第36話 突撃せし者。

 目的地である別荘に到着した俺達が目にしたのは、屋敷に擬態している巨大な魔樹木ドリアードであった。


「きゃっ!」

「おお、これはまた何とも異世界ですね」


 シスターモモと、サクラからも悲鳴と驚嘆の声が上がる。ナーゲイルを手にいれた時に獲得した能力【認識阻害無効化】によりパーティーに登録されている者達には同様の効果が現れていたからだ。


「ビート君、濃い魔素を感じて精霊たちが逃げ出しているわ!」


「エルム、これ見て逃げ出したくならない方がおかしいって! 俺も今、絶賛逃げ出したい」


 屋敷の様に見えたソレは小窓や壁の飾り、模様などが表情の様にも見え、こちらを見据えてニヤニヤと笑っているようにも見えた。


 こちらに気づいたのか、門の前に立って警備をしていた4人の騎士たちがこちらに向かって歩いて来る。


 俺はエルムとシスターモモを馬車の後ろに待機させると、サクラに馬車を固定していたロックを外してもらう。


「サクラ、戦闘体制バトルモードで待機。俺が合図したら最大出力でプラズマ超電磁砲レールガンを屋敷に向かってぶっ放せ!」


「了解です、オーナー」


 サクラを待機させたまま近づいてくる騎士達に向かって歩きだした。

 騎士達は抜剣してはいないものの、警戒するように日比斗を取り囲む。


「ここは立ち入り禁止だ! 早々に立ち去れ!!」


 リーダー格の騎士が威圧的に立ち去る様に命令してきた。どうやら追い返したい様だ。

 俺たちについて通達が来ていないのか……いや、あれからかなりの時間が経過している

 。ダイニーでんでんを知らなければ連絡の遅延も、そんなものかと納得出来たのだろう。


『マスター、騎士達から強い魔素反応です!』


『やはりか……』


 ティーが珍しく吠えたので、俺は確信した……こいつらシェイプシフターだ!

 俺は大人しく引き下がるふりをしてきびすを返すと、ナーゲイルを召喚して振り向き様に横凪ぎに斬りつけた。


「貴様ぁ、何をする!」


 斬り付けられた騎士たちが怒りの表情でこちらを見据えて抜刀する。だが、切り裂かれた鎧の隙間から流れる血の色は緑だ。


「やはりシェイプシフターか、調査に来た騎士たちを喰ったな!」


 騎士達の目が爬虫類のそれへと変化した。


「最初の奴らと同じく、無理やり屋敷に踏み込もうとするからだ。貴様らにも同じ運命を辿って貰おう!」


 騎士が手にした小さな角笛を吹き『ブロロー!』と低く小さな音が響くと、屋敷の中から武器を手にしたオークやゴブリン達がワラワラと蜘蛛の子を散らす様に涌き出てきた。


『サクラ、プラズマレールガン発射!』


「了解です。プラズマ超電磁砲レールガン、発射っ!!」


 CGのサクラが勢い良く前方へと指を差すと右側面に設置されていたバズーカ砲の様な物から野球のボール位の火の玉が高速で打ち出された。

 プラズマ火球は回りの酸素を取り込んで急速に巨大化する。そばを掠めただけの騎士二人が一瞬でちりとなった。


 更に、屋敷から飛び出してきたゴブリン共を巻き込んで塵にすると、そのままドリアードへと迫る!

 ドリアードは鉄鋼製の門と石で出来た塀を腕のように使い防御体制を取るが、火球は防御した鉄鋼の門と石塀の腕を粉砕して魔樹木本体に命中した。


「ギギガガギョゲ━━━━ッ!」


 鉄鋼の門と石塀で出来た左腕は消し飛ばしたものの、そこで若干火球の角度が変わったのかドリアードの顔であった屋敷の二階と三階の左半分を吹き飛ばすにとどまった。


 だが、それだけのダメージでもドリアードは絶命せず、悲鳴というか、奇声の様なモノを上げて右腕を振り回しのたうち回る。

 奴が暴れたとばっちりでレールガンの攻撃から逃れた魔物たちも、振り回した腕に叩き潰されたり、吹き飛ばされたりして、次々と塵に変わっていく。


 火球が通過した時の衝撃波で吹き飛ばされた俺と騎士たちは尻餅を突いたまま、呆然とその光景を眺めていた。


 いやいや、あの威力の武器━━自動販売機には必要無いだろ。未来の日本はどれだけヒャッハーな世界になってしまっているのだろう。とても心配だ。


 俺以上に驚いていたのは、俺と同様にプラズマ火球の衝撃波で吹き飛ばされた騎士たちだ。一瞬で二人の仲間を失い、自らも尻餅をついたまま粉砕されたドリアードを呆然と見ている。


