夢は、しょせん夢だよ
「おーっぱい♪ ぱいぱいぱい♪ ステキなモノだよ♪
おーっぱーい♪ ぱい♪」
「ねえ、シンイチ…… なにバカなコトを歌ってるんだい?」
「バカはキミの方だよ。
せっかくのチャンスをあんな形で。僕の教育方針が間違ってたのかな」
「まあいいや、その事は。あれは僕も失敗したって思ってるから。
で、ここはドコなの? 真っ暗でなにも見えないし……
――夢ってわけでもなさそうだ」
「相変わらず感は良いね!
目覚める前のまどろみの中に、僕が直接コンタクトしたのさ。
夢の中だけど…… ちょっと特殊なフィールドかな」
「シンイチは、生きてるの?」
「キミと同じだよ。転生? 移転かな?
第二の人生をココで謳歌してるよ」
「どこにいるの?」
「まだキミの手の届かない場所さ。
こうして意識が不確かな時だけ、話しかけることができる」
なんだか納得がいかないし…… 上から目線が、ちょつとムカつく。
――なら、探るしかないか。
コンタクトしている以上、ラインは繋がってるはずだ。
脳内でネズミ生成して、声のイメージや方向性からサーチをかける。
でも、暗闇で手探りしてるみたいで、なかなか掴めない。
高度なセキュリティでもかけてあるのか……
僕が破れない? ああ、相手がもし本物のシンイチならありうるか。
悔しさで歯を食い縛ったら、僕のポケットが薄く金色に輝く。
――あのドラゴンがくれた石だ。
わらをもつかむ感じでそいつを握りしめ、もう一度トライする。
なにかが少し割れた手ごたえがあった。 ……でも、まだ足りない。
ネズミをさらに改良する。そう、イメージはドラゴンだ!
――でも、生成が間に合わない。
時間が必要だ。話を引き延ばさなきゃ……
「じゃあ、何故こんなことしてるんだ」
焦りを隠して、声を出す。
「僕はね、今神様のまねごとのようなコトしてるんだ。
キミと直接話をするつもりはなかったんだけど、そうも言ってられない事情ができてね」
「あの2人の自称神様は、シンイチの仲間なの」
「仲間というか、部下というか。
それ以上は、まだ話ができないな」
「だいたいシンイチが神様なんて、ガラじゃないよ。
そんなのをしている事自体が謎だ」
「状況はせっぱ詰まっててね…… 僕もやりたくてやってる訳じゃないよ」
「いったいどんな状況だと、神様になるんだよ」
「そうだね…… キミは『魔法』って何だと思う?」
「命令系統しか読んでないけど。
エネルギーの物質化や操作を『思考』で行う術だ」
「正解! 生徒としては相変わらず素晴しいの一言だね。
でも、そんなことしたら物理法則が捻じれるだろ。
そのしわ寄せはどこに行くんだろう?」
「そんなひっかけ問題には乗らないよ。
そもそもの法則が捻じれてるから、魔法が存在するんだ。
だから魔法を使っても、しわ寄せなんてできない」
「おしい…… 半分だけ正解だ。
この世界。 ――この星って言えば良いかな? は、重力が狂い過ぎてて、いつバーストしてもおかしくない状態なんだ。
今はギリギリでバランスが取れてる。なぜだと思う?」
「はっ!? まさか負のエネルギーが存在してて、それが理由とか?
――アレは理論的な仮説だろ。
重力のバランスが取れなきゃ、球体は維持できない。
すぐに超新星みたいになって、ドカーンだよ」
「でも球体を維持してる。
それに魔法のエネルギーは何種類もあって、あれだけ大きな変化をもたらすのに、燃料の備蓄先があいまいだ。
――じゃあ、こう仮説してみたら?
そもそも程度の差こそあれ、負のエネルギーは星のバランスをとるために存在してる。
ただ、重力の影響下では観測しにくい。
そして、魔法のエネルギーは、その正と負のエネルギーのバランスを意図的に狂わすことでおこなわれる。
だから魔法文明が発達すると星の寿命が縮まり、危機が訪れる…… とか」
「話が飛躍し過ぎてるし、論理の穴が大きすぎて突っ込むことも出来ない」
「まあ、その辺は事実を見ながら感じてくれ。
キミなら必ず答えにたどり着くはずだ。そしたら、あらためて迎えに来るよ。
そうそう、その前に『最も美しいプログラム』の謎も解いときなさい。
じゃないと、おちおちおっぱいも揉めやしないよ」
「おっぱい?」
「そう、おっぱい。あれは素敵なモノだ!
