄銃   1

     ・連装銃   1

     ・炭    11

     ・早合    2

     ・小型土鍋  1



 現状はこうなった。

 この間、俺とカンナはずっと清兵衛さんの家に泊まっていたので宿泊費はゼロ。


 そして連装銃を作る過程で出てきた、いらないパーツは鍛冶屋清兵衛さんにプレゼントした。

 逆に、ボロ銃から連装銃にするにあたって、ボロ銃のパーツではどうにもならない部分も出てきたのだが、そこは清兵衛さんが持っていたパーツを使うことでなんとかなった。


「思った以上に難儀しましたね。銃1丁に10日以上かかってしまった」


「ボロ銃をもとにしていますからね。おかげで見た目も汚い、汚い……」


「壊れかけとはいえ、10貫で売られていたウドン張(安物)の銃だ。仕方がないだろう」


「やけど、汚れとうのも味があってよかよ。あたしは好きやね~」


 俺、清兵衛さん、佐々さん、カンナ。それぞれ4人。

 できあがった連装銃を見て、それぞれの感想を漏らしつつ。

 しかしひとつの仕事を終えたことに満足していたものである。


「山田弥五郎。試し撃ちしてみろ」


 佐々さんが、いくつかの鉛弾と火薬を少しくれた。

 俺はそれを貰って、ニヤリと微笑み――




 ――ここで、話は現在に戻る。


「山田どの。これは本当に、3発撃てるのですか?」


 青山さんは、なお半信半疑のまなざしだった。


「それじゃ、さっそく試射してみましょうか。見ていてください」


 俺は連装銃に火薬と弾を込め(佐々さんから貰った分だ)、発射の準備を整える。

 そして、引き金を引く!



 ……だ、だ、だぁん!!



「おおっ……こ、これは……!!」


 連装銃は三本の砲身から、確かに弾丸を放ったのである。

 ――佐々さんたちの前で、試し撃ちをしたときと同じように!


「ご覧の通りです。連装銃は反動が大きく、使いこなすには技術が必要ですし、さらに弾をこめるのにふつうの火縄銃より時間が必要になります。しかしなんといっても、いちどに3発撃てる銃。効果は抜群です」


「もちろんですとも! 想像以上に素晴らしい仕事をなさってくださった。これは発明です!」


「まあ、これはまだ試作品ですがね。本物はこれから作りますが、まずは案をお見せしたくて」


「いやあ、それでもこれは良いですよ。試作品とは思えない。本当に素晴らしい。さすがは山田どの!」


「いや、それほどでも……」


 あんまり青山さんが褒めてくれるので、俺は照れた。


「では、改めて依頼しとうござる。連装銃をもっと作っていただきたい。作った分だけ、それがしが金塊で買い取りまするぞ!」


「ほ、本当ですか! ありがたい話です!」


「よかったねえ、弥五郎!」


「ああ!」


 俺とカンナは笑顔でうなずきあった。

 青山さんと知り合えて、本当によかった!


「それでは、まずは今回の試作品連装銃を受け取ります。代金として、金塊をどうぞ」



《山田弥五郎俊明 銭 19貫479文》

<最終目標  5000貫を貯める>

 商品  ・火縄銃   1

     ・炭    11

     ・早合    2

     ・小型土鍋  1

     ・金塊    1



 ずっしりとして重たい、コブシ大の金塊を手に入れた。


「本物の黄金を手に持つのは、初めてだ……」


「あたしだって……小粒なのは見たことあるけど、ここまで大きいのは……」


 これはどれほどの価値になるんだろう?

 ちょっと想像がつかない。

 俺とカンナは金塊を持ったまま、しばし呆然としていたが、


「おっと、太陽があんな位置に。……もうこんな時間ですか」


 青山さんは、空を見上げて言った。


「申し訳ござらぬ。次の用件がございますゆえ、それがしはこれにて」


「あ。は、はい」


「それでは連装銃をまた作ってくだされ。頃合いを見て、またこちらに参ります!」


 そう言うと、青山さんは連装銃を持って、せかせかとその場を去っていった。

 俺とカンナは、その後ろ姿を呆然と見送るのみ。


「……あ」


「ん? なんだい、カンナ」


「青山さんがどこのお侍なのか、また聞くのを忘れとった」


「……そういえば」


 金塊に呆然としていたのがまずかった。しくじったなあ……。

 まあ……またここに来るみたいだし、そのとき尋ねるしかないか。


「いまのが、青山聖之介か」


 佐々さんが物陰から出てきた。


「ええ、いまのが青山さんです」


「なんで隠れとったんですか。出てきたらよかったとに」


「別に会う必要もないと思ったからだ」


 佐々さんは、クールな顔で言った。


「どこの人間か知らんが、ずいぶん忙しい性分の男だな」


 佐々さんは、さほど興味もなさげである。

 しかし佐々さんも、青山さんのことは知らないんだな。

 佐々家は織田家に仕えている家柄だ。三男とはいえ佐々さんなら織田家の主だった面々は知っていると思うが、その佐々さんでも知らないひとか。

 ……ふむ……?


「山田弥五郎。連装銃をもっと作るぞ。青山に売るのもいいが、おれ個人も使いたい」


「あ、はい」


 佐々さんに言われて、俺は思考を中断させた。

 そうだな、とにかく連装銃を作ろう。


 しかし、金がやや少なくなってきた。

 とりあえず金塊を換金するか?

 これだけの金、換金してくれるところ、あるかなあ……。

 俺は首をひねるのだった。


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「●●の野望 大志」発売おめでとうございます。

「立●伝」シリーズの新作は……うっうっうっ。

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