第三話 黄

eins

 誰かに愛されるという事は、こんなにも素晴らしい事だったのか。


 彼に包まれていると思うと、至福というものを全身で感じて心が浮足立った。

 先日までは私の事など世間の誰もが見向きもしなかったし、たまに誰かが興味を持っていたとしても、それはうとましがっていただけであり、好意的に私を見る人などいなかった。

 そして私自身周囲の人をなんとも思っていなかった。


 そんな私の姿を一匹狼と評した彼はなかなかの皮肉屋ではあったが、私の心の雪を溶かすべく訪れた春の様であり、その温かさは私の人生で初めて感じる感覚であった。


 私は幾度目かの人生において遂に見付けた彼の許で、生を死んでいくのだ。


 この事実を彼女に伝えたかったのだが、いつの間にか彼女は眼前から姿を消していて、私は彼の手に抱かれたままで周囲にさり気なく注意を配ってみたが、結局彼女の気配を見付ける事は出来なかった。

 彼女は以前から異世界の住人然とした匂いがしていたので、きっと彼女は私の事を導いてくれた天使や神のたぐいだろうと今でも信じてやまない。

 彼女はこの世界における存在感というものが希薄きはくであるのに、それでいて妙に心の深くに印象を植え付けるものを携えていて、それはすなわち天使や神に通ずるものであるとしか私には思えないのだ。

 馬鹿げていると思うかも知れないが、実際に彼女を見てみたら分かる筈だ。

 それだけ彼女は浮世離れした女性なのだから。


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