世界の真理のひとつと言っていい」
シンイチの声が消えかかったから……
僕は急いで新型のチェイサー・プログラムを、サーチした方向へ放つ。
完全にセキュリティを突破できなかったから、コレは賭けだ。
――届いてくれ、
■■ ■■ ■■ ■■ ■■ ■■
そこは、12畳ほどのウッドハウスだった。
僕はベッドの上に寝てて、横には葵さんが椅子に座ったままうたた寝してる。
部屋の入り口ではローラさんが、同じように椅子の上で寝ていた。
寝返りをうつと、葵さんが目を覚ます。
「ここは?」
「森人の家、あなたが気を失ったから…… 連れて来たの」
「ありがとう、看病してくれたの?」
「――うん」
僕が起き上がろうとしたら。
「あのね、変な夢を見たの。
あなたの知り合いだって言う人と3人で、変な森でお茶会を開いたり。
高校の頃…… あの屋上で言いかけたことを……」
僕は、そっと葵さんの口の前に人差し指をさした。
「夢は、しょせん夢だよ。
――それより、現実のことを話そう。
これからどうするかとか、葵さんが何をしたいかとか。
なにか僕に聞きたいことがあるんだったら、それでもいい。
とにかく、話をしよう」
きっと、そこからじゃないと前に進まない。
葵さんがコクりと頷いたのを確認して。
「ねえ、葵さんは後悔してない?
今のこととか…… この世界に来ちゃったこととか」
僕は一番心配してたことを聞いてみた。
「ぜんぜん。 ――確かに前の世界の友達や家族のことも気になるけど。
今は楽しい。こうして…… あなたといると」
葵さんが僕の手を握って、ゆっくりと顔を近づけてきた。
――次は間違えない。
できるだけオッパイを意識しないようにして、僕は手に力を入れた。
その瞬間、ドキドキが勝手にどこかへ流れ出し……
なにかがどこかで輝いた気がしたけど。
――うん、今は葵さんに集中だ。
「あのさ、雰囲気いいとこ悪いんだけど……
――あれ、あんたがやったの?」
不意にローラさんの声が聞こえて、僕たちは距離を取った。
僕はローラさんが見ている窓の外に目を向ける。
「んー、無意識だけど。そうかもしれない」
どうやらこの家は木の上にあるようで、窓からは森が見渡せた。
日が昇り始めたそこには、多くの妖精が楽しそうに歌いながら飛び交っていた。
木々にリンゴやバナナやメロンが「ポンポン」と音を立てて生り始め……
――花々は、キャンディーやクッキーを包装紙ごと実らせている。
「だったら早めにやめといた方が良いかもね」
ローラさんの言葉に、あわてて森にパスを繋ぐ。
その作業中、現状把握のためにいくつか検索してたら。
「あっ、どうしよう」
ちょっと困ったデータを見つけてしまった。
「どうしたのよ…… また何かやらかしたの?」
ローラさんが、ため息つきながら聞いてきた。
えーっと、どう説明すればいいかな?
「どうやら、神様を飲み込んじゃったらしい」
ジャバウォックの腹の中に、4体の異物がある。
うっかり魔王様と、いけ好かない少年、それと同じ波長をもつ知らない人。
――そしてもうひとりは、シンイチだろう。
「そう…… で、どうすんの?」
ローラさんがさらに深いため息をつきながら、こめかみに指をあてる。
さて、どうしよう。
葵さんのしたいこと、ローラさんがしたいこと。
そして僕がやらなきゃいけないホントのこと。
手探りでいいから、探していかなきゃな。
まあ、この星のことも、少しは考えてみるか。
「とりあえず、朝ご飯でも食べながら3人でゆっくり話し合わない?」
だって外には、食べきれない程のフルーツがてんこ盛りなんだから。
そのぐらいの時間は……
――この星だって、きっと大目に見てくれるはずだ。
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