美少女をひとり、いただきました

気を失って縛られてるイケメン剣士と、青髪のスレンダーな美少女。

僕が心配そうに2人を見ていたら。


「安心おし、フェニックス団は殺しはやらないのさ。

たまーに、強欲な商人や貴族から金を巻き上げることはあっても、基本うちらは『旅の一座』だからねー」


ドーバー座長が、鳥っぽく「くっくっく」と笑った。

相変わらずとさかがキュートだ。


「じゃあ、これからどうするんですか?」


「こいつらは、ここに繋げとけば後から来る商人か、街から来るヤツらかが拾っていくさね。

その前に、あたいらは逃げるとするさ。

どうも正体がばれてるようだから…… ほとぼりが冷めるまでは、どっかで身を潜めるしかなさそうだけどねえ。

――だからぼーやとは、ここでお別れだ」


この戦闘でけが人は出たけど、命に別状はなかったようだ。

今、回復師と呼ばれる魔術師さんが怪我の手当てをしてる。


「そうですか…… 少し寂しいけど、今までありがとうございました」


「礼を言わなくちゃなんないのは、あたいらの方さ。

120年生きてるが、あんな魔術を見たのは初めてだよ。アンナから聞いたが……

未だに上手く理解できないねえ」


アンナさんはなぜかあれから、僕にペッタリと寄り添っている。

胸の件を謝っても。


「いいよいいよ、あれはあれで、ほら…… す、凄かったから」

とか言って、顔を赤らめるだけだ。


――ハッキングの副作用で、頭が変な風になってなきゃいいけど。


僕が仕込んだウイルスは瞬く間に拡散して、僕の想像を超えて……

イケメン剣士までひっくるめて、敵味方関係なく全てを行動不能にした。


その後ひとりひとりワクチン・プログラムを投与する方が。

時間がかかったぐらいだ。


――まだまだ検証が必要そうだな。


ここは、とっさの見切り発車で上手く行った事を喜ぶだけにしておこう。

ビギナーズラックが何度も続く訳が無いから。


「そうだ、礼の代わりと言っちゃなんだけど……

ローラの面倒をみてくれないかね?

あの娘は前の街で、主人に逆らったせいでひどい目にあってたところを、あたいが買い取ったのさ。

このまま盗賊にするのも可哀想なんで、次の街で良い主人を探そうと思ってたんだけど、ぼーやになら任せれそうだ」


「買い取る?」


「ローラは『罪人奴隷』なのさ。刑期がまだ7年以上残っててねー。金銭開放もできやしないし…… 困ってたところさね。

アンナ、ローラを連れてきてくれないかね」


アンナさんはドーバー座長の言葉に頷くと、ローラさんを探しに行った。


「ぼーや、手を出して」


僕が手を差し出すとドーバー座長はそれを握りしめ、呪文を唱えた。

また頭の中に『呪文』の文字が入り込む。


「これで、ぼーやが主さね。どうか、ローラを可愛がってやってくれ。

なんでも、先の戦で正規軍にいた時の懲罰が奴隷に落ちた理由らしいが……

真っ直ぐで良い子さね。

それに、戦闘の腕も立つ。

ボディー・ガードにもなるだろうから、ぼーやも安心さね」


そう言ってドーバー座長は、優しく笑った。


「姉御! ローラを連れてきたよ」

アンナさんと抱き合うと、ローラさんは少し不貞腐れた顔で僕の近くまで来た。


「それじゃあ、ぼーや」

ドーバー座長がもう一度ニコリと笑って、無事だった馬車に乗り込む。


「ぼーやも、ローラも、元気でね」


アンナさんが手を振りながら、馬車に乗り込む。

僕とローラさんがそれを見送ってると、徐々に団員がホロから顔を出して……


――やがて全員で、僕たちに向かって手を振ってくれた。



■■ ■■ ■■ ■■ ■■ ■■



とりあえず僕たちは、次の街「サイクロン領」に向かって歩き出した。

勢いでローラさんを引き受けてしまったが……


――よくよく考えてみたら、とんでもない事をしてしまった。


いきなり奴隷とかって言われても、対応に困る。

だいたい、普通に女の子としゃべるだけでもハードルが高いのに。


振り返って、僕の後ろを微妙な距離でついてくるローラさんを確認する。

気が強そうなツリ目に、真っ赤なウエーブのかかった赤髪。

均等の取れたスタイルに、整った顔立ち。


うん、超美少女ですね。


そっぽを向きながら無言で歩く姿は、前世同様僕にとっては、同い年の女の子の平常対応なんで…… 安心の仕様なんですが。


それでは、この後いろいろ困るだろう。


そう、ここはコミュニケーションってやつだ。

粋なトークで彼女のハートに急接近!