「な……なんなのだあれは? 貴様らは何者だ!?」


「あれは未来の世界の魔法さ。俺の名前は日比斗、勇者【日比斗ひびと】だ!!」


 自分で自分の事を勇者とか言っちゃうのはとても恥ずかしい。だが、これも俺の正しい名前を広める一歩なのだ。間違った名前が広まらぬ様にコツコツと続ける草の根運動なのだ。


「なんだと! 貴様があの勇者ビ━━!!」


 俺は騎士の胸にナーゲイルを突き刺すと、シェイプシフターは最後の言葉を発する事なく、鎧と人皮を残して塵となり崩れ落ちた。


 俺の名は【ヒビト】、そしてコレは間違った名前が広がらぬ為の、草の根運動なのだ。間違った情報を広める者たちを修正していけば、きっとエルムやシスターモモも正しい名前で呼んでくれる日が来るに違い無い……。


 俺は生き残ったもう一人の騎士を見据えると、奴は目が泳いでいて完全に怯えていた。


「何故だ、なぜ人間が魔法を使えるというのだ……ゆ、勇者ひっ、ビート!」


「イントネーションが、ちが━━う!!」


 俺は騎士を鎧ごと、一刀のもとに切り裂くと緑色の血を撒き散らし、崩れる様に塵となった。

 そばで俺の発言を聞いていたサクラとティーが苦笑している。だが、それでも俺にとっては大問題なのだ。いつかは正しい名で呼ばれる日を信じて。


『ささやかなプライドが限界突破しました。』


「ささやかなとはなんだ━━!」


 俺の叫びに皆が驚いている。まただ。また俺にしか聞こえていないあの声だ。

 あの声が何かは分からない……だが、あれは【勇者の証】時と同じ━━━━。


『マスター!』

「オーナー!!」


 サクラとティー、二人の声にハッとした俺の前に剣を振り上げた豚鬼オークが迫る。あわてて足をもつれさせ転倒した事でかろうじてオークの攻撃を避ける事が出来た。


転倒した俺にオークの次の攻撃は、すぐ目の前に迫っていた。体を捻ってギリギリかわせるかどうか!?


 だが、振るわれた剣は俺に届く事はなく、オークの顔面で何かが爆発した。


「ビート様っ!」


 シスターモモが手にした投石器から放たれたマイマインがオークの顔面に命中したのだ。


「ビート様、まだ戦闘中です。油断しないで下さい!!」


「す、すまない」


 彼女の叱咤で反れた気が元の状態へと戻った。本当にフィーにはいつも助けられる。


 俺は気合いを入れ直し正面を見据える。


 大ダメージを与えたとはいえ、ドリアードはまだ健在。屋敷から現れたオークやゴブリンはまだ数十体残っている。


「サクラ、まだざこの数が多い。何か制圧戦向けの武器はあるか?」


「はい、オーナー。威力はだいぶ落ちますが、波動荷電粒子機関砲パルス・レーザーガトリングホウがよろしいかと」


「オーケー、十分物騒そうだが、そいつで行こう! フィーとエルムは後方から援護頼む。行くぞ!!」


「了解です!」

「はい!」

「おっけー!」


 サクラはレールガンを収納すると、小型の砲門が六つ組み合わせられたガトリング砲を取り出し構えた。

 俺はナーゲイルをを握り締めると前方でこちらの様子を伺っている魔物たちに向かって走り出す。


 俺に続いてキャタピラを唸らせて走り出したサクラは、すぐに俺を追い抜いて魔物たちに向かってレーザーガトリング砲を斉射し始めた。


 撃ち始めてすぐに残った魔物たちを片付けてしまい、気合いを入れて飛び出した俺の出番はゼロである。エルムとシスターモモも何もする事がなく苦笑で見守っている。


 俺にはいつも通り経験値がほとんど入らない展開だ。


 敵を全て片付けて振り返ったサクラは『どうですか、誉めて下さい』と言わんばかりの笑顔でこちらを見ている。俺的にはがっかりだが、仕方ない。良い仕事をした従業員を誉める……コレもオーナーの勤めなのだ。


