第9話 好きな色

 ――男女問わず、友達って、無理して一緒にいるものじゃないと思う。自然に自分が出せて、楽でいられたらそれでいいんじゃないかと。

 自分が自分でいられるところ。でも人を不快にさせないくらいのデリカシーは持ち合わせ、相手が許してくれたら踏み込む。それが自分なりの人付き合いのポリシーだった。

 鮮美との帰り道は心地よい時間で、理想とする関係性だった。それが今日は、アスファルトの道路を歩く二足分の足音しか周りには響かない。

 暗く、電柱の先っぽの灯が遠目でも分かる時間、そわそわしながら鮮美を見た。

「鮮美……」

「―――なに?」

 時間がかかったが、反応があったことにまずはほっとする。

「昼休み、何があった?」

 まともに顔は見れなかった。卑怯だけど、言ったあとに盗み見た。

 昼休みから表情の変化が乏しかったのに、さっきまで緩慢な反応だったのに、鮮美は不意に口元を緩めた。

「ふふふ」

 最初は空耳だと思った。

「くふふふふ」

 喉を震わせていたのは、まぎれもなく隣の同級生だった。彼女はひとしきり笑うと足を止めた。

「赤って好き?」

 正面に回り込まれ、やっとまともに視線があった。目がきらきらと光っている。純粋で、たぶん高校生になるとほとんどの人が失っているような、幼児独特の無邪気な笑顔。これは鮮美のレパートリーにはない。常に余裕を持ったおおらかな笑み、断り文句の時の添え物、どちらにも属さない。

 脈絡のない会話と場違いな仕草に、背中の毛が逆立った。

「……いきなりなんだよ?」

「赤好きなんだ」

 話が噛みあわない。なんで色の話がでてくるんだ。

「ぇへへへへ」

 黙っていると鮮美はなおも笑顔のままだ。

「赤ってどきどきしない?危険なイメージもあるけどさ、情熱とか愛とか。戦隊モノのヒーローの象徴だったり。国によって色の意味は違うけど、愛と危険って矛盾すると思わない?それとも愛憎とかいう言葉もあるから表裏一体なのかな。赤は標識やおもちゃみたいな原色ありきだと思うんだけど、それより赤いランドセルみたいなのが好き。あー。でもやっぱり鮮やかよりもくすんだ色味がいい。うん。主張しすぎる赤はだめだよ。もともと存在感あるんだから。彼岸花の赤もいいけど、それよりもっときれいな色をあたしは知ってる」

 鮮美は饒舌だった。

 そして、気づいた。

「ねえ、赤い色は好き?」

 立ち止まっている鮮美は笑う。狂ったような笑顔は消え、女優顔負けの見惚れるようなものだった。

 他の男子なら、負けてしまうだろう。しかし団は理性を手放したりはしなかった。今ではもう、鮮美はスラックスをはいていても日常錯覚していた男子のようには見えない。まとっている空気が根本的に違う。似合わない。鮮美じゃない。

 いつも自分を「オレ」といっている鮮美が、このときは「あたし」と言った。

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