できればなんの問題も無いんだけどね……


まあ、とにかくやれるとこから1個ずつやってみよう。

女の子に限っては上手くいったためしがないが……


それが僕の信念なんだから。


「ローラさん」

「……」

「まず、街に行ってなにかしたいことはありますか」

「特に」

「あっ、じゃあお腹空いてます?」

「別に」


――うん、やっぱり安定のクオリティーですね。

ホント、どうしましょ?



ほぼ無言のまま1時間ほど歩くと城壁があり、そこを通り抜けると繁華街のような場所に出た。

辺りはもう薄暗くちょうどお腹も減ってきたから、食事ができそうな店を適当に選んで、とりあえず入ってみる。


店はレストランと言うより居酒屋のような場所で、やたらスカートの短いウエイトレスちゃんが数人、ジョッキや料理の皿をもって店内を走り回っている。


「お酒頼んでもいい?」


ローラさんの伺うような言葉に。

「いいよ。今日はパーッと行こう」

にこやかに答えたつもりだが、相変わらず嫌な顔された。


メニューを見ても、やっぱりなにが書いてあるか分かんなかったから、それをローラさんに渡す。


猫耳のウエイトレスちゃんを捕まえて、ローラさんのオーダーの後。

「お勧めの食べ物適当に。あ、僕はお酒要りません」


そう伝えたら、「あいよ!」と、元気に猫耳ウエイトレスちゃんは去って行った。

ジョッキや料理が運ばれてきても、ローラさんはしゃべらない。


「えーと、明日からなんだけど」


たまにチラッとこちらを向くが。

ふてくされた様にグイグイとジョッキを空けるだけ。


飲むペースは結構早く、料理もほとんど手を付けない。


「観光とか」


グイグイ……


「買い物とか」


グイグイ……


「あっ、そうだ! とりあえずルールみたいのを作ってみるとか?」


グイグイ……


まあ、だいたいこんな感じだよね。

何かを期待した僕がバカでした……


「明日の事は明日決めればいいわ、と、とりあえず……」

ローラさんはそう言うと。


ガタンとジョッキをテーブル置いて。

「こ、今晩どうするのっ!」


目が座ってます、目がっ。顔も真っ赤だし、飲みすぎじゃね?


「僕もその、宿は決めてなくて。ここに来てからその。

――宿泊施設に泊まったことないし」


超言い訳モード発言しました!

だってなんか怖いし。


「宿屋なら、ここでもやってんじゃないかな。それより、あたしをどうするの?」


まあ、この先の「食」と「住」の不安ってあるよね。

頼れるのは、僕だけの状態になっちゃったんだし。


オーケー! それも男の甲斐性なんだろう! たぶん。


猫耳ウエイトレスちゃんを捕まえて、

「すいません、ここって宿泊やってます?」


「ええ、もちろん」

ニコニコ笑顔が僕を超癒してくれます。


「今晩2部屋空いてますか?」

「えっと、どうかな? マスターに聞いてみますねー」


猫耳ウエイトレスちゃんの走り去る後姿を目が追ってしまう。あの見えそうで見えないスカートの長さは実に絶妙だ。しかも腰のあたりからしっぽがフリフリ……

もうどうなってるのか? 異世界ファンタジー究極の謎のひとつだろう。


ついついエロい目でソレを追ってしまう。

ローラさんが僕の顔をみて、また鳥肌を立てて、ジョッキを一気に空けた。


「そんなに急に飲むのは良くないよ」

「ふんっ」


こんな状態で、大丈夫だろうか?

――いろいろと心配だ。


「お客さん! 2部屋は無理だそうですけど、ラッキーですね。

さき程キャンセルが出た大部屋があって、2人ぐらい余裕で泊まれて。

しかも料金半額!!

なんてのがあるんですけど、どうします?」


「そうですか」

他の宿屋を探すか…… 


さすがに女の子と同じ部屋はまずいだろ。

しかもローラさんは随分僕のこと嫌ってそうだし。


「マスター言ってたけど、キャンセルが出る前に他の宿から問い合わせがあったみたいで、急がないとお客さんたち、今夜野宿しかないかも! ですよ」


「じゃあ、お願いします」


しかたない。ローラさんに泊まってもらって、僕はどこか別の場所を探そう。

こんなに大きな街だ、宿屋が見付からなくても……

朝まで時間をつぶす店の1つや2つはあるだろう。


「まいどー」

猫耳ウエイトレスちゃんが魅惑のしっぽフリフリで去って行くと。


「こっ、ここんばんは、ここここに泊まるのね」


覚悟を決めた様にローラさんが聞いてきた。

でもちょっとラリッてて、なんかいろいろ怖いです。


「宿も決まったことだし、楽しく食事しよう」


でもローラさんは僕を無視してグイグイ、グイグイ飲んで……

飲みすぎて、酔っぱらいすぎて、とうとうブッ倒れました!




もう、どうすんの…… コレ?

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