「サクラ、良くやった。残るはあのデカブツだけだ」


 俺は今度こそとばかりに握り締めたナーゲイルを正面のドリアードに向かって放り投げた。

 いつもの様にやいばつばを変形させてクルクルと回転しながらドリアードに向かって飛翔して行くが、振り回した右腕に叩き落とされてしまう。


 もう一度投げつけたが、やはり右腕で防がれてしまった。


「くそっ! サクラ、もう一度プラズマレールガンを撃てるか?」


「はい、オーナー。あと2発撃てます。ですが、その後は聖光充電フルチャージが必要となります」


「よし、まずはあの邪魔な右腕を吹き飛ばし、あの化け物に止めを刺せ!」


「了解です! プラズマ超電磁砲レールガン展開準備!!」


 サクラがガトリング砲を折り畳んで、レールガンを展開中にそれは起こった。

 ドリアードの周囲に空気中から集まる様に五つの水の玉が出現した。それらは急速にその大きさを巨大化させると、サクラに向けて次々と発射された。


「ナーゲイル、最大範囲で防御結界を展開しろ!」


 俺は叫ぶと同時に水球とサクラの間に割って入ると、最大範囲で防御結界を発動させた。

 サクラのプラズマレールガンが発射されたのと同時に水球による攻撃が防御結界を軋ませる。


 サクラの発射したプラズマ火球は見事にドリアードの右腕を粉砕した。またドリアードの放った高圧の水球も全てナーゲイルの防御結界で防ぎきったのだった。


「よし、サクラ! トドメの一撃でドリアードを粉砕しろ!」


「了解です。プラズマレールガン発射!」


 高速で射出され、確実にドリアードを撃破するかと思われた火球はドリアードには届かず、何故か直前で大爆発を起こした。その爆発は俺やサクラの元まで及び、爆風で俺達の後方にいた馬車とエルムたちまで吹き飛ばした。


 俺は防御結界を展開したままサクラを後ろに庇ったのだが、それでも数メートルほど飛ばされて一瞬だが気を失った。


「オーナー、しっかりして下さい!  オーナー!!」


「あ、ああ……サクラすまない。俺は気を失ってたのか?」


「はい、数秒ですが。」


「何がどうなったって言うんだ」


「申し訳ありません。ドリアードの使った水系の攻撃でこの付近の水分濃度が急激に上昇した為、高温のプラズマ火球と反応して【水蒸気爆発】を起こしてしまった様です。この程度の事にもすぐに気が回らず、オーナーを危険な目に合わせてしまい、誠に申し訳ございません」


 俺はすぐさま起き上がると、皆の無事を確認する為に馬車の方を振り向いた。


爆風により木々がへし折れ、馬車も横転しているが、エルムとシスターモモは無事の様だ。

『大丈夫かー?』と声を掛けると『だいじょうぶぅ』と手を振りながら二人の返事が返ってきたのだ。


 俺は改めて周りの状況を確認する。


 ドリアードは沈黙している。今の爆発で絶命したのか、枯れ木の様に乾燥した状態で萎びている。

 この屋敷へと続く一本道は、俺達の少し先から倍以上の広さへと変貌していた。道の両側を彩っていた木々は、焼かれたり、なぎ倒されたりでひどい在り様だ。


 街道へ続く道の入口には、先ほどの爆発音を聞き付けたのか騎士が数名集まり始めていた。


 ヤバイなぁ、この状況どうやって説明しよう。俺たち以外誰も生存者がいないので、どうみても貴族の別荘を荒らしている不審者にしか見えない。しかも、シェイプシフターが着ていた騎士たちの人皮と鎧が残っている。最悪俺たちが殺人犯にされてしまうのでは無かろうか?


 俺の心の声が念話で届いてしまったのか、全員苦笑気味だ。


 そんな時だ、ティーが急に叫んだ!


『マスター、ドリアードの地下深くに強い聖光反応! 誰かが地下で戦ってるのかも知れません』


「生存者がいるのか!? ラッキー!!」


 俺は近づいて来る騎士たちへの対応をシスターモモ達に任せると、ナーゲイルを握り締め廃墟の様になったドリアードに向かって走り出した。




 ━つづく━



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 更新かなり遅くなりました。申し訳ありません。

 最近書く為の時間が非常に短くしか取れなくなっており、更新に時間がかかっています。

 コツコツと書いていますのでまた読んで頂けると嬉しいです。

 お待たせしてすみませんでした